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其は微笑みの代価  作者: 千代田 定男
第三章 復讐者
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第十六話・真実の色(B)

「……つまり、あなたからすれば、王都も、隔離地域も、同じということですか?」

「違いはあるさ」

「おや、いったいどっちなんです」

「カンパニーさ。あこぎすぎるんだよ」

「ああ、そういう……ですが、金に色はありませんよ」

「血で染まれば簡単には落ちん」

「わからなくもないですがねぇ」

「朱塔。絶対的な父権社会など、つくってみたところでなにも変わらん。巷間に気高い意思などありはしない。必要ないからだ」

「反論はありますが、それ以上に誤解しないでいただきたい。私はそんな潔癖ではありません。むしろ逆なのです。私が王制にこだわるのは、愚物が愚物であれる、俗悪が許される社会のためです」

「愚行権、とか言ってたやつか」

「はい。ですが、厳密にはそのように啓蒙したものではありませんよ。固定すればそれ以外ができてしまう。弁証法ですね。それを防ぐための絶対的な箱をつくるのです。はみ出しようのない強固な境界線で囲うのです。誰一人漏れない社会、それが私の目指す王制です」

「独裁だ。どれだけ見下す」

「あなたのもナルシシズムです。どこまでエゴイストなのですか」

「自分にかまけるだけのノンポリの方がまだマシだ」

「ううん……評価を変えます。あなたは、まだどこかで自分だけが綺麗だと思っているんですよ。正義の側でありたいと思っている。正義性を否定されながら、まだ認めることができないでいるのですよ。それは傲慢というものです」

「なら、おまえは嘉島や澤本を許容できるのか? おまえならわかっているだろう? 澤本はいま、おまえの側にいる」

「もちろん把握していますよ。澤本は必ず除去します。彼だけではない。排除しなければならないものは、あらかじめ排除します。同情はしてもね」

「それで幸福な世界になるのか?」

「良し悪しはどうでもよいのです。どちらにしろ、非日常はいずれ日常になります。今もそうでしょう? でしたら、私は根底に宿りたい。それだけのことなのです」

「勘違いしているぞ」

「なにがです?」

「嘉島の計画におまえは乗れない」

「それはどういう意味で?」

「嘉島はファントムをブラフには使わない。そのまま解き放つすもりだ」

「それは結構ではありませんか。飾りではないのですから、使えばいい」

「違う。無差別に使う気なんだ。殺すためのサイクルを確立して殺し続ける」

「馬鹿も休み休み言いなさい。いったい、どんな理由でそんなことを?」

「理由は簡単だ。ヤツが嘉島杉光だからだ」

「あなたは彼がそんな人間に見えるのですか? 元上司でしょう?」

「見えるとも。元部下だから断言できる」

「あなたはゼ号を引きずりすぎです。あれは――」

「これはヤツなりの、もう一つのゼ号の続きだ」

「ふう……信じるわけがない。彼は誰よりも理性的です」

「理性的に見せているだけだ。さもなきゃ開門計画に固執しない。他にも交渉材料は用意できたはずだ」

「他になにがあると?」

「最初におまえ達がやろうとしていたことだ。区長のことで糾弾すればよかった。それが普通の選択だ」

「それで勝てるわけがないでしょう」

「勝つ? 開門計画でカンパニーに勝つつもりでいるのか? どうやって? 正論をかざそうというのなら、なぜあんな非人道的なものにこだわる? あれはおまえが予想していたものとも違ったはずだ」

「それは……」

「それだけじゃない、そもそも使ってどうする? 結果は同じだ。結局は交渉することになる。なのに、そうしなかった。なぜだ? 嘉島はカンパニーと交渉する気などさらさらないからだ。あいつの目的は殲滅戦なんだよ」

「カンパニーへの反逆はデタラメだと?」

「いいや。だが本心でもない。正確には、ヤツはカンパニーなど眼中にない。他の奴の目がカンパニーに向いていて、カンパニーの目もこっちに向いていた。それだけだ。邪魔だが、しかし利用できる。ヤツにとってのカンパニー評はそんなところだ」

「なら、目的はなんです?」

「さっき言った殺しのサイクル。それで全てだ」

「なぜそう言い切れるのです?」

「そうに決まっている」

「ふ……ん……やはり主観にすぎない」

「ならば言っておく。ヤツは自分自身を完全能力者にする気だ」

「なにをおっしゃるかと思えば」

「能力を発揮するためには特殊な才能が必要だ」

「ええ。それを覆すのがファントム。感応細胞を用いることで、擬似的に能力と感応を共存させた形です。言わば、生けるアームランサーですね」

「ヤツが欲しているのはその力だ」

「ああ、彼も高度適応者でしたね。そうすると、なんでしょう、ファントムの遺伝子に自身を選ぶとか? 残念ながら、ジーンモデル設計用の候補はすでに決まっています」

「そういうことじゃない。直接手にしたがっている。手段はわからないが、もっとおぞましくて、穢れた発想をするはずだ。ヤツならな」

「このさい、具体性がないことには目を瞑りましょう。そして、もし、その予想が当たっているなら……場合によっては、あなたについてもいいでしょうね」

「覚えておけよ、その言葉」

「人にものを頼む態度ではなかったということも、覚えておきましょう」

「待て」

「まだなにか?」

「せめてフヂナには――」

「ご心配なく。私は私で、ちゃんと考えてます」

 朱塔が席をたとうとしたとき、部屋の外からもみ合う声が聞こえた。

 朱塔の部下が誰かを取り押さえている。その声を聞き、朱塔は扉を勢いよく開いた。

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