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〈55〉シェルター

 翌日、地震発生予定時刻は午前10時だった。避難警告のサイレンが鳴り響く。


「みんな、準備は大丈夫? そろそろ来るよ!」


 二階の博士の部屋に集まる。

 家財道具はすべて低いところに置き、電気も消していた。


 ――ぐらぐら……ぐらぐら……


「来た」

 雅也がつぶやく。


 ――ぐらぐらぐらぐらっ!


 大きな揺れが来た。みんな窓から離れてしゃがみ込む。


「こりゃでかいな!」

「ガラスに気をつけろ!」


 良助と玲が叫ぶなか、外から何かが倒れる音、ガラスが割れる音が聞こえる。


 大きな揺れが数十秒間続いたように感じた。


 やがて、待ちに待った静寂が訪れた。


「おさまった?」

「そのようだ」


 玲の返事に真奈美の口から安堵の息がもれた。


 そのまま窓際に立ち、外を眺める。


 そこには果たして、昨日モニター越しに見た光景が広がっていた。


「見事なもんだな、これだけ当たるとは」


 玲がつぶやく。みんな、自分たちの周りに博士が立っている気がした。


「あ、わたし、自分の部屋を見てこなきゃ!」


「お、気をつけろよ!」


 良助から声をかけられながらも霞はこっそりメディアカードをポケットにしまい込み、そそくさと抜け出した。



 ◆◇◆



 自分のアパートの前に来ると、建物は完全につぶれ、原形を留めていなかった。


(あちゃー、こりゃダメだわ。昨日荷物をまなみんの家に避難させといてよかったよ)


 そう思ったとき、端末が鳴った。京子からだ。


『霞? 無事?』


「こっちは大丈夫だけど、そっちはどう?」


『忙しくて猫の手も借りたいくらいよ。でも気にしないで。峠は越えたみたい。悪意センサーも壊れてないし。次は余震対策ね。幸いなことにうちのメンバーは負傷者も出ていないし、大学病院に行く者はいないわ』


「そっか、良かった。あと、今このタイミングで通行止めの地域ってある?」


『いくつかあるけど、大勢に影響はないみたい。タクシーはつかまらないと思うけどね』


「わかった。お父さんによろしく」


『余震に気をつけるのよ!』


 連絡を切ると、霞は白衣のまま走り出した。



 ◆◇◆



 余震の中、大学が見えてくると、霞は走るペースを落とす。


(ん? 何かがおかしい!)


 直感が走った。しばらく歩いて小高い丘を越え、急に見晴らしが良くなったそのとき、霞は違和感の理由に気がついた。


(どういうこと? 大学の構内はまったく荒れてない。外の風景とはえらい違いだわ!)


 地割れ一つ起きていないキャンパスに驚きながらも、霞はそのまま構内に入って行った。



 ◆◇◆



「いらっしゃい、来ると思ってたわ」


 研究室のドアを開けると、円卓の席に座る翔子が不敵な笑みで出迎えた。


 霞が向かいの席に座ると、湯気の出ているコーヒーカップをすすめられる。


「わたしが来ることを予知してたって言いたいわけ?」


「まあね」


 微笑を浮かべて自分のコーヒーを飲む翔子に合わせるように霞も一口いただく。それからカップをテーブルに置くと、言った。


「やっぱり避難しなかったの?」


「だってここが一番安全だもの」


「なんで?」


「私がここに来たってことは、そういうことなの。外からミサイル撃ち込まれても傷一つつかないわよ」


「マジで? (そういえば、まなみんの家も)」


「それに――」


「それに?」


「そもそも私、ここから出られないのよ! 本当につまんない! いい男の研究員いるかと思ったら全然いないし。あなた誰か連れてきてよ!」


「えっと、それより教えてほしいことがあるんだけどさ」


「なあに?」


「これを見て」


 霞は自分の端末にメディアカードを接続すると、博士の予知動画を開いた。

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