11話 『終焉を告げる堕天使』
「オヴォロロロォォ……ハァハァ……ヴォッ……ヴォォロロォ……」
馬車に中に立ち込める酸っぱい臭いに鼻を曲げつつも背中を擦る。
「おい、大丈夫か? 頼んで一回馬車停めてもらうか?」
「いや、大丈ヴォロロォォ……」
「大丈夫の定義わかるか?」
俺も詳しくは知らないが、5Lの吐しゃ物を生産する状態を指す言葉ではない事は理解している。
まったく、ミエラがここまで乗り物に弱いとは思いもしなかった。馬車に乗る前は目をキラキラ輝かせてたのに。コイツ乗ったことなかったのか?
「悪いねミエラ、もう少しの我慢だよ。王宮に着けば気分が良くなる薬もあるだろうし、今出ちゃった粗末なご飯以上の物も食べれるはずだよ!」
そのご飯、俺が作ったんだけどな。まあ、粗末なのは否定しないけどさ。
死にかけのミエラが荒ぶる呼吸の中、何とか一言。
「モフモフを……モフモフを頂戴……」
遺言か? いや、単に酔いを紛らわしたいだけか。
「嫌ですけど」
ですよね~。しかし、これ以上室内にこの悪臭を蔓延させるわけにもいかず、俺はやむなくレイクに頭を下げた。
初めは拒んでいたレイクだったが、俺の頼みと理解した瞬間にアルパカにモードチェンジ。テクテクと歩み寄りこれでもかと身体を擦り付けている。
「ああ、モフモフ……モフモフ……モフモ……ヴォロォッ」
俺は再び、深く深く頭を下げた。
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「やっぱり王宮は大きいね~こんなところで暮らせたらな~」
数えられないほどのシャンデリアが続く幅が20メートルはありそうな廊下をウリルと歩く。ちなみに執事的な人が3mくらい前を先導してくれている。
ちなみにミエラは王宮に到着し次第タンカーで搬送、レイクは絶望的な表情で浴場への道を尋ねていた。
実際に見ると想像以上だな。確かにこんなとこで暮らせたら最高だろ。いや、そーでもないな。広すぎて逆に落ち着かない。
そもそもこんな広い家、夜中にトイレ行きたくなったらどうするんだ? 絶対途中で力尽きて諦めるんじゃないか? 何をとは言わないが。
「あ、今、こんな広い家、夜中にトイレ行きたくなったらどうするんだ? って思ったでしょ?」
「別に?」
なんで急にテレパシー発揮してきてんだコイツ。
「まあ、トイレはどうだか知らないけど、確かに暮らすのは大変そうだね。さてと。着いたみたいだよ?」
目の前には大きく、豪華な装飾が施された門が。執事がこっちを向いて立っている。ただ立っている。
「え? 何? 俺達で開けろって事?」
いやいやいや俺達仮にも客人だよ? その客人にドアプッシュを要望するにはどうなの?
しばらく執事の方を見つめるも一切のアクションを起こそうとしない。
「クソッ、いいよやってやるよ」
2つのノブに手をかけ勢いよく押す。
「ぐぬぬぬ……ダメだ。びくともしない」
「押してダメなら引いてみなって事じゃないのかい?」
ウリル、アドバイスは非常にありがたいが、できることなら口ではなく手を動かしてくれ。
しっかりと両足で踏ん張り、今度は思いっきり引いてみる。
「うう……ダメだ。なんだよこれ、どうしろってんだ?」
再度執事に視線を向けるも、一切のリアクションは無い。いや、あるな。見事な鼻提灯が膨張と縮小を繰り返している。
「おいいいいいい! 何寝てんの! この状況で寝るって頭おかしいだろ!! の〇太くんでも少しはためらうぞ?!」
「うるさいなあ、何やってんの? 早く入りなよ」
「は?」
辺りを見回すも声の主らしき人影は無い。まさか執事じゃないよな?
「下だよ下。目付いてんの?」
視線を下げると扉の隙間から上半身だけ出した怪訝な顔の男の子。金色の髪が眩い。
何でこんなところに子供がいるんだ? もしかして王子? てか今分かったんだけど、これ、引き戸だわ。
過去最高のサイズを記録した鼻提灯が弾け飛び、目を覚ます。
「いけませんよ国王様。そのようなはしたない恰好をしては。王たるもの自覚をもって堂々と振舞わねば」
「え~? めんどいじゃん。ほら二人ともさっさと入んなよ。待ちくたびれた」
そう言って扉の奥に引っ込んだ。
今のが王様?! いや、にしては若すぎるだろ?! この王国大丈夫なんだろうな……。
カァン!!
いったぁぁぁぁ!! なんで天井からタライが落ちてくるんだよ! なに? 俺さっきからいろいろと声に出ちゃってるの?!
「大丈夫かい? 王様もお待ちみたいだからさっさと行こうか。どうやらこの扉も楽に開くようだし」
「なんでお前は冷静でいられるんだよこの状況で!」
そんな俺を横目に、さっさと扉を開き入っていく。
「ちょ、ちょっと置いてくなよ!」
急いで後を追い中に入る。
中に広がっていたのは今までとは全く違う光景だった。
床には見たことも無いゲーム機達とそれに対応するであろう数百本のカセット、それらでできた山々が連なり山脈を成している。
壁にはいくつものディスプレイが敷き詰められ、それぞれ異なるゲーム画面が映し出されていた。
「何か飲む?」
中央に置かれた大きなベッドに寝ていた王はそう言って起き上がり、手元にあるリモコンを操作する。
すると目の前にポンッと音を立ててグラスに継がれたジュースらしきものが現れた。
「ん? どしたの? お気に召さなかった?」
ジュースを目の前にプルプルと震えている俺を見かね、そんな事を言う王。
いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだよ王様。
「凄い……凄すぎる!」
なんなんだこの部屋は! 一生かけても遊びつくせないだろうゲームに大きなフカフカベッド、ドリンクバーも完備だと?! これだけ揃ってれば、一生部屋の中で暮らせるじゃないか! 羨ましい、羨ましすぎるそ王様! これがこの国の頂点に立つ者のみに許される贅沢か。うう、いいなあ……。
目の前に浮いているグラスを手に取り一口。
なんなんだこの飲み物! 独特の甘みにこの香り、そしてノドを刺激する炭酸! まるでコ〇ラじゃないか! うん! うん。……ただのコ〇ラだな。
少し複雑な気持ちになっていると、後ろの扉が勢いよく開いた。
「ゼェゼェ……何よこの扉ナメてんの?! 引き戸だなんて聞いてないんだけど!」
汗だくのミエラが息を切らしていた。
お前もかよ。
「しっかりと身に染みた穢れを洗い流してきました。さあ、遠慮なく抱きしめて下さい」
後ろからまだ髪の濡れたウリルが颯爽と入って来る。よくみるとミエラの顔は汗だけではなくツバでドロドロだった。
全員そろったことを確認し、ウリルが話を始めるよう王に促す。
「じゃあ始めようか、『終焉を告げる堕天使』くん」
「「「へ?」」」
「そだね、『ヤバッ、指切った。絆創膏どこだっけ?』くん」
「「「へ?」」」




