10話 『朝食にみそ汁は必須』
「起きろ~! もう8時だぞ~!」
さっき作り終えた朝食の数々をテーブルに並べながら、二階で寝ているミエラに一言。
返事は無い。まあ、いつもの事だが。
仕方なく、まだ少し暖かいフライパンとフライ返しを手に、階段を上がり目的の部屋へ。
「おいミエラ! 起きろ!」
再度呼びかけるも眠れるバカの様子に変化は無い。まあ、いつもの事だが。
俺は布団で覆われてできた奴のシルエットの頭があるであろう部分に向けて、フライ返しを振り下ろした。
フライパンとフライ返しで音を立てて起こす? まさかそんな事でこいつが起きるとでも? 論外だ。
「も、もう食べられないよぉ~」
そんなベッタベタ台詞を吐きながら俺の顔面に蹴りを繰り出すミエラ。しかしそれをフライパンでガード。
周囲に響く鈍い金属音と言葉にならない叫び声。
「あああ……くうう……」
「おはよ」
冷静に朝の挨拶を済ませ、さっそうと階段を下りる俺の背中に、変な粘液でベタベタの枕が投げられるも華麗にかわす。
この家に住み始めてからというもの、ミエラの寝起きがすこぶる悪い。原因はおそらくベッドだろう。前の家ではベットではあったものの、今の物とは違いかなりの固さがあった。
いっそベッド買い替えるか? なんて発想が浮かんだのはつい最近の事である。
椅子に座りコップに水を注いでいると、まだ寝ぼけているのであろう、右目を閉じ、おぼつかない足取りでミエラが部屋に入り、席に着く。
「いただきます」
「……ます」
無言で料理を口に押し込むミエラ。自分で言うのもなんだが味は悪くないと思う。これなら姑に怒られることも無いだろう。
サラダにお手製のドレッシングをかけながら今日の予定を考える。とりあえず料理の材料が無いから買い出しに行って、あと歯ブラシがダメになって来たから替えがいるな。洗剤も切らしてたっけ。今日は確か鍛冶屋横の八百屋は休みだし、せっかくだから最近できたとこに行ってみるか。とするとルート的に肉屋は……
ここまで考えた時、俺はあることに気付いた。
「俺完全に主夫じゃねえかああああああ!!!!」
「ど、どうしたの急に」
この世界に来てそこそこ経つが、俺の知ってるアニメやラノベじゃもう王様から賞の一つや二つ授与されてるぞ? 仮に賞が無いとしても美女とのフラグの一本や二本は立ってるはずだ。対して俺は大きな家で女の子と二人の庶民生活。
一見良さげだが大事なのは関係性だ。彼氏彼女もしくは夫婦ではなく、娘と父、なんなら娘と母状態なのだ。こんなラノベあっていいのか?! いやダメだろ!! 何がよくて異世界に来てまで主夫道を極めにゃならんのだ!!
だいたい俺を召喚した理由から間違ってるんだよ。友達が欲しかったってなんだ? 全然勇者関係ないじゃん。てかこいつホントに俺の事友達と思ってんのか? 完全に家政婦感覚だろ!
ああ、神様! この終わらない日常に終止符を打ってくれる誰かとの出会いを俺に!
涙を流しながら食事を進める姿に戸惑い焦っているミエラ。
なんでこんなやつと……。
「お~い! 久し振り~!」
玄関の方からする声は聞き覚えのあるものだった。
俺が神様に頼んだのは終わらない日常に終止符を打ってくれる誰かであって、日常を非日常に変える化け物をオーダーした覚えはないぞ。
予想外の来客に頬を赤く染め玄関へ急ぐミエラを止めようとしたが、時すでに遅し。俺の制止を聞かずにドアをあけ放つ。
「いやあああああああ!!!!」
急いで後を追うと、そこに倒れていたのは顔が粘液まみれになったミエラだった。そして覚えのある臭いが。
「久しぶりだねユキト。女の子と一つ屋根の下なんて流石だね」
「お久しぶりですユキトさん。お元気で何よりです」
ウリルが居る事は声で分かっていたが、まさかレイクも一緒だと? ことわざで「三人寄れば文殊の知恵」ってのがあるが、こいつらに関しては「三人寄れば厄災の前触れ」とした方が適当だろう。
そんな厄災をプレゼントしてくれる辺り、神様はよほど俺の事を嫌っているらしい。
とは言え、別に二人の事が気になっていなかったわけじゃない。一応パーティーメンバーである二人の状況を気に掛けるのは不自然な事ではないだろう。まあ、この様子から察するに、大した事は起きていないみたいだが。
「お前ら何しに来たんだ? 厄介事ならごめんだぞ?」
「そんな言い草はないだろうユキト。仮にも僕らはパーティーなんだ。メンバーの新居祝い、結婚祝いをしないわけにはいかないだろう?」
ペッ
笑顔を崩さずにツバを飛ばすレイクには少し恐怖すら覚えるが、今はナイス突込みとだけ言っておこう。
「目、目がああああ!」
「お前わざわざそんなこと言いに来たのか? だったらご苦労様。じゃあな」
倒れたミエラを家に引き込み、ドアを閉めようと試みるも、そこにウリルの手がかかる。
「いやごめん冗談だよ! だからそんな閉めようとしないでくれ! いい話があるんだ!」
「いい話……?」
「お! 耳を傾けてくれたね! じゃあとりあえず家の中に招き入れてもらえないかな? 流石に外では話せないんだ」
「……わかった」
扉を開き、いやいやながらもウリルを招き入れる。一応レイクも。
まだ食べかけの朝食をキッチンに移し、空間を作り、席に着かせる。ミエラは二階のベッドへ。
二人が席に着いたことを確認し、一度大きく深呼吸をした後にウリルは口を開いた。
「実は王様直々にクエストを依頼されたんだ」
「は?」
しばらく言葉が理解できなかった。俺の全然予想していない所から「王様」ってワードが出てきたんだ。驚いても無理はないだろ。
「それはもしかして我が家に入るための嘘か? だったらすぐに訂正するんだな。今なら簀巻き滝登りの刑で許してやる」
「いーや嘘なんかじゃないよ。もちろん本当さ。僕の全財産を懸けてもいいよ?」
そう言うウリルの目には一切の曇りが無かった。
これは信じてもいいのだろうか? いや、信じるとしよう。つまりウリルの話は事実。ってことは、俺達のパーティーが直々にクエストを依頼されたって事か?! この問題児集団のパーティーが王様の目に留まるだなんて!! このクエストを成功すれば王に気に居られること間違いなしだ!! ここから俺の異世界ライフが始まっちゃうんだな!
おお、神様、やはりあなたは私を見捨てていなかったのですね。これまで一回も神様なんて信じたことなかったけど今日から信じます。宗教活動ガンガン行こうぜで。
急に跪き、涙を流しながら笑顔で祈りをささげる様子に引きつつも話を続ける。
「道中会ったレイクとは相談済みで、行こうかって話になってるんだけど、二人の意見はどうかな」
「行くに決まってるだろ。たとえミエラが反発しようとも、猿轡をして連れて行く」
「わかった。じゃあ受けることにしよう。じゃあ早速着替えてくれるかな」
タークルを操作し、メールらしきものを送信したウリルがそう言ってご自慢のポケットから出したのは、式場なんかでよく見るスーツとドレスだった。
「え、これを着るのか? それも今?」
「だって今から王宮だよ?」
なぜか外の様子が騒がしい。急いで窓に駆け寄り確認すると、そこにはギルドなんかで見る甲冑を身に纏った何人もの兵士が、一台の馬車を囲むようにして立っていた。
「さっき王様に連絡したら迎えを寄こしてくれたんだ。ささ、時間が無い! 早く着替えて!」
え? 俺の想像してた展開と大分違うんだけど、ちょっと大丈夫なのこれ!?
血の気の引いた俺の顔とは対照的な笑顔でウリルは叫んだ。
「いざ、王宮へ!!」




