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6.大事な思い

返そうと思った。

あれは、吉田が持っているのが一番良い。

違う、吉田に持っていてもらいたいんだ。

もう一回自分のプレーを見てほしい。

あの時の、私たちを魅了したシュートの数々を思い出してほしい。

素直にそう感じる自分がいた。



あのビデオをまき戻して、ちゃんと見た。

まぎれもない若い頃の吉田が写っていた。

今と違って、髪が短く、あどけない少年の顔をして笑う吉田が初々しくてちょっとかわいい。

私が初めて見たとき、そのものだった。

楽しそうにバスケをする試合中の吉田が思い出される。

やっぱり、こうでなきゃと思う。

何があったかわからないけれど、もう一度バスケを取り戻してほしい。



そんな思いを一人ぐるぐる頭で考えながら、今日の授業をこなした。

お昼休みになると、心配そうに香織が近づいてきた。



「どうしたの?今日変だよ、瓜子。なんか、授業中もうわの空だったみたいだし。」



香織に話そうか?

そんな考えがちらりと浮かんだが、やはり言うのはためらわれた。

吉田はこういう話が人に知られてしまうのは、きっと嫌がるだろうと思ったからだ。

笑顔でなんでもないと首を振ると、香織はもうそれ以上何も聞かなかった。



放課後、慌てて吉田の姿を探したが、すでにどこにもいなかった。

今日は一日このことばかり考えていたので、すかしをくらったような気持ちになったが、どこかでほっとしている自分が少々情けなかった。

吉田に会うのが怖かったのかもしれない。

彼に会ったって、何を言えばいいのかはわからないし、説得する自信はない。



(だいたい私には、関係のないことじゃん。これは吉田自身の問題なんだから関わらないほうがいい。)



心の中ではわかっているけれど、それでも気になってしまう。


この時ばかりは自分の人の良さを恨めしく思った。

あんなに迷惑をかけられた奴なのに、何故かほっとけないのだ。


(…また、今度にしよう。)



ビデオの入った茶色い包みをそっと抱きしめ、はぁ〜と長い息を吐いた。






「なにやってんだ、お前?」



突然、誰もいないはずの教室によく聞きなれた低い声が響いた。


思わず体が固まる。



「もう誰もいないぞ。早く帰れって。」



そういって、その声の主はひょっと私の顔を覗き込んだ。



「ひゃっ!」



いきなりの度アップに、情けなくも声を出してしまった。



「なんだよ。化けモンが出てきたような顔をしやがって。」



吉田広人はわけが分からないといった顔でぽりぽりと頭をかいた。


神様は意地悪だ。

今日はもう会えないと思ってすっかり油断していた。

心臓がものすごい勢いで暴れだす。


泣き出しそうな気持ちをこらえて、必死で言葉を探した。



「よ、吉田こそ、なにやってたのよ?捜したん…。」



はっと口に手をあてて、吉田をちらりと見た。

案の定にやりと笑っている。



「へぇ、児玉ちゃん、俺捜してたの? なんだよ。早く言ってくれればいいのーに。

 で、なに?愛の告白? 期待しちゃうなぁ。」



そういって、カラカラと笑った。



「んなわけないでしょ!誰があんたになんか。」


「なんでぇ、放課後の教室に二人きりなんて、最高のシチュエーションなのにな。」



ぶつぶつ文句を言う吉田を見ながら、先ほど咄嗟に隠した包みをぎゅっと握る。


渡さなきゃ。

そのために、今日は吉田を探したんだから。


握りしめた手が汗ばんでくる。

大きく一回息を吸うと、少しは気持ちが落ち着いてきた。



「吉田に、渡したいものがあって。」


「昨日のやつでしょ?いらね。」



意を決していった言葉を打ち消すかのように、即座に吉田はそう言って微かに笑った。



「後ろに隠した包みでしょ?」


「わかってたんだ…。」


「だーって、あんなにわかりやすく隠されたんじゃねぇ。」


「返すよ。あたしが持ってるものじゃない。」



教室に再び静けさが訪れる。

吹奏楽部が練習しているのだろうか、どこからかトランペットの音が微かに聞こえた。



「児玉さ、中みた?」


「…うん。」



吉田はそっかとまた少し笑って顔をあげ、今度はまっすぐ私を見た。



「あのさ。児玉があれを見て何を思ったか知らないけれど、なんか考えすぎてるんじゃない?」


「えっ?」


「別にさ、俺、バスケなんて今どうでもいいの。」



吉田の言葉に、頭の中が真っ白になった。


「もう終わったことだし、関係ないの。

これは、俺が決めたことであって、お前には関係のない話。もう一回バスケをやらそうなんて考えてるなら、余計なおせっかいだ。」


抑揚のない言葉が、吉田の口から淡々と吐かれる。


なんで?

なんでそんなこと言うの?



さもなんでもないかのように言い放つ吉田に、どうしてか心が苛立った。



「バスケなんて暇な奴らがやってればいーじゃん。俺はもう好きじゃないし

正直飽きたんだよ。」



「…。」



「わかった?もう、いい?はい、じゃこれで、この話は終わり。じゃ、帰ろうよ。

腹も減ったしさ。」



鞄を手にした男は、いつもの様子に戻っていた。



「ふざけないでよ!!」



バシっ――!!!



奴の背中に、思い切り例の包みを投げつけた。


悔しくてしょうがなかった。



「なんのなのよ?あ〜心配して損した。こんな馬鹿、もうどうでもいいや。そだね、全然関係ないしね、あんたなんか。」



勝手に想像して、勝手に心配して、私、なにやってんだろう。


「余計なお世話でした。ああ、余計なお世話でしたとも。私の勘違いでした。あんた、本当はバスケが好きなんじゃないかなんて思った私が馬鹿でした。」



言いながら、あふれでそうな涙を必死で押しとどめた。

目の前が歪んで、吉田の顔がよく見えないけれど、

きっと驚いた表情をしているのだろう。



「いらないなら、自分で捨てなよ! 私には関係ないんだから!」



もうだめだった。

荷物をとり、ダッシュで教室から逃げ出した。



やっぱり、嫌な奴。

吉田広人なんて大嫌いだ。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

やっと物語が動いてきた…かな?(汗)

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