5.茶色の包み
長い沈黙だった。
うつむいたままの吉田は何も答えない。
私は少し後悔した。
やっぱり聞くべきじゃなかった…。
「それ、やる。」
不意に静けさを破り、吉田がサトセンの袋をポンと渡した。
「え、だって、これは…。」
「俺には、必要ないから…。」
「…で、何が入っているの?」
「さっき交換日記だって言ったじゃん。」
「じゃなくて、本当に!」
「知りたい?」
吉田はさっきと同じように意地悪な笑顔を浮かべて言った。
「知りたいの?児玉は?」
うぅっ。何やら悪い予感…。
微かに後ずさりをしながらも、好奇心には逆らえず頷く私。
それを確認すると微笑み、じわりと近寄ってくる。
「な、なによ。」
声が上ずるのを必死で押さえ、声を絞り軽く睨みつけた。
吉田は全くお構いなしに近づいてきて、そして耳元で囁いた。
「エ・ロ・ビ・デ・オ。」
うぎゃぁぁぁぁ!!
「変態、スケベ!!なんで、そういうもんが好きなのよぉ!!」
「しゃーねぇだろ?男なんだから。あ、なに?それとも一緒に見る?」
「ば、ばーか!あほんだらっ!このゲテモノ吉田!!そんなんだから万年アホなのよっ!」
「わかった!!ビデオが駄目なら…。よし、児玉!今から本当に試してみるか?」
ぬけぬけとそう言って、奴はウェルカム!とばかりに両手を広げた。
「なっ!ふざけんなあっ!!」
「冷たいなぁ。俺たち、一応、付き合ってるらしいじゃん?これくらいのスキンシップ当たり前だろ?」
茶目っ気たっぷりにウィンクする吉田を見たら、どっと疲れが出た。
…さっき一瞬でもコイツが綺麗だと思った私が馬鹿だった…。
やっぱりコイツはアホ以外なんでもない。
「いつ、誰が、付き合ってるんじゃぁぁ!!いい?この際はっきり言っておくけど、あの時のことは不慮の事故ってことにしてあげるから、あんたもそのつもりでね!」
「あの時?あぁ…俺が抱きしめたってやつか?」
「露骨に言うな!」
「なんだよ。結構ドキドキしてたんじゃないの?お前って男に疎そうだもんな。」
コイツ…やっぱり嫌いだ。
黙って睨みつけ、足元に転がっていたボールをおもむろに拾い上げた。
そして…。
―――バコンッ!―
「いってぇ。何するんだよ!」
力いっぱい投げたボールは、まんまとにやにやしていた吉田の顔に的中した。
「うっさい!どーせ男に免疫なんてないわよ!!だからあの時、別に吉田じゃなくてもドキドキしたんだから。あんたなんか全然関係ないんだからね!」
あ〜なんでこんなに腹がたつんだろ。
目の前の吉田が、少し驚いた顔をしている。
自分が何を言ってるか分からなくなってきた。
(あ〜もうやめた、やめた。アホらしい)
ドタドタ床を踏み鳴らし、私は体育館を足早に去った。
このとき後ろで吉田が吐いた「アイツ、俺に惚れてんのか?」という言葉は全く聞こえなかった。
家に帰ると、自分の過ちにいち早く気づいてしまった。
吉田が「エロビデオ」と称した怪しげなものを持って帰ってきてしまったのだ。
時はすでに遅し。
机の上に無造作にボンッと置かれた茶色の包みを、腕組みをしながらにらみ付けた。
だいたい、なんで男は「エロビデオ」が好きなのかしら?
あんなもの見て、楽しいのかぁ?
そう思いつつも年頃の乙女としては少し興味があった。
「…確認するくらいなら、いっか。いらないって言ってたし。」
誰に言うともなく呟いて、袋から取り出した。
でも実際、それは「エロビデオ」なんかじゃなかった。
いや、ビデオはビデオなんだけど…。
(「俺には必要ないから…。」)
先ほどの吉田の台詞が思い出される。
ほんとに、いらなくなっちゃったのか。
吉田にとって大切なものではないんだね。
なぜかわからなかったが、心がちょっとさびしかった。
サトセンから渡されたビデオのタイトルには、『吉田/練習試合〜中学選手権』と書かれていた。
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吉田は天邪鬼です(笑)




