蝕まれる日常と、甘い侵食
一晩中続いたお仕置きのせいで、身体の奥には痺れるような熱と重いダルさが残っていた。
「ん……っ……」
重い瞼を開けると、部屋にはすでに柔らかい朝の光が差し込んでいた。
ベッドの脇には、私を愛おしそうに見つめるヒロちゃんの姿があった。
「おはよう、花恋。……体、辛いよね。温かいスープを作ったから、少し飲もうね」
ヒロちゃんは私を抱き上げ、ベッドのヘッドボードに背中を預けさせると、スープを丁寧にスプーンで掬って私の口元へと運んでくれた。
「ん……おいしい……」
「ふふ、良かった」
優しく微笑みながら私の頭を撫でるヒロちゃん。
けれど、スープを半分ほど飲み干したところで、彼の整った顔立ちから笑みが消え、静かな声で言葉が紡がれた。
「……さて、昨日言った『新しいルール』の話をしようか」
冷っとした空気が肌を撫でる。私は身をこわばらせた。
「花恋が学校で余計な虫に絡まれないように、もう少しお守りの役割を強めようと思ってね。……これまでは車内以外では仕込んであるだけだったけど、今日からは授業中もランダムで振動を送ることにするよ」
「え……っ? じゅ、授業中に……!?」
「そう。いつ震えるか分からない緊張感を持っていれば、他の男のことなんて考える余裕もなくなるでしょう?……それから、昼休みには必ず俺に電話をかけること。当然、寺島くんをはじめとした男子生徒には一切近づいちゃダメだよ」
「ひ、ヒロちゃん……そんなの、授業に集中できないよ……っ」
「大丈夫。花恋のお勉強くらい、俺が後でいくらでも教えてあげるから」
抵抗の言葉は、彼の甘く冷たいキスによって簡単に塞がれた。
◇
「っ!……っく……ふあ……っ」
2時間目の数学の授業中。
突然の振動に私の背筋が一度大きくはねる。
その後ノートを取っていた私のペンが、唐突にピタリと止まった。
下着のポケットに仕込まれた「お守り」が、脈打つような振動を吐き出し始めたのだ。
今まで授業中には一度も動いたことがなかったのに——。
ほんの数分間。時間にしてしまえばごく短い間だったけれど、静まり返った教室の中で私にとっては永遠のように思えた。
「ひ……っ……///」
声が漏れそうになり、大慌てで両手で口を塞ぐ。
教壇に立つ先生や、周囲のクラスメイトに気づかれないよう、必死で背筋を伸ばして耐える。
いつ止まるかも分からない恐怖と、ダイレクトに伝わる甘い痺れ。
(ヒロちゃんが……今、スマホで私を操作してる……っ)
机の下で膝を固く突き合わせ、スカートをぎゅっと握りしめる。
膝を付き合わせることで、ポケットのお守りが敏感になった突起を圧迫して、また声が漏れそうになる。
振動が収まった後も、頭の中は数学の公式など吹き飛び、ただ下半身を襲う熱の残り香だけで満たされていた。
チャイムが鳴ると同時に、私は逃げるようにトイレの個室へ駆け込んだ。
制服のスカートを捲り上げ、下着を少し下ろすと、そこには隠しようもないほど大きな濡れのシミが出来上がっていた。
「そんな……こんなに……///」
自分の身体がヒロちゃんのお守りに簡単に屈してしまう現実を見せつけられ、私は顔を覆った。
◇
昼休み。
友達と他愛もないおしゃべりをしながらお弁当を食べた後、私は「ちょっと電話してくるね」と言って教室を抜け出した。
校舎の陰にある誰も来ない渡り廊下の隅へ向かい、震える手でスマホを取り出す。
指定された【昼休みの電話】だ。
発信ボタンを押すと、わずかワンテンポで繋がった。
『はい、花恋。……ちゃんと電話してくれたね』
受話器越しに聞こえる、ヒロちゃんの低く優しい声。
「ヒロちゃん……電話、したよ……っ」
『うん、偉いね。……午前中の授業、どうだった?』
「……ヒロちゃんの意地悪。授業中にあんなの……酷いよ……っ」
『ふふ、声が甘くなってる。午前中のお勉強、ちゃんと頑張れたご褒美に……少しだけね』
電話越しにカチャリと音が聞こえたかと思うと、下着の中の玩具が再び小刻みに震え始めた。
「あっ……んぅ……っ! ヒロちゃん、電話越しに……っ、やめ……っ」
『可愛い声。……でも、授業中や廊下でそんな声を出して、みんなにバレちゃいそうだね……耐えられなくなった時は保健室に行くこと。分かった?』
「んく……っ、ほ、保健室……? あ……ぁ……っ」
これまで学校で逃げることなんて考えもしなかった私に、ヒロちゃんはあっさりと新しい『逃げ場所』を指示してきた。
『そう。保健室のベッドで休みながら、俺のお守りの振動に耐えて?……それなら誰も怪しまないでしょ?』
「ひぁ……っ! ヒロちゃん……っ、もう……切るよ……っ!」
『ふふ、また後でね』
通話が切れ、スマホの画面が暗転しても、下半身に残る振動と熱の余韻が消えない。
(どうしよう……こんなの、毎日は耐えられない……っ)
荒い息を吐き出しながら壁に背中を預けていた、その時——。
「青柳さん……? 顔色、すごく悪いけど大丈夫……?」
サッと曲がり角から姿を現したのは、寺島健人くんだった。
授業中から急に青ざめたり、真っ赤になって息を荒らげたりと、めまぐるしく変わる私の顔色をずっと心配していたのだろう。痛々しいものを見るような、真っ直ぐで優しい瞳で私を見つめている。
「あ、寺島くん……っ」
「すごく辛そうだし……もし保健室行くなら、俺、先生に言って付き添うよ?」
少し照れた顔をしながら親身になって歩み寄ろうとしてくれる寺島くん。
けれど、私の頭の中を駆け巡ったのは、朝ヒロちゃんに言い渡されたあまりにも冷酷なルールだった。
『当然、寺島くんをはじめとした男子生徒には一切近づいちゃダメだよ』
(ダメ……近づいちゃダメ……! ヒロちゃんに怒られる……っ!)
「だ、大丈夫だから……っ! 私、先に教室戻るね……っ!」
パニックに陥った私は、寺島くんの差し伸べた手を振り払うようにして、濡れた下着の不快感も忘れて渡り廊下を駆け去っていった。
寺島くんの優しさが、今の私には何よりも恐ろしい「毒」だった。




