第33話 悪役令嬢、理解する。
“改名“:“ホワイトアウト“
白聖教、総本山の大聖堂内にある礼拝場。
そこは、大聖堂を覆うほどの吹雪に見舞われていた。
その吹雪の中では、視界がすべて白で埋め尽くされ、まさに"ホワイトアウト"の世界となっている。
「・・・」
その中心に、元凶である教祖ノーバスト・スノーホワイトが佇んでいた。
「なん、で、 あり、得ない、」
白い世界に、赤い絵の具が溢れ、ぶち撒けられる。
ノーバストの胸には、長い針が4本生えていた。
「残念だったな。
ワシを殺せる可能性"は"あった。」
針が抜かれ、ノーバストは地面に崩れ落ちる。
{嗚呼、ジャッチス様、申し訳ございません。
先に、向こうで、待っています。}
ホワイトアウトの中、なぜ人型の蚊、"キトス・ブラック"は、ノーバストの位置が分かったのか?
それは、蚊の特殊な索敵能力にある。
蚊は、人が吐き出す二酸化炭素や温度を察知することができるのだ。
さらにその察知能力は、拡大勘違いによって強化され、サーモグラフィーカメラのように正確である。
そのため、温度が低かった分、逆に分かりやすかったと言える。
しかし、
「ち、眠い、
まだ思考がぼやける、」
ダメージは残っていた。
積もった雪が溶け、水になり、蒸発して急激に消滅していき、
キトスは、そんな地面に膝をつく。
まだ思考がボヤける、そのキトスの後ろに、
急遽、人影が現れた。
"ザンッ!"
コバルトグリーン色が輝くフルアーマー、カルトである。
カルトが剣を斜めに振り下ろし、キトスの細い体を分断させていた。
{手応えが!、無い!、}
しかし突如、キトスの姿が再び消えていたのだ。
キトスの改名の能力は、大きく分けて3つある。
・蚊と同じような能力
・動いている間、認識されない
・"意識された攻撃"を受けない
カルトの攻撃の影響を受けなかったのは、3つ目の能力、"意識された攻撃"を受けないというものであった。
{馬鹿者が!、
たかが支部長クラスの小僧が!、ワシに敵うと思ったか!、
死に晒せぇぇえ!}
カルトの改名:フルアーマーは、この世界最強の防御力を誇っていると言っても過言ではなく、その改名を発動し、正面からまともに戦い、引き分け、撒かれることはあれど、負けることはないほどである。
しかし、完璧に身を守れる鎧というわけではない。
そもそも、完璧に身を隠す鎧は、身動きが取れなくなってしまうだろう。
その為に、"隙間"が必ず存在していた。
その中でも必ず存在しなければならない、
視界を確保する為の頭部鎧の穴、
そこへキトスの針が2本、深々と突き刺さる。
場所は変わり、王城の"王座の間"へ移る。
そこは規模が異常で、無駄に広大な空間だった。
まるで初詣を連想させる太い列が腸のように曲がりくねりながら、永遠に伸びていたが、
"ブラック・ワスプ"の"4大黒元"が第1席、ハイヴ・ブラックが姿を現した事によって避難し、今では閑散としている。
そして国王ジャッチス・ホワイトは、"改名":"時枝将"によってハイヴを思考停止に陥らせた。
さらにジャッチスは、ハイヴの頭部を切断し、蜂の化け物であったハイヴを倒したのだった。
しかしそれでもジャッチスは油断せず、ハイヴの思考を止め続ける。
やがて地面に倒れたハイヴの痙攣が止まり、完全に動かなくなるまで思考を停止させ続けた。
そして、もう良いだろうと、思考停止が解除した瞬間、ハイヴの体は崩れた。
「「「「!?」」」」
さらにそれは、ただ崩れたわけではなかった。
無数の黒く小さな生き物、それは黒い蜂である。
黒い蜂たちとなったハイヴの体は、ジャッチスに向かって飛び、その途中で再び一塊になっていく。
その塊は人型となり、再びハイヴを、人型の蜂の化け物として再構成した。
「流石に強いね。」
ハイヴは何が起こったのか理解できていなかったが、それでも爪をジャッチスへ向けた。
"カッ!!"
だが、再びのフラッシュ。
ジャッチスは、自分に向かって来たハイヴの思考を再び止めた。
ハイヴは虚な表情で攻撃の手を止める。
思考は止めても、無意識の行動はできるようで、飛んでいたハイヴは地面に降り立ち、ぼんやりと突っ立っていた。
もし無意識な行動ができなければ、ジャッチスが能力を発動し続けているだけで、相手は呼吸ができず窒息死するだろう。
「やはり、倒せていなかったか。」
ジャッチスは想定していたようで、復活したハイヴを目の前に、そう呟いた。
ミースたちは動揺が続いたが、ジャッチスは再び剣を構え、慎重にハイヴに迫った。
{私の能力は有効。
"人"ではなく"蜂の塊"、という"扱い"か、なるほど。
まだマシの方だな、}
何かに気付いたジャッチスは、再び剣を閃かせ、ハイヴを胴体で真っ二つにした。
「・・・ぐふッ!?」
しかし、再び倒れるハイヴと、圧倒的に優勢だったジャッチスも膝をつく。
それだけでなく、ジャッチスは血を吐き、明らかに具合が悪い様子だった。
「なんだと。」
ジャッチスも想定外だったようで、自分が吐き出した血を見て驚愕する。
「ジャッチス様!!」
民たちを避難させている王家直属の近衛騎士、“ホワイトホールナイツ”が、かなりの距離を置きながらジャッチスの異常に気付き、声を上げた。
「来るな!
前世待ちで対処する!」
血を吐きながらジャッチスは指示を出す。
{今回の犠牲者は、私一人だけで良い、}
ジャッチスから放たれる白い光が揺らぎ、思考停止が解除されたのか、再びハイヴは蜂に分かれ、膝をつくジャッチスの前で再構築される。
「冷や冷やだよ、
だけど!、
私の勝ちだ!」
ハイヴはジャッチスを見下ろし、そう言い切った。
「なぜ、そう言い切れる?」
ジャッチスは不服そうにそれを見上げる。
「ジャッチス王、私達の1番の脅威は君だからだ!
君がやられた以上、私に負ける要素は無い。
冥土の土産に教えてあげよう。
私の血に触れた者は死ぬ。
そして、2回“間接的”に触れても死ぬ。
君なしで逆にどう勝つのか知りたいくらいだ。
…最後の言葉があったら聞くが、どうする?」
ハイヴは勝ちを確信し、ジャッチスが死ぬことを説明した。
「ずるい能力だ。」
「それはお互い様、」
"カッ!!"
フラッシュ、
ハイヴの動きが止まる。
「実質チート複数持ちが何を言う。
…と、言うことだ、ミース。
“後は頼んだ”。」
ジャッチスはここで唐突にミースに振る。
「ちょ、」
ミースが何かを言う前に、ジャッチスは立ち上がりハイヴへ剣を振り上げた。
{死ぬと言っても案外猶予があるな。
魔法で無理矢理動かしているせいもあるか。
出来れば相打ちに持って行きたい。
後輩にもかっこいい姿を見せたいしな。
…すまんな、ノーバスト、先に行く。}
そして、
切る、切る、切る、切る!
ジャッチスは剣を閃かせ続け、ハイヴを細切れにする勢いで斬り続けた。
充血、吐血し、ハイヴを切り刻むたびに筋肉が異様に軋み、具合の悪さが増していく。
常人ならば、3撃目の剣の攻撃で動けなくなり、死んでいた。
だが、ジャッチスは無理矢理魔法で体を動かし続ける。
切る、切る、切る、切る!!
もはやジャッチス自身の肉体は死んでいた。
それでも、
切る、切る、切る、切る!!!
ハイヴの四肢はもちろん、人体の関節の数以上に切断され、地面に血と共に散らばり、触れれば死ぬ血の海を作り出した。
ジャッチスは突如として動きを止め、血濡れた地面に剣を突き刺し、片膝をついた。
その視線はまだハイヴを捉えていたが、ジャッチスはそのまま動くことはなかった。
・・・
そして、無情にも黒い蜂が舞う。
ハイヴは、まだ生きていた。
{"改名"中でこんなに死を身近に感じたのは、初めてだ、}
そのまま再びハイヴが再構成されると、
思われた。
蜂が集まるその中心を、
白い光の手が突き抜ける。
{何!?ッ、}
ハイヴは驚き、蜂達が目に見えて動揺する。
その白い手はミースから伸びていた。
「こういうことでしょう!」
そして、その白い手の平には、1匹の蜂が握られている。
その蜂は他の蜂と違い、一回り大きい蜂だった。
女王蜂だ。
明らかな弱点である。
そして女王蜂は握り潰され、女王蜂に集まろうとした蜂たちは霧散した。
しかし、まだだった。
行き場を失った蜂たちは、ミースやアルマ、イノセスに殺到する。
「ちょちょちょ!」
「っ!」
1度刺されれば死ぬ蜂たちに、ミースとアルマは過剰気味に厚い結界を張って防いだ。
{最後の悪あがき、
って、訳じゃないわよねー、}
ミースたちが蜂たちに気を取られている隙に、ハイヴは再び人型を再形成していたのだ。
「まさか、"核の1つ"を的確に潰してくるとは、恐ろしいよ。」
{どの口が!}
ハイヴはミースを警戒しながら言葉を続け、その言葉に思わずミースは、脳内でツッコミを入れる。
「さて、私の前に、王ジャッチスは倒れた!
これより、"ブラック・ワスプ"がこの地を支配する!
まず黒髪を蔑ろにした分、優遇(優遇)させる。
白髪から黒髪を中心にした政治を変える。
賛同してくれるなら、君たちのことは見逃しても良いぞ。」
ハイヴは勝利宣言し、ミースたちに降伏を促した。
その勝利宣言を呆れながら聞いていたミースは、ふと思う。
{・・・強すぎる、"黒髪全員"こうなのかしら?
・・・"黒髪全員"
・・・ッ!?}
それは、現状を含めた3度の黒髪との遭遇経験から生まれた、ごく当然な推測だった。
しかし、そのふっと沸いた推測は、すべての物事を繋げ、
噛み合わせ、
ミースの頭の中で世の中の真の形を導き出した。
「時間をください!」
ミースは咄嗟に、ハイヴへ考える猶予を求めた。
「良いよ、でも時間をかけ過ぎたら殺すから。」
ハイヴは何故か、それを受け入れる。
「ありがとうございます。」
ミースは礼を言い、深く考え始めた。
しかし、ミースが深い思考に潜る前に、アルマの声が引き上げる。
「聞きたいことだらけだが、ミース、お前は"前世の記憶"があるな?
どうするつもりだ?」
アルマはハイヴを警戒しながらも、状況についていけず、ジャッチスから後を託されたミースの判断を聞いた。
「お父様も、少し待ってください。」
そんなアルマを雑にミースは手で制し、今度こそ深い思考へ潜る。
そしてミースは、ハイヴのことではなく、気付いてしまった真実について考えを巡らせていた。
{あり得ない、
いや、認めるべき…ね。 }
◇◇◇
一体なぜこの世界で黒髪が差別を受けていたのか?
邪悪だから?
美醜、国柄、宗教、歴史、人種?
はたまた利権?
実際の理由は、それほど複雑ではない。
むしろ恐ろしく単純である。
"強すぎた"
ただ、"強すぎた"のだ。
ミースは、これまでに黒髪の3人と出会い、
その3人全てが国を揺るがすほどの力を持っていた。
3人中、3人だ。
全ての黒髪にそんな力があるわけではないにしろ、
むしろ生まれてくる確率が低くても、
人数差が意味を持たない化け物が定期的に生まれてくる。
そして彼らは、その力を使わないでいるのか?
そんな力があって使わない方がおかしいだろう?
そして、人が大勢死ぬ。
故に、黒髪を異端とし、何の罪もなくとも処分しなければならなかった。
そして1番の"問題"がここにある。
平等を歌う"ミース"が、差別主義者と認識していた彼らと同じ"結論"に至り、行動していたのだ。
自分が他人を"差別"していた。
その事実を受け入れるのに、彼女は時間がかかったのだ。
◇◇◇
{はぁ、黒髪は異端で"邪悪"、ね。
少なくとも"私"とハイヴはそうかもしれないわね。
もう、"同じ間違い"はしないわ。
"平等な世界"のために、}
ミースは約2分ほどで考えを改め、気を引き締めた。
そして、ようやくハイヴのことに移った。
「お父様、頼みたいことがあります。」
ミースは、アルマに小声で声を掛ける。
「何でも言え、」
アルマはハイヴを見据え、耳を傾けた。
「私は?、 何かできない?」
アルマへ指示を出す前に、今まで存在感のなかったイノセスも声を上げた。
「私とお父様を守って、」
ミースは、イノセスに簡潔に答える。
「任せて!」
イノセスはミースに頼られ、こんな状況でも嬉しそうに了解を示した。
・・・
ミースは、アルマへも指示を終え、再度、ハイヴへ向き直る。
{どんなに強い能力だろうが、対策できれば倒せる。
それに本気も出すしね、}
※備考
ジャッチス・ホワイト VS ハイヴ・ブラックについて
結果としてジャッチスが敗北しましたが、この戦いは運勝負であり、ハイヴをあと少しで倒せていました。
ハイヴは本文にある通り、女王蜂を核として生きています。
厄介な所として、その核が体内に複数あり、全て潰さなければハイヴを倒せない所です。
そしてハイヴの武器である間接的に2回、直接1回触れれば死んでしまう血がそれを阻むのですが、即死はしません。
ジャッチスの勝ち筋としては、ミースへ後を託す暇も削り、試行回数をとにかく増やす事でした。
もし核を潰し切れた場合、ハイヴは死に、能力が解除され、
ジャッチスが最後に立っていた事でしょう。




