第28話 囮、そして王城。
ミースたちの乗る8輪の大型トラックと、その後ろにブラックワスプの構成員が乗る7台の黒い小さな不審車両、さらに応援に来た白聖教の4人乗りの大きなバギー4台が入り乱れていた。
そんな中、ミースたちと合流したミースの父親、アルマは今後の方針を伝えた。
「異端者になど付き合っていられない。
ここから二手に分かれる。
皆、指示に従ってもらおう。」
こうして、二手に別れることとなった。
メンバーは以下の通りだ。
空から王城へ直接向かう謁見チーム
1. 主人公、ミース・アイボリー
2. 主人公の父親、アルマ・アイボリー
3. 傍迷惑、イノセス
4. イノセスの護衛、クローム・カーマイン
計4人で、護衛に不安があるが、作戦上、謁見するミースとイノセス以外は空を飛べる2人だけである。
地上でブラック・ワスプの目を引きつける囮チーム
1. ミースの専属メイド、サヤ
2. ミースの護衛、カルト・コバルトグリーン
3. カルトの率いる護衛、3人
4. ミースのお目付け役、ラコッタ・テラコッタ
5. 見習い執事、カズララ・ラズベリー
6. クローム率いる護衛3人
ミースの身代わりとなるサヤのことが心配だが、計10人とほとんどの護衛と別れることになるため、まあ大丈夫だろうと判断した。
ミースのお目付け役であるラコッタ・テラコッタからは文句が多く上がったが、飛行能力がある者が希少であり、現状より空へ逃げた方が安全であることが明らかであるため、なんとか説得に成功した。
そして作戦開始だ。
アルマはミースたちと合流する前に、自分の能力のカラスを放っており、そのカラスで外の様子を伺う。
そして交差点を曲がった直後、追いかけて来ているブラック・ワスプの隙を見て、謁見チームであるミースたちは空へ飛び出した。
みるみるうちに地面が遠ざかっていき、8輪の大型トラックとそれを追いかける黒い小さな不審車両や大きなバギーを尻目に空を駆ける。
ミースは、イノセスと共に、“改名:クロー”によって、体の所々がカラスとなっているアルマの両肩へ、1人ずつ抱えられていた。
クロームは、“改名:バーニア・スラスター”を発動し、全身からバーニアを生やしてアルマに合わせてジグザグに飛んでいる。
{この私が荷物扱い、イノセスがいなければ、
・・・まぁ贅沢は言わないわ。}
ミースはその扱いに内心で文句が出るが、言葉には出さない。
「きゃー!
飛んでる! 飛んでるわー!!」
イノセスは、初めて空を飛んだのか、はしゃいでいる。
「イノセス、口を閉じなさい。
下を噛みますよ。」
ミースは、はしゃぐイノセスをすぐに注意する。
{全く、囮の意味がなくなるじゃない。}
「あ、そうね。」
イノセスも一応理解しているのか、手で口を塞ぎ、声を小さくした。
「ははは、ミース様の言うことは素直に聞いて頂けるので助かりますよ。」
それを見ていたクロームは、いつも手を焼くイノセスのその様子に、つい感想を漏らす。
ちなみに、彼の“改名:バーニア・スラスター”は、文字通りロケットに付いている推進機の噴射口が全身に生えているようなもので、その推進時の噴射音はかなりうるさそうだが、調整できるようで、会話できる程度には静かだ。
「聖女だからと甘やかすからだ。」
アルマは、そんなクロームに対して厳しくツッコむ。
「いや〜、耳が痛いですなー、アルマ様。
わかってはいるのですが、皆ついつい甘くなっちゃうのですよ。」
クロームは、痛いところを突かれたと苦い顔をしながら返した。
呑気に話をしているが、周囲をアルマのカラスが飛び回り、何か異変があればすぐに分かるようになっていた。
その後、謁見チームはしばらく空を飛んだ後、拍子抜けするほどあっさりと王城に到着した。
王城は、周囲のビル群とは対照的に、しっかりとした西洋風の白い巨大建造物であった。
特筆すべきはその規模で、現代的なビルに囲まれ、それでもその存在感は隠し切れないものであった。
いったい、東京ドーム何個分なのか、考えるのも馬鹿らしい。
そして、そんな王城を囲む城壁の上に、ミースたちが降り立った。
また城壁の上には、アルマが話を通していたのか、迎えが来ており、支部長に引けを取らない豪華な金箔の飾りが映える、白い鎧を身にまとった人物が5人いた。
その5人のうち、真ん中の細身の男性が代表して声を上げる。
「よくお越し頂きました!
お噂はかねがね。
ミース・アイボリー様、それにイノセス様、
我々は王家直属の近衛騎士、“ホワイトホールナイツ”。
ここからは、我々がお守り致します。」
「よろしくお願い致します。」
ミースは貴族的な礼で返す。
「よろしく!です!」
イノセスもそれを真似し、ぎこちなくも元気よく礼をする。
「えぇ、お任せください。
アルマ様は、ついて来られるとして、
クローム君、
君はどうする?」
“ホワイトホールナイツ”の代表は、簡単な挨拶の後、これからのことを話し始めた。
「あなた方が護衛についてくれるなら、安心だ。
私は、戻って“ブラック・ワスプ”を片付けてきますよ。」
クロームは一安心し、胸を撫で下ろしながら、
先ほどの騒動を片付けることを宣言した。
「それが良い。
我々がここを離れるわけにはいかないからね。
そちらは任せるよ。」
代表は、クロームの今後の行動を理解し、任せることにした。
こうして、クロームはサヤたちの囮チームへ飛び立ち、ミースとイノセスは安全な王城の中へ入っていった。
場面は、ミースたちの代わりに囮となった囮チームに移る。
大型8輪トラックに乗るカルトとクロームの護衛は、運転手以外で反撃を開始していた。
ボウガンや魔法の塊が行き交う。
7台あったブラック・ワスプの小さな黒い車のうち、4台は撃退に成功したが、白聖教から増援に来た大きなバギーは1台が大破し、残りは2台となっていた。
サヤたちの乗る大型8輪トラックもボロボロで、いつタイヤが壊れて動けなくなってもおかしくなかった。
しかし、白聖教の大聖堂まであと目と鼻の先であり、壊れる前に到着する事は可能であった。
そして、白聖教の本拠地である大聖堂の敷地へ、そのままの勢いで突っ込んで行く。
王城ほどの規模ではないにしろ、大聖堂も東京ディ◯ニーランドほどの広大な敷地に豊かな自然と水路が張り巡らされており、その所々には施設があるが、やはり敷地中央にそびえ立つ大聖堂が最も目立つ。
そんな神聖な雰囲気の敷地も、彼らの走行によって台無しにされ、綺麗な石畳にはタイヤ跡が多く残された。
大聖堂前の水路に架かる大きな橋を渡れば、ようやく大聖堂に到着する。
サヤたちの乗る8輪の大型トラックは、その橋の中腹で急停車する。
そして車体を橋の道に対して横にし、橋を封鎖した。
これ以上先に行かせないためである。
後続のブラック・ワスプの小さな黒い車がそれに衝突する前に、サヤを含めた搭乗者は大聖堂側に脱出した。
ブラック・ワスプの4台のうち、2台が衝突し、もう2台はぎりぎりブレーキが間に合い、橋に入ってまもない所で停止した。
さらにその後ろで、橋を渡る前に白聖教の大きなバギーが2台、停止した。
降りたサヤたちの囮チームは、ここでさらに二手に分かれる。
フードを深く被り、ミースに扮したミースの専属メイド、サヤと、見習い執事のカズララ・ラズベリー、ミースのお目付け役のラコッタ・テラコッタの3人が大聖堂へ避難し、
カルト・コバルトグリーンとその他の護衛6人はこの場所に残り、しつこく追いかけてきたブラック・ワスプを迎え撃つ形を取った。
ブラック・ワスプの4台の車から出てきたのは8人である。
「全く、これだから乗り物には乗りたくない。」
その中の1人、黒いスーツのような服を身にまとった黒髪短髪の初老の男性、ブラック・ワスプの第2席"キトス・ブラック"が、そう嘆きながら車から降りる。
「雑だったが、まぁ注文通り追い込みは終わったな。
後は、好きにしろ。」
キトスは適当に他のブラック・ワスプのメンバーに指示を出し、カルトたちが前で待ち構えている大聖堂へ堂々と足を向けた。
「了〜解!
お前ら!
キャップ兄貴の分まで暴れるぞ!」
同じ車から出てきた、屈強な男こと、タンクトップ姿の男が威勢よく指示を出す。
「ヒャッハー!ようやくだぜー!」
他の6人も似たような格好をしたタンクトップ軍団が生き生きと返事を返した。
そして先に、彼らの後ろについて来ていた大きなバギーから降りてきた白聖教のメンバー4人と接敵する。
"改名:フル・アーマー"
カルトは、橋をせき止める8輪の大きなトラックの先を睨みながら改名し、コバルトグリーン色に輝く鎧がその場に現れた。
「異端者共が、すぐに片付けてくれる。」
そしてカルトは真っ先に抜刀し、それに合わせて他の護衛たちも抜刀、同じく8輪の大きなトラックの先を警戒する。
しかし、彼らが突入する前に状況が大きく動く。
"ドガァァァァァァァァン!!"
橋の中腹を封鎖していた8輪トラックが大爆発し、巨大で大きな橋が大きく揺れる。
「ああ?」
カルトは突然の大爆発に怯むことなく、怪訝な視線をその発生源に向けた。
「ヘーイヘーイ!我が兄の仇の1人、カルトじゃないか!」
爆発してもなお原型をとどめているトラックの上に、タンクトップの原型が少し残るボロボロな服を着た、約2mの屈強な男が立っており、調子良さげにカルトたちを見下ろしていた。
その男はまず筋肉に目が行くが、髪色は赤褐色で染まっており、髪型は特徴的なウニのようなトゲトゲ頭、いわゆるスパイキーヘアをしていた。
「異端者が、」
カルトの声にはさらに殺意が滲む。
「異端者?
どうやら、自己紹介しなければならないようだ!」
男は殺意を受けても全く調子を崩さず、トラックで隔たれていたカルト側の橋へ"ドスン"と降り立ち、話を続ける。
「"ブラック・ワスプ"、"キャップ・ブラック"が弟、
"ボトル・レディッシュブラウン"、
この王都を破壊する男だぜ!」
「ふざけるのも大概にしろよなぁ!!」
カルトは怒声を上げ、ボトルと名乗った男へ切り掛かる。
「ノって来たな!」
瞬間、ボトルは炎に包まれた。
"改名:ファイヤーワークス"
「!?っ、」
それはボトルを中心に大爆発を引き起こした。
"ドガァァァァァァァァン!!"
「舐めるな!」
しかしカルトは、爆発をものともせずに突っ込んで行く。
だが、爆発の中心付近にいるはずのボトルの姿は見えなかった。
「なに!」
"ヒュルルルルルルルルル!"
「ノって来た所悪いが、お前は観客だ!」
炎に包まれたボトルは空に打ち上がり、カルトを見下ろしていた。
「話には聞いているぜぇ!
クソ硬いってなぁ!
そして、一番簡単な対処法は、相手にしないことだ!
そこで指チュパしてるがいいわ!」
ボトルは続けてカルトを煽り、1度空で爆発してから、大聖堂へ向けて再び打ち上がる。
"ヒュルルルルルルルルル!"
もはやその姿は火だるまとなって空を飛んでいるに等しかった。
「クソ、」
カルトは無視され、大聖堂へ向かうその火の玉を追いかけるも、追いつけるわけがなく、
見上げることしかできない。
ボトルの言っていたカルトの対処法は的を得ている。
改名:フル・アーマーは、その見た目の通りフルプレートの鎧だ。
その装甲は無敵と言って良いほど硬く、おまけに鉄を豆腐のように曲がられる力も手に入る。
しかし、言ってしまえば、それだけと言えた。
逃げに徹すれば、逃げ切れる可能性が高い。
他に目的があり、機動力があるならば、相手にするだけ無駄と言える相手なのだ。
他の護衛たちが、大聖堂へ向かって打ち上がる火の玉に、遠距離から魔法の塊などを放つが、空中で爆発を繰り返され、描き消される。
「記念すべき最初の破壊は、大聖堂だぜ!
盛り上がって来た〜!!」
※備考
"ボトル・レディッシュブラウン"登場シーンについて
カルトの前に爆発を起こして登場しましたが、その際に"ブラック・ワスプ"の仲間や、相対していた白聖教の人間達を全てを巻き込んで大爆発しています。




