真実?
「は、残念だったな性悪女。テメーは、俺とミハエルの野郎を仲違いさせようと画策してたみたいだが、全部無駄だったぜ。なんせ、ミハエル本人が誤解だと謝りに来たくらいなんだからな」
花鳥風月のクランに用があったので出向くと、なぜかリュージとかいうアホの前に通されて、ペラペラとご高説を聞くハメになっている。一人で気持ちよくなってんじゃねえよ。
「お前になんか用はない。俺が用があるのは、陽炎にだよ」
「あ? 陽炎? 知らねーな」
嘘つくなら、もっと上手にしろや下手くそ。
「どっかのアニメの受け売りだが、人を知ってるかどうかを尋ねられたとき、本当に心当たりのない場合はその人の特徴を聞くんだとよ。知らないなんて自信を持って答えれるのは、本当は心当たりがあるからなんだよ」
お前の場合は、候補生とやらがうじゃうじゃいるしな。その中に陽炎というプレイヤーがいる可能性もある。
「変な勘繰りはするなよ。質問に答える気がなかっただけだ」
「ほら、また嘘ついた」
瞳孔が動いてるとか肩が強張っている以前に、声が上擦っている。隠す気ないだろ、もう。
それが全部演技だという可能性もあるが、そもそも花鳥風月と陽炎の関係性は裏が取れている。
つまりこいつは、ただの嘘をつけない間抜けってことだ。
「偶にこのゲームにログインしてんだろ? 次はいつだ?」
「お前、いい加減にしろよ!!」
「いい加減にするのは貴様の方だ」
玉座が置かれている部屋の仰々しい扉から、円が入ってくる。その瞳には、烈火の炎が揺らめいていた。
「お前、クレアシオンのところの……どうやってここまで来た? 俺のクランメンバーはどうしたよ」
「こいつらのことかい? 暴れて大変だったよ」
大の大人二人を投げ捨てるように地面に放ると、新たに入ってきたパウンドは肩が凝った、というようなジェスチャーをする。
「……どういうことだ? 危害を加えられないはずじゃ」
「まあ、危害を加えようとしたわけじゃないからね。偶々、彼らに振る舞った回復ポーションに催眠成分が含まれてたみたいでさ」
システムの穴だな。
「っち、ふざけやがって。マギカ、こいつらを始末しろ」
流石に一対三では不利だと悟ったのか、戦力を補充する。嘘でも、一緒に闘えとは言わないんだな。
「……………」
「おい、マギカ? 何してんだ? おい!」
電池の切れたロボットみたいに反応を示さないマギカとやらに、苛立ちから声を荒げる。
が、マギカは変わらず涼しい顔をしている。
「聞こえなかったのか!? 奴らを始末しろと」
「リュージ様。今までお世話になりました」
「は? お前、何言って」
「数々のミハエル様への非礼、及び度重なる暴言。どれもこれも忘れることは、ございません」
そう言うとリュージに近づき、首元にブスリと何かを注射する。
「あ? れめー、りゃにして」
ガクッと玉座から崩れ落ちると、回らない呂律で何かを訴えるリュージ。それをマギカはゴミを見るみたいな目で、見下していた。
「身体の機能を麻痺させるクスリを打ちました。しばらくは、自動ログアウトの操作もできないでしょう」
「良いのか、それ? 完全にアウトだろ」
「大丈夫です。ちゃんと許可は取りましたから」
どこにだよ。マギカとやらの意味不明な発言に、俺たち3人の心の中は揃った気がした。
というか、こいつ。まさかとは思ってたが、
「お前、『桔梗』か」
「はい。お久しぶりですね、フクロウさん」
俺がそう問いかけると、ニコッと人の良い笑みを浮かべる。
こいつ、変装上手すぎるだろ。今になるまで気づかなかったぞ。
「先輩、知り合いなのかい?」
滅多に見えれないレアキャラの登場に、謎にテンションが上がっていると、ハロンが聞いてきた。ファン2号だよ。
「まあな。桔梗、お前の姉は元気か? 未だ、フルブラにログインしてるのは聞いてるんだが」
「はい。当初は落ち込んでたけど、今は結構元気にやってます。帰ってきたときのためって、張り切ってました」
その報告に思わず笑みがこぼれる。相変わらず元気そうだ。
「なら、姉に伝えてくれないか? 俺がフルブラに復帰したって。フレンド欄が消滅したせいで、連絡を取る方法が無いんだよ」
「それはちょっと……姉より先に私が出会っていたと知ると、怒られそうなので」
………うん。それはなんとなくわかる。
「それで、なんでお前はこんなところに?」
「それは勿論、ことの真相を探るためですよ」
そう言って、床に倒れているリュージの頭を踏みつける。踏まれている当の本人は、驚愕で目を見開いていた。
それは後ろの二人も同じらしく、動揺を隠せないでいる。
「き、君。花鳥風月のクランメンバーだったんじゃ」
「え? クランメンバー? 冗談が上手いですね」
「………ひっ!?」
笑顔なのに、全然笑っていない目を向けられて、ハロンは短く恐怖の声をあげる。女子高生、怖がらせるなよ。
桔梗はそのまま視線をスライドさせて、円の方を見る。その視線には、天網同様、様々な思いが込められていた。
「……私は彼女に殺されるのだろうか?」
武人としての勘を遺憾無く発揮した彼女は、少し後退りをする。
今は時期じゃ無いと悟ったのか視線を外すと、桔梗は再び、足元へと視線を戻した。
「それで? お前は陽炎ってやつを知ってるのか?」
「いえ……会ったこと自体はありませんね」
「ま、後ろ暗いやりとりをしてるんだから、会わせはしないか」
その言葉に、リュージの身体がビクッと反応した気がした。
麻痺させられてるし押さえつけられてるしで、動けるはずはないんだけどな。
「ま、良いさ。俺が今日ここに来たのは、裏が取れてるからだ」
俺がそう言うと、見計らったようにこの部屋に入ってくる人影が。
「お前が陽炎か。会いたかったぜ」
俺がそう言うと、その男はまず俺を見て、次に倒れ込むリュージ、それを踏みつけるハロン、油断なく距離を取るハロンを順番に見ていく。
そして最後に円へと視線を向けて、諦めたように手を上げた。
「降参。まさか、円ちゃんもいるなんて」
ピリついた空気が、その場を流れた。
◇◇◇
「そんな怖い顔しないでよ」
気弱そうな発言の通り、本人もどこか押しに弱そうな雰囲気を醸し出している。どこまでも日本人らしいというか、商社マンらしい。
「陽炎さん。どうしてここにいるんですか?」
「いやー、それを聞かれると困るな。そっちの子に、色々聞いてるんじゃないの?」
高校生に助けを求めるなよ、いい大人が。
「こういうのは、自分から話すのが筋だろ」
「君、大分ガラ悪いね。本当に女の子なの?」
「話を逸らすなよ。後、俺は男だ」
そう言うと、円が凄い目で俺を見てくる。今そこ、関係ないだろ。
「まあ、そうだね。端的に言えば、クレアシオンを裏切った形になるのかな?」
「…………っ!!」
「随分と、言葉を濁したもんだな」
再び、烈火の如くキレ出しそうになる円を遮って軽口を叩く。今ここで、そういう面倒くさいのはいらない。
「でも、マスター……ミハエルさんも随分と口が軽くなったね。まさか、花鳥風月との関係を他人にバラすとは」
おい、今の発言で烈火の如くキレ出しそうな奴が増えたぞ。ハロンも二人の様子に、ちょっと萎縮してるじゃねぇか。
「別にミハエルから聞いたわけじゃない。個人的な筋と、そこから得られた情報を整理しただけだ」
具体的には、冒険者ギルドに置かれてた冒険者リストだな。お前の名前の下に、花鳥風月所属って書かれててビビったぞ。
「じゃあ、そろそろ話そうかな。僕の寝返った経緯ってやつを」




