第九話「ジキル」
ぼくが負けたら、遠乃さんが殺されてしまう。
それは絶対にあっちゃ駄目なことだ。
でも、今のままじゃ絶対におじさんには勝てない。
遠乃さんに「宿題ですよ」っていわれて
教えてもらった魔術も数秒の足止めにしかならなかった。
じゃあ、今一番大事なことはなんだろうか。
ぼくが生きて帰ること?
ううん。違う。
世界を、王様を守ること?
これも違う。
カーリーさんの助けになること?
これもしっくりこない。
ぼくは誰よりも、遠乃さんを助けたい。死んで欲しくない。
だから分かった。ぼくがいまからやらなきゃいけないこと。
ぼくはもう、どうなってもいいから。
おじさんを 倒す。
「あ~今日も冒険楽しかったなぁ~」
遠乃さんと一緒だったから楽しかった。
「早く帰って宿題しなきゃ」
まだ宿題終わってないから遠乃さんに怒られそうだ。
でもきっと、遠乃さんははにかみながら「しょうがないですね」って
分かりやすく教えてくれるんだ。
ぼくは今日ここでいなくなってしまうんだろうけど、
生まれ変わったらもう一度、 遠乃さんに・・・・
「出逢いたいッッッ!!!!!」
その瞬間、ひでは自分の中の闇を解放した。
ひでの周囲にドス黒い魔力が渦巻き、風切り音を立てながらひでに収束していく。
その光景に数秒遅れて気づいた葛城は驚愕した。
「なんだこの気。なんだこの気はぁ!!」
黒い魔力が完全にひでに収束し、
肌の色が若干変わったように見えるひでがそこにいた。
だが、先程とは明らかな異質なそれに、葛城は冷や汗を垂らしながらこう尋ねた。
「君、名前は?」
ひでだったそれは、こう言った。
「 ぼ く ジ キ ル 」
いつの間にか無言ブックマーク兄貴が増えてたので更新しました。
ブックマークありがとナス!