救出
1、
「………、」
女子ロッジの2階。8畳程の広さの部屋の中で、シャロンは1人佇んでいた。
1人に1室を割り当ててくれるとは流石は金持ちだ、と思いつつ、木の枠にはまった窓の外を見つめる。
もう日は落ち、夏場といえども部屋の灯りをつけなくてはならない程に暗くなっていたが、その中に一点の光があった。
「………、始まるのか」
静かに呟くと、シャロンはトランクの中から黒いパーカーを取り出した。
自分が着るには少しサイズが大きい、男物のパーカーだ。
優しく微笑んでからそれを羽織ると、更に黒のキャップを目深に被り、そっと上げ下げ式の窓を開ける。
「さて、遊びはここまでだ」
シャロンは右足を窓の縁にかけると、二階から身を投げるかのように、軽やかに夜空へと飛び出した。
「――いくぜ、ヒーロー。お前が変わらなきゃ、世界も変わらない」
2、
しばらく静寂が2人を包み込んでいた。
そんな中で、翔は明美が発した言葉の意味を吟味する。
アイを助けてくれ、と。確かにそう言った。
翔のパーカーを掴む手は震えていて、眼鏡の奥の綺麗な瞳には涙が溜まっているその必死の様相から、決して冗談ではないことがわかる。
彼女は本気だ。
「…あの、助けてくれっていうのは?」
状況を整理するために優しく問いかけると、明美は少し冷静になったのか、自分の服の袖で涙を拭いながら静かに告げた。
「アイちゃんが…、さらわれたんです…」
「……なっ…!?」
その言葉を聞いて、翔は驚愕する。
アイがさらわれた、なんて俄かには信じ難い話だった。
アイは強い。それは、ただ武芸に長けている、とかそういう話ではない。
そもそも彼女は神だし、その神の中でも歴代順位が2位の神だ。そんな彼女を、どのようにしたらさらえるというのだろうか。
とはいえ、明美がこんな笑えない嘘をつくような少女ではない事も事実だ。
この話は恐らく本当で、つまり只者ではない誰かの仕業なのだ。
『アイをさらえるだけの力量…、まさか最強の神とかか…?』
翔が今考えた中ですぐに思いつく、アイを超える実力者といえば、それくらしか思いつかない。
しかし、最強の神に関する情報を翔は何一つとして知らなかった。
性別も、外見的特徴も、属性も、人柄も、何一つ手掛かりがない。
『…というか、アイも自身も何故か知らなさそうな雰囲気だったような…』
そもそも、一体何のために彼女をさらったのだろうか?
彼女ほどの実力者をさらうとなると、恐らくは計画的な犯行だ。つまり、そこには明確な意思が存在するはずだ。
パーティー絡みの理由か。それとも、個人的な私怨か何かか。
いくら考えても答えは出なかった。
翔がそれらを考えるには、アイや、神、天界の事情を知らなさすぎる。
「明美さん。アイをさらったのはどんな人でしたか?」
今はとにかく、唯一の手掛かりをもっているであろう明美に事情を聞くほかない。
そう思って質問したのだが、どういうわけか明美は目を伏せて黙り込んでしまっていた。
どうしたのだろう、と思って顔を覗き込んでみると、彼女の顔は見たことないほどに青褪めていた。
「…あ、明美さん?」
心配そうにもう一度名前を呼ぶと、怯えたように肩を震わせた彼女が、静かにこちらを見てきた。
まるで獲物に睨まれた小動物のような反応だ。
もしかすると、彼女は彼女でよほど怖い目に遭ったのかもしれない。
「…あ……、アイちゃんをさらったのは……男の人、です…。年齢は20代後半か、30代前半くらいかと…。背はあまり覚えていないんですけど…天道くんくらいだと思います」
その目撃証言だけではそこまで絞れなさそうだと考えこんでいると、明美は相変わらず青褪めた表情のまま、言葉を続けた。
「……アイちゃんは……、銀色の手錠をつけられた途端に…力が抜けたように倒れてしまったんです…」
「銀色の手錠?」
力が抜けたように、というと何か異能のものなのだろうか。
銀色の手錠。アイをさらえた理由の核にあるものである可能性が十分に高い。
ひとまずはそれについてフウに聞くのが手っ取り早いだろう。
翔はまだ涙を浮かべている明美の方へ視線を向けてから、柔らかく笑みを浮かべた。
「とりあえず、明美さんはロッジに戻っていてください。アイのことは、僕がなんとかしますから」
一般人である彼女をこれ以上巻き込むわけにもいかない。
ただでさえこんなに怯えた状態なのだ。一旦落ち着くまで休んでほしい。
本来ならロッジまで送っていきたいところだったが、時は一刻を争うのでそうもいかない。
心苦しく思いながら伝えた言葉に、明美は一瞬何かに迷うように目の中の光を揺らがせてから、「はい」と小さく頷いた。
しかし、翔はこの時気付かなかった。
普通の少女なら「警察に連絡しよう」と言うはずなのに、彼女が何も言わず翔を頼ってきた理由を。
警察に頼んでも、どうにもならないということを知っている人間であるということに。
ロッジの方向へ向かう明美の背中を見送りながら、翔はケータイを取り出した。
翔1人でどうにかすることは厳しい。ここは先程の銀の手錠の件を含め、協力者に協力を仰ぐのが正しいだろう。
「波音さん。お久しぶりです、フウくんいます?」
『あら、天道翔。珍しいですね。あなた今旅行中ではなかったのですか?』
電話をかけてから、僅か数コールで出てくれた波音の声は、普段直接聞くよりも少々高く聞こえた。
「ええまぁ旅行中だったんですけど…、大変なことが起きたんです。フウくんはいますか?」
翔の声が切羽詰まっていたことから、只事ではないことを察知したのだろう。
波音は、スピーカーにします、と先程より低まった声で呟いた。
『スピーカーにしました。フウはそこにいるので、どうぞそのまま話してください』
「ありがとうございます。…実は、アイがさらわれてしまったらしいんです」
『なんだと…!?』
翔が一息おいてから早口で伝えると、すぐ後にフウの驚愕の色を滲ませたような焦った声が返ってきた。
翔が先程明美から聞かされた時と、同様のリアクションだ。
『そりゃ一体どういうことだ。アイツはそう簡単にさらえるような女じゃないぞ』
「その、僕は直接見ていないんですが…、現場に居合わせた人の話だとさらったのは20代後半から30代前半で、僕と同じくらいの身長の男…。それで、アイに銀色の手錠をつけたとかなんとか…」
『銀色の手錠だと?』
それを聞くなり、フウの声色が今まで以上に深刻なものへと変わった。
その反応から察するに、恐らく先程の予想通り、天界に関係のある異能の品なのだろう。
『フウ。その銀の手錠っていうのは?』
『そいつは銀の手錠っていってな。天界に存在する神具の中の1つだ』
「神具…?」
聞きなれない言葉に首を傾げるも、その名からして、大方の想像はつく。
神具。恐らくは、読んで字の如く神聖な道具――天界の道具の一種なのだろう。
『本来神具ってのは創造神である上位個体か、あるいはその上位個体によって使用を認められた者、あとは審判者と呼ばれる天使くらいにしか使えない物なんだが…』
「その…、銀の手錠っていう神具の効果はなんなんですか?」
神具という名がつくくらいだ。通常の手錠のように、ただ拘束するだけのものというわけではないのだろう。
恐らくは、アイがさらわれてしまう理由の根幹となった効果があるはずだ。
『…お前、アイから神の弱点について聞いたことはあるか?』
フウの真剣な問いに、いえ…と否定の言葉を返しながら、翔は顔を俯かせた。
翔はアイから、天界についてのことや自身のこと、そういった話は殆ど聞いたことがない。
今思えば、そういったところからして、アイは自分をパートナーとして認めていなかったのかもしれない。
そう思うととてもへこむが、今はそんなことを気にしている場合ではないと思い返し、その後に続くフウの言葉に耳を傾けた。
『まぁ神っていうのは本来強大な力を持っている。そんな奴らが万が一暴走を起こしたりしたら、世界は大変だろ?』
この世の創造神。そして、そんな神から生まれた下位個体の神々。
確かに下位個体とはいえ、創造神から受け継いだ10の能力をそれぞれ司る神々だ。
そんな力を持った神々が、反逆や暴走などをした場合、恐らく世界はただでは済まないのだろう。
『成程。そのために神の力を制御する弱点となりうるものが必要だったのですね』
『ああ。それが天界で開発された〝銀〟と呼ばれる物質だ』
神の弱点。神の暴走を制御するために、特別に開発された銀という物質。
そこまで話を聞けば、銀の手錠の効果は大体予想が出来た。
「……つまり銀の手錠は、〝神の力をおさえこめる神具〟ってことですね?」
『そういうことだ』
フウとの会話が途切れ、一旦その場に沈黙が訪れる。
そういった効果の神具であれば、アイがそれをつけられたことで力が抜けてしまったことにも合点がいく。
『しかし、さらったのは20代後半から30代前半の男か。神具を天界から持ってこれるとしたら神くらい…今パーティーに残っている神の中で20代後半の男の容貌をしてる奴なんて闇を司る神くらいだが…』
「なんか納得いかない感じですね?」
『今回のパーティーはまだ半分以上神が残ってる。あいつはいつも最終決戦まで自身の姿を現したりはしないはずなんだがな…』
このタイミングでわざわざアイをさらったりするだろうか、とフウは疑問を口にした。
言われてみれば、それは確かにそうだろう。
一瞬自分がパートナーをクビになったからかとも考えたが、神具を盗むということは計画的な行動のはずだ。
いくら神とはいえ、今日いきなり翔がアイのパートナーをクビになるなんて予知出来なかっただろう。
『考え方が甘いんじゃないですか、フウ』
『え?』
と、悩むフウの横にいるであろう波音の綺麗な声が、突然割って入ってきた。
『神具を天界から持ってこれるとしたら神しかいないかもしれません。でも持ち出した者がイコール使用者とは限らないでしょう?』
「波音さん。それってつまり…?」
『もしかすると銀の手錠を持ち出して、その後で誰かに渡したのかもしれません。例えば――アイさんに恨みを持っている人、とか…』
神具を天界から盗んできたのは闇を司る神。
しかし、今回の事件を起こしたのは、闇を司る神と接触した別の誰かではないか。
波音が言っているのはそういうことだ。
「…波音さんはやったのが人間である可能性があるって考えているんですか?」
『ええまぁ。フウ、思い当たらないんですか? アイさんに何か恨みを持ってそうな人間とか…』
『そう言われてもな…俺だって、パーティーの度に毎回アイと一緒にいるわけじゃねーしな。…そもそもアイツが誰かに恨みを持たれるようなタイプか…?』
確かに人間で恨みを持っているとなれば、パーティー関係者である可能性は高い。
だが、確かにフウだって今回はたまたま協力関係だが、今まではそういうわけではなかっただろう。
そうなると、アイの対人関係を全て詳しくは知らないはずだ。
『…くそ、とりあえず俺らもそっちに向かうか? 現場に行かなきゃ状況もわからねぇし、天道一人で動くのもキツイだろ』
『ですが、今からだとそれなりに時間がかかってしまうのでは……』
『そうだよな…。おい天道、その島にお前以外にパーティーについて知ってる奴はいないんだよな?』
「ええ…、みなさん普通の方ですので…」
普通といえるかは微妙な面々ではあるのだが、パーティーという事柄を基準にして考えれば彼らは一般人だ。
こちら側の事情に巻き込むわけにはいかないし、そもそも神の力の話をしても信じてもらえるとも思えない。
アイが誘拐されたと話せば警察沙汰になって、余計な方向に事が転じてしまう可能性の方が高い。
『だとしたら、やっぱ俺と波音がそっちに向かうのがいいか。おい、スマホで地図送ってくれ。結構かかっちまうかもしれねーが…』
「あ、わ、わかりました」
一旦スマホを耳元から離して、地図アプリを開こうとして、電波が悪いことに気付いた。
この急いでいる時に、と毒づきつつも電波が入る場所を探して翔は少し歩いてみる。
しかし、電波が入るかどうかに夢中で、スマホの画面しか見ていなかったために、――曲がり角で誰かにぶつかった。
「うわっ」
「きゃっ」
2人同時に声をあげて、彼女だけが少し後ろにのけぞった。
相手の頭の位置が翔の肩より少し下の辺りだったことから、相手はかなり小柄であること、それと同時にあげた声が女子のものであることを瞬時に判断する。
「あ、す、すみません…! 前を見ていなくて…!」
反射的に謝ってから翔は少しの違和感を覚えた。
この島は自分たちの貸し切りで、今この島にいる人達は全員知り合いのはずだ。
にも関わらず、今の声は今日来ているメンツの誰にも当てはまらないものだったのだ。
何故、と考える前に翔は今しがたぶつかった相手の姿に目を瞠った。
「……あなたは」
月明りで照らされる輝かしい金髪。白い肌に、澄んだ水色の瞳。
それは、前にも一度だけ、こんな夜に出会ったことのある少女だった。
「ミカさん、ですよね?」
『ミカだと?』
スマホからフウの驚いた声が聞こえる。
驚くのも当然だ。翔自身も十分驚いたし、別人かともう一度確認するも、その容貌は明らかに剛力を司る神のミカだった。
一方の彼女の方も、少し驚いたように目を瞠ってこちらの姿を確認する。
「あ、あなたは…アイ先輩のパートナーの…?」
どうやら、あの時一瞬しか顔を合わせていないにも関わらず、翔のことを覚えていてくれたようだ。
彼女はきょとんとあどけない表情を浮かべてから、今度は翔が手に持っているスマホに目を向けた。
「それで…、そこから聞こえる声はフウ君ですか?」
『やっぱりミカか…! アイが大変なんだ…! 頼む、協力してくれ…!』
それまで穏やかな表情を浮かべていたミカだったが、フウの必死の声とアイという二文字を聞くやいなや、真剣な表情に様変わる。
そして、それから一切の迷いもなく「説明をお願いします」と先を促すのだった。
ここまでの経緯をフウが一通り説明すると、ミカの顔つきは曇っていた。
「……やっぱりそんなことになっていたんですね…」
「やっぱり、っていうと?」
「実は私がこっちへ来た目的の1つも銀の手錠の回収だったんですけど…」
遅かったようですね、とミカが無念そうに呟く。
翔が思っていた以上に事態は深刻な方向へ進んでしまっているようだ。
「…しかし、上位個体から銀の手錠を持ち去ったなんて。一体誰の仕業なんでしょうね…」
『上位個体のところから持ち去ったとなると、やっぱり出来るのは闇を司る神くらいじゃないか? アイツなら気配を消して持ち去るのもわけないし』
「ですよね。なんにせよ闇を司る神が関与しているのは間違いないとは思います。アイ先輩らしき気配も、犯人らしき気配も一切感じませんし…」
恐らくは、彼女にも打つ手がないのだろう。ミカは最後の方の言葉を濁しつつ、困ったように呟いた。
しかし、そんな状況でこそ冷静さを発揮するのは波音だった。
『気配を感知できない以上、推測のもと居場所を特定するしかないのでは。神具を盗んだ犯人は、アイさんをさらった犯人に問いただせばいいですし、アイさんをさらった犯人の方は見つけてから直接ぶん殴れば済む話ですしね』
「…相変わらず波音さんって変なところ物騒ですよね」
お嬢様なのに、とも思ったが波音のこういうところは今は非常に頼もしい。
今はこれ以上考えていても何も出てこないだろう。となれば、あとは行動に移るしかないわけだが…。
「ただまぁ…、場所を推測するにもわかってないことが多すぎて…」
『はーい、困ったときのメイドさんターイム☆』
………………………………………………、
…………………………………………………………………。
突然、電話の向こうに声が1つ増えた。
あまりに突然の出来事に、電話を介して話していた人々全員が一瞬沈黙に包まれ――、
『か、カレン!? あなたいつの間に…!?』
「カレン、さん?」
ミカだけが声の主が誰なのか分からずにきょとんとする中で、翔はふとリズとの戦いのことを思い出す。
あの時幼馴染の栞菜を助けるために河原に向かう際、バイクで送ってくれたのがこのカレンだった。
しかし、あの綺麗な風体からは想像がつかないようなスピード違反運転だったり、そもそもが無免許運転だったり、何もかもが滅茶苦茶だったのだ。
ただ、その時からカレンの並外れたハイスペックさは知っているわけなのだが。
「カレンさん…! 何か知ってるんですか!?」
『ええ、まぁ。知らなきゃこんな大々的に登場しませんよね』
カレンはこの状況でも、波音とはまた少し違った意味で冷静だった。
彼女は普段の声のトーンと一切変わらぬテンションで、話を続けた。
『んー、ちょっくら色々と調べてみたのですが、ここ最近アイさんをずっと見ている影がありまして』
「アイを…?」
『ええ。いろいろなところの映像をハッキングしてみたんですけど』
『カレン。まさかとは思うけど、うちの学園の監視カメラをハッキングしたんじゃないでしょうね?』
『ふふふ、波音様ったらそんな細かいことはいいじゃないですか』
主から冷ややかなツッコミが入ったが、華麗に躱すカレンの言葉を聞き、恐らくしたのだろうなと同時に確信する翔と波音。
本来であればあれだけ規模の学院監視カメラがハッキングされるなどあってはならないことだが、こればかりは仕方あるまい。
咲城カレンがメイドであるが所以だ。
「でも…、アイがそんな怪しい気配に気づかないなんてことありますかね?」
彼女のスペックを考えると、それくらいならすぐに気付きそうなものだが。
『いや、そいつが闇を司る神にコンタクトされてたらおかしくない。奴は自身の気配を消すだけじゃなく、他の者の気配を隠すこともできるからな』
以前のリズの認識疎外を思い出しつつ、翔はなるほど、と頷いた。
闇属性というのも、十分厄介な属性であるようだ。
『それよりも、フウくんはこの男の人ご存知ですか? 年齢は30前後だと思われます。名前は――小坂修平』
「……! その名前、アイ先輩の以前のパートナーです!」
その名を聞いて真っ先に反応したのはフウではなく、ミカの方だった。
「15年前のパーティーの時のパートナーです。確か当時16歳くらいだったので…今は30くらいかと」
『ああ、あいつか』
ミカの話を聞いて、フウも受話器越しに相槌をうつ。
15年前のパーティー。ということはつまり、翔の兄である光の、その更に前のパートナーということになる。
「30くらいだとすると、明美さんの目撃証言とも一致するけど…」
しかし、目的は何なのだろうか。
どうして15年も経った今になって、アイをさらう理由が全く分からない。
「あの人だとすると、さらにアイ先輩が心配です…。気配は感じられませんが、とりあえず探すしかないですね」
『ミカ。天道は以前、体育祭の時にリズの認識疎外にかけられていた奴を見つけたこともある。とりあえずそれでいってくれ』
そんなこともあったな、と思いつつ翔も頷く。
正直あの時は無我夢中だったので、どうやって見つけたのか一切覚えていないのだが、今回もなんとか見つけられるよう頑張るほかないだろう。
「はい、頑張ります。フウくん、波音さん、カレンさん。ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございますっ」
翔が礼を言うと、ミカも続けざまにお礼を述べた。
と、そこでカレンがミカの存在に気付いたのだろう。少し不思議そうな声を出してから、
『あなたはもしや、体育祭の時にいらっしゃった剛力の女神様ですか?』
「へ…? あ、はい…」
何故会ったことがないはずなのにわかるんだろう、と思ったがもう言わないでおこう。
ミカ自身も受話器の向こうの謎の女性が自分を知っていることを不思議そうにしていたが、まぁ時が時なので今は特にそこを深堀する様子はなかった。
肯定の言葉を受けたカレンはどことなく楽しそうな声で「そうですか」と応じた後に、
『あの子もそろそろ招待されるのかしら?』
と、意味深に呟くのだった。
3、
電話を切って、翔はとりあえず島の南側――一番最初にヘリが降りた場所に来ていた。
島全体の見取り図を見に来たのだ。
そんな大きな島じゃないとはいえ、ただ闇雲に探すのは効率が悪いので、ひとまず島の地理状況を把握しておきたい、というミカの提案だった。
「…あの、ミカさん。その修平って人は、どんな方なんですか?」
真剣に地図を見つめているミカに、翔は聞きたかった問いを口にする。
先程その名を聞いた時のミカの反応は、恐らくマイナスイメージの評価だろう。
もしもその人物がかかわっているのだとしたら、話を聞いておきたかった。
「………、修平さんは15年前、即ち前々パーティーでのアイ先輩のパートナーだった方です」
翔の問いに対して、ミカは地図から目を離すことなく、静かに答える。
「前々パートナーっていうと、僕の兄さんの前の?」
「はい。天道先輩は、アイ先輩の過去の話はご存知ですよね」
「多少はフウ君から聞いてますが…」
以前、兄の墓でフウの口から語られた過去を思い出した。
彼女が毎回、パートナーから刃を向けられて絶望していたこと。
そして、そんな彼女を救ったのが、前パートナーである自身の兄であること。
しかし、闇を司る神の卑劣な策略により、そんな兄を自身の手で失う形でクイーンになったことを。
「アイ先輩は、光さんに会うまでパートナーと心通わせたことはありませんでした。つまり、修平さんも…」
「アイに刃を向けた、ってことですか?」
「ええ。アイ先輩はもうあきらめていたようなので何も感じていませんでしたが…」
アイに刃を向けたパートナーのうちの一人。
刃を向けたその理由は分からない。アイ曰く、殆どのパートナーが徐々に自身の力に恐れをなして、という話だったが。
だが、そうだとすると、
「そんな人が…、なんで今更アイをさらうんでしょうか?」
「私もそこまでは分かりません…。ただ、アイ先輩に対して何らかの執着を持っているのは確かだと思います。闇を司る神はその感情を利用しているんだと思います…いつもそういう手口なので」
「まぁどちらにせよ、アイが危険なことに変わりはないわけですね」
一通り地図を頭にいれたのか、ミカが地図から目を離して翔と向き合った。
「でも天道先輩の言う通り、確かに色々と妙ですよね。アイ先輩を倒す目的なら、さらう意味がわかりません。力が抜けたところでそのままバッサリ倒しそうなものですし…」
「…まぁ、それもそうですよね…」
「銀の手錠を持ち出した意味が、もしかすると他にもあるのかもしれません」
「…他にも…?」
日頃のふわふわとした緩い雰囲気からは考えられない洞察力だと思った。
彼女もやはり神の一角であり、アイの後輩なのだと感心していると、ミカはポケットから素早くケータイのような機械を取り出した。
「それは?」
「先程天道先輩が使っていたのと同じようなものだと思います。天界にいる子と通信が出来るんです」
「ああ、なるほど」
こちらのスマートフォンと似たような形のスケルトンの機械を見て、翔は頷いた。
スケルトンの中身にごちゃごちゃした配線などが見当たらないところを見ると、こちらとは違った技術で動くものなのかもしれないが、用途は同じらしい。
「私達がアイ先輩を探すのと同時進行で目的を調べてもらおうかと思いまして」
「調べてもらう?」
「アイ先輩には存在しないのでご存じないかもしれませんが、神には仕事や雑務を手伝ってくれる天使が存在するんです。補佐天使、といいます」
補佐天使。
その名の如く、神の仕事を補佐する天使のことだろう。
神の行う仕事がどんなものか全く想像もつかないが、補佐の天使がつく程度には大変な仕事があるらしい。
「私の補佐天使は天界随一のブレイン、といわれていて…。要するに凄く頭の良い子なんです」
「おお! それじゃあ早速連絡を!」
翔が連絡を促すと、ミカは何故か困った顔をしてから、申し訳なさそうに呟いた。
「………、天道先輩。あの、大変申し訳ないんですけど…、これの使い方わかりますか?」
そういえば、彼女の先輩であるアイも、機械の扱いが苦手だったな、と思いつつ、翔は触れたことのない機械に手を伸ばすのだった。
操作方法は大体こちらのスマホと同じだったので、なんとか連絡をつけることが出来た。
翔の助けを借りながらも、淡々と補佐天使に指示を出したミカは、連絡を待ちながらアイの捜索に踏み切ることにした。
「とりあえず、この島は現状オープン前でまだ未開拓の地と、工事中の建物があるようなので、怪しいとしたらそちらの方かと思います。いくら認識疎外をかけているとはいえ、天道先輩たちが泊っているロッジの近く拠点は置いていないと思うので」
「じゃあそっちに向かいましょう。幸いここからならそう遠くないみたいですし」
お互い目を合わせて頷きあうと、同時にそちらの方向へ走り出した。
「…そういえば、天道先輩。走りながら質問しても良いですか」
「へ、は、はい?」
「すみません。今回のこととはそんなに関係のない話なんですけど、この島に天道先輩以外に男の方っていらっしゃいますか?」
既に若干息を切らしている翔に対して、一切息を切らしていないのは流石神だと思う。
自分より遥かに小柄で、運動が苦手そうに見える少女が平然と走っているのを見て少し悲しくなりながら、翔はミカの質問を反芻した。
翔以外の男、というと、友人のユウマと五十鈴の執事の桜澤、そして壱夜だが、
「あの、背が高くて、黒髪で、綺麗な藍色の目をした方がいらっしゃると思うんですけど」
「ああ、それは僕の友人のユウマです。新橋ユウマ」
背が高くて黒髪、の時点で候補はユウマ一人に絞られた。
しかし、どうしたって今ここでユウマの話題が出てくるのかは分からない。
ミカは「新橋ユウマさん」と名前を反芻すると、見たことのないような不思議そうな表情をしていた。
「ユウマがどうかしました?」
「あ、いえ…。少し気になるというか、引っかかることがあったもので…」
引っかかることとは、と聞こうとしたところで、タイミングよくミカのケータイが音をたててなった。
ミカはその音を聞くやいなら、すぐさまポケットからケータイを取り出して、
「一回話を聞きましょう。すみません、これ出ていただけますか?」
と、すっかりケータイ扱い係となった翔にケータイを渡した。
「流石メ—ヴェルちゃん、早いですね」
『そりゃもう、ミカ神の頼みならハッキングでも何でもすぐさま終わらせますとも!』
一旦足を止めて、ケータイの通話に応じる。
出る際に、一応スピーカーボタンを押しておいたので、通話相手のメ―ヴェルという少女の声が翔にも聞こえているわけなのだが。
「……なんか、恐ろしいこと言ってませんかこの方?」
「あはは…。さらっと出来てしまうあたり凄い子なんですよ…。まぁ非常事態なので、ハッキングくらい良く……はないでしょうから、私から後で上位個体様に謝っておきますね」
『はっ!? 私のせいでミカ神が頭を下げることに…!? 申し訳ありません私も一緒に頭を下げますというか私が頭を下げるのでミカ神は何もしなくて大丈夫ですから…!』
「えと、あの、メ―ヴェルちゃん、私は大丈夫なので報告をお願い出来ますか…?」
相手の妙なハイテンションに困りつつ、ミカが先を促すと、受話器の向こうで『私としたことが…!?』と再び愕然とする声が聞こえる。
…なんだろう。神も十分おかしいが、天使も天使でなんだかおかしい気がする。
『さて、それでですね。もし、私の予想が当たってしまった場合、大変なことになるので先に結論から申し上げます』
報告となると、途端に真面目なトーンになったメ―ヴェルという少女は、冷静に告げた。
『銀の手錠に関する文献の中に、とある禁術の記録が存在していました』
「禁術?」
禁術。恐らくは、天界で禁じられている術の一種のことだろう。
禁術と言われるくらいなのだから、当然禁じられるだけの理由があるわけで、それは恐らく危険なものだ。
『内容は殆ど記載がなかったので不明ですが、タイトルからして凄く危険な匂いがしましてね』
「そのタイトルは…?」
メ―ヴェルは一息置いてから、静かにその禁術の名を告げた。
『――神を人間にする禁術、と』
………、
はい。お久しぶりです。
初めましての方はお気になさらず。
いや本当お久しぶりすぎんだろって方、
本当に申し訳ありませんでした…。
ただここで私の言い訳なんぞ書いても
意味がないのでさらっとまぁ色々ありつつも
社会人になったことだけご報告いたします
今後も忙しい日々ではありますが、
更新は続けていきたい次第ですので
どうぞよろしくお願いします。
と、いうことで本編も雲行きが怪しいまま。
それでもミカという助っ人を得て、翔はどうするのか。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!
読んで下さって、ありがとうございました。




