ぴゅあな2人が離してくれない
私は、そんな親友の態度に早々に痺れを切らした。
素早く愛用の手帳を開くと、そこへペンを走らせた。内容は、私達がこの後に行く予定だったカフェの店名と簡単な地図。
書き終えた紙を小さく折りたたむと、次男の目の前に差し出した。私だと勘違いされないようにサティに視線を向けながら「あちらのお客様から~」と言うように。
「…私の親友が、貴方の戦いぶりにすっかり見惚れてしまったようです。私達はこの後、ここのお店でお茶をする予定ですの。なのでぜひ騎士様も。」
ちゃんと、私ではなく親友の為と強調して伝えてから微笑む。すると、サティもまた、「ノ、ノーラ!?そんな、急に迷惑だわ」と、顔を手で覆いながらも指の隙間から様子を伺ってきた。
「……必ず、……行きます」
私のメモを受け取り、次男はまるで自分に言い聞かせるように力強く頷く。そして大切そうにメモを握ると、ギクシャクした動きで仲間たちの元へと戻っていった。途中で何度もサティの姿を確認するように振り返る。そのたびに、顔を赤くしているのが見える。
「さあ、行きましょうサティ。貴女の気になるカフェへ。……最高の『作戦会議』になりそうね。私達が義妹になる日も近いわ!」
「え!?義妹なんて、そんな!気が早い」
…
そうして、先ほどの訓練場近くにある王都でも評判のカフェにやって来た。本来なら私の作戦に付き合わせる代わりに行く予定だったサティの気になるカフェ。
そこがまさかのデート会場へ変わったのだ。
白亜の壁に花々が咲き乱れるお洒落なカフェ。サティは、サッパリした性格な割にこういう乙女チックな所が好き。今までは少し意外だと思っていたけれど、さっきの乙女な態度を目の当たりにしてからだと似合っているように思える。
私たちは、通りからよく見えるテラス席を陣取り、次男を待っていた。
「サティ、そんなにハンカチを絞り上げたら破れてしまうわ」
「だって……どうすればいいのよ。あんな気持ち、初めてなんだもの」
いつものサッパリとした態度はどこへやら。早々に注文したベリーのタルトにも手を付けず、落ち着きなく訓練場のある方向の道を見つめている。
そうして、ほんの少し待ったところで、街着に身を包んだ次男が現れた。その服装はシンプルだが、スタイルの良さで垢抜けて見える。
サティがその姿を確認して俯くものだから、私が代わりに手をヒラヒラと挙げて合図をする。なかなか繁盛しているカフェだった為、それでやっとこちらに気が付いて貰えた。
(世話のかかる親友だわ)
その時は、そんな事を考えながら微笑ましく眺めていた。
……が、ここからが地獄の始まりだった。
…
…
「……本日は演習、本当にお疲れ様でした。たまたま観戦に伺ったのですが、まさか親友にこんな素敵な出会いがあるなんて」
「……はい」
「サティも、こんなこと無かったらしいんです。運命でしょうか。ねえ、サティ?」
「……はい」
(「はい」しか言わないのか君たちは!!)
二人は向かい合って座っているものの、顔を上げようとしない。時折顔を上げれば、見事に視線が合い、再び沈黙が流れる…という超ぴゅわぴゅわ空間が出来上がっていた。
私が必死に話題を振り、場を繋いでみるけれど…。次男はガチガチに緊張して紅茶のカップを割らんばかりの力で握りしめ、サティは俯いて自分のお膝をじっと見守るばかり。
(苦しい……! この沈黙の重圧)
私が冷めた紅茶で喉を潤しながら、カフェの外の通りを眺めた。
(誰か…助けて。この2人が、私を砂糖漬けにでもしそうな勢いなの)
願いを込めて人混みを眺める。しかし、その中に都合よく知り合いがいるわけでもない。
(私…絶対邪魔よね?)
そう考えて、私は離脱を試みた。
「それでは、後は若いお二人で…」
仲介人みたいな言葉を残し、席を立とうとした瞬間。サティの手が、私の肩を掴み椅子に押し戻す。
それは一瞬の出来事だった。
私は確かにさっき立ったはずだ。
それなのに今…再び椅子に座っている。そして、サティの手はいつの間にか私の服を掴んで離さずにいた。
(逃げれない…)
しかし、次男はきっとサティと二人きりが良いわよね?と思って視線を送ると、私の行動を否定するように左右に首を振った。それは「見捨てないで」とでも言い出しそうな瞳をしている。
私は、こんなぴゅわに挟まれていなければならないの??そう考えながら渋々、人混みを眺める作業へと戻ったのだった。
…
それからどれほど時間が経っただろう。
私は人混みの中から見覚えのある栗色の髪が素敵な頭を見つけた。
私は今ほど、この世の女神の存在を強く感じた事はない。
それはまさにこの状況から救ってくれる救世主。
「アルト様!」
カフェテラスから見える通りの人混み。その中に、ラインハルト殿下の他の側近候補たち数名と共に、談笑しながら歩くアルト様の姿が。私は救いを求めるように、思わず立ち上がって手を振る。はしたないと言われても構わない。可能な限り大きな声を出した。
私をこのぴゅわ地獄から救ってほしい。
切実に。
すると、奇跡的に声に気づいたアルト様が足を止め、パッと周囲を確認するような仕草をする。逃してはならない!このビッグチャンス!!もう一度「アルト様、こっちです!」と更に声をかける。すると、やっとこちらを見つけてくれた。
彼は状況を理解しようとしてか私達を眺めた後、何故か彼の表情から血の気が引いていく。
「っ……ノーラ様……!?」
アルト様は、側近仲間たちに何かを告げると、脱兎のごとき勢いでこちらに駆け寄ってきてくれる。テラスの柵を飛び越えんばかりの勢いで詰め寄ってきた彼の瞳は何故か悲しそうにも見えた。
「アルト様、ちょうど良いところに! 今、お話を……」
「……兄上と、デート…なのですか…?」
アルト様の絞り出すような声。
あ、なるほど、分かりました。
きっと彼は、私が次男にちょっかいを出していると思ったのだろう。




