次男を落とそう
私には時間がない。
ハイエナ達に、彼が狙われる今…私は急がねばならないのだ。だから伯爵家当主が「長男が駄目なら次男を」と言い出す前に、次男に相手を見つけてもらう。
「ねえ、ノーラ。あっちが第三部隊?」
「そうみたいね、みんな甲冑を頭からスッポリと被っているから…誰が誰なのか分からないわ」
そうして見ていた演習が佳境に入り、一際大きな怒号が上がった。勝ったのはどうやら第三部隊…多分。
勝ったらしい第三部隊は甲冑を取り、やっと顔が現れた。そして観客席へ近寄り礼をする。
その中に、アルト様と同じ栗色の髪を、より短く、野性的に刈り込んだ青年の姿が。アルト様の可愛らしさを削ぎ落とし、背を高くして体格を良くした…という印象。彼こそが、伯爵家次男なのだろう。
「……」
アルト様に聞いた通り無口な様子。
女性たちが騎士様を近くで見ようと駆け寄って来たにも関わらず、少し頭を下げる程度で何も言わない。他の騎士達はプレゼントを貰う者がいたり、多少挨拶を交わしている。ここもきっと社交の場なのだろう。
次男は荒い息をつきながら、無造作に首筋の汗を拭っていた。その無骨な仕草に、周囲の令嬢たちから小さな歓声が上がる。私は目を細め、彼に駆け寄る女性たちを眺めた。
「さて、次男の恋人らしき令嬢は…?…特定の人物はいなそうね」
そう呟き、ふと隣の親友に同意を求めようとした時。自分の隣で時が止まったかのように硬直している気配に気づいた。
「……サティ?」
サティは、いつもの態度をどこへやら、一点を凝視していた。その視線の先には、同じように立ち尽くす次男。
彼は、周囲に群がろうとする令嬢たちなど目に入っていないようだった。土に汚れ、汗に濡れたまま、彼はただ一人、観覧席に立つサティを見上げている。
「…………」
二人の間に、言葉はなかった。
吹き抜ける風がサティの髪を揺らし、次男の視線を集める。サティは、そんな次男の姿を目に焼き付けるように…そして目が離せないと言うように眺めていた。
まるで世界に二人しかいないかのような、濃密で甘やかな静寂がそこにある。サティの頬が、見たこともないような鮮やかな薔薇色に染まっていく。
そして無口で不器用と評されていた次男が、吸い寄せられるように一歩、また一歩と、観覧席の方へ歩み出した。
(えっ……親友の私を差し置いて、まさか両思い??)
私はふと考えた。
親友の義妹になれるのも悪くない!!うんうんと頷きながら二人の様子を見守る。
二人の間に流れる空気は、あまりにも純粋で、それでいて言葉にならない熱が存在する。こちらまで甘酸っぱい気分になってしまうじゃないか。
「……あの」
次男が、喉の奥から絞り出すように声を漏らす。しかし、続く言葉が出てこないのか、顔を真っ赤にして視線を泳が
せ。サティもまた、頬をこれ以上ないほど赤く染め、視線が合うたびに持っていたハンカチをぎゅーっと握りしめていた。
(……ぴゅ、ぴゅあぴゅあか!! これじゃあ日が暮れても挨拶一つできないわ!ここで一泊するつもりなの?君たちは。)
不器用すぎる騎士と、今恋を知ったかのような少女。このままでは、二人はただ見つめ合ったまま石像にでもなってしまいそうだ…。




