アマノの話
――やめておけ。
恋愛運にそう書かれていた。
――嫌よ。私はルイのことが好きなの。御御籤に何と言われようとあきらめない。
アマノは御御籤を四つに畳むと、おみくじ掛けに結んだ。
アマノは町の守り神、「鬼切神社」に参拝に来ていた。昔々、神社のある山に巣くっていた鬼たちを源頼信という武将が退治したという伝説のある神社で、鬼を斬るで「鬼斬り神社」と呼ばれたものが、「鬼切神社」になったようだ。
その「おにぎり」という名前から「お結び」を連想し、「お結び」から縁結びを連想することから、昨今では縁結びの神様として有名になった。
縁結びで有名な神社だ。遠方からの参拝者も多いと聞く。御御籤がよく当たると評判で、片思いの彼、ルイに告白するかどうか確かめたくて、アマノは神社で御御籤を引いてみた。
ルイは芸能事務所からスカウトが来たことがあるという噂のあるイケメン男子だ。明るく、運動神経抜群、ダンスが上手で、ルイに憧れる同級生の女の子は多かった。
だが、その結果はアマノの希望とは違ったものだった。
その晩、アマノは幼馴染の若林に電話をかけた。
「ジャク。今日、神社で御御籤を引いたんだけど――」
アマノは若林のことをジャクと呼ぶ。若林の若を音読みしてジャクなのだ。
幼馴染の若林には何でも話すことができた。ルイが好きで告白しようか迷っていることも伝えてあった。
御御籤の結果を伝えると、「御御籤って、自分の気持ちを確かめるものだと思う。ああしたい、こうしたいという希望があって、その気持ちを確かめる為に御御籤のお告げを読むのさ。上手く行かなくたって、神社が責任を取ってくれる訳ではないだろう。自分の気持ちを信じることだ」と若林は言った。
「そうだね。あんた、良いことを言うね。私、明日、ルイに告白してみる」
翌日、アマノはルイを校舎裏に呼び出すと、「あなたのことが好きなの」と告白した。ルイは「はは」と大笑すると、「お前と俺じゃあ、釣り合わないと思わない?」と聞いた。
「釣り合う?」
「彼女はもう三人いるからさあ、お前、俺のパピーにしてやるよ」
「パピー?」
子犬のことをパピーと言う。
「俺のファンのこと、パピーって呼んでいるのさ。今度、ダンス大会に出るんだ。その時、応援に来てくれよ。投げ銭で応援してくれたって良いぜ。俺の推しにしてやるよ」
「・・・」
アマノは気持ちが覚めて行くのを感じた。
実際に会って話をしてみると、最低の男だった。
高校を卒業すると、アマノは近所のスーパーで働き始めた。
勉強は嫌いだったし、成績も悪かったので、進学する気はなかった。何かやりたいことがあった訳でもないので、就職することを選んだ。
実家からスーパーに通い、結構、忙しかったので、お金を使う暇がなくて貯金が出来た。久しぶりに会った友人に、その話をしたら、「ねえ。古着屋をやろうと思っているんだけど、出資してくれない?」と言われた。
「大丈夫、センスには自信がある。絶対、もうかるから」、「古着を仕入れるのにお金が必要なの」、「出資してくれたら、出資分に応じて、毎年、配当を払うから」、「私の試算では毎年――」と言って、金額を提示してくれた。ひと月分の給料以上あった。
友人は何時もお洒落な恰好をしていて、アマノは密かに憧れていた。
「ちょっと考えさせて」と友人に言ってから、久しぶりに神社に出かけた。鬼切神社の御御籤は当たると評判だ。実際、高校時代に憧れの人に告白した時に、「止めておけ」と言われたのに告白して嫌な思いをした思い出があった。
――やめておけ。
御御籤を引くと、商売運にそう書いてあった。
――やっぱり止めておこうか。
と思ったのだが、幼馴染の若林に電話をかけて聞いてみた。若林は成績が良かったので、大学に進学している。頭の良い彼なら、きっと良いアドバイスをくれると思った。
留守電になっていた。若林も忙しいのだろう。出資のこと、どう思うか聞いてみたい――とメッセージを残しておいた。
折り返し電話が来た。
「好きと売れるは違うからね。古着を仕入れたのは良いけど、在庫が溜まって、現金が回らなくなって倒産というケースが多いようだ。出資するなら、相手をよく見て、センスが良いかどうか見極めないとダメだ」
若林がそう教えてくれた。
「そう。彼女、洋服のセンスが抜群なのよ。古着屋をやれば、上手く行くと思う」
「なんだ。君はもう決めているんじゃないか。出資するって。それを確かめたくて電話をして来ただけだろう」
「うん、まあ。また御御籤を引いたら、止めておけって言われてしまったし・・・」
「ふ~ん。まあ、御御籤は所詮、御御籤だからね。振り回されないことが大事だ」
「そうね。ジャクは何時も私の背中を押してくれるね。だからジャクのこと好き」
アマノは出資を決めて、友人に貯めておいたお金を貸した。
友人は音信不通になった。
アマノも年頃だ。彼氏が欲しくなった。
鬼切神社は縁結びで有名な神社だ。彼氏が出来ますようにお参りをして、御御籤を引いた。恋愛運を見る。
――ひねくれものに恋なんて無用。
と辛辣な言葉が書いてあった。
余計なお世話だ。確かに、今まで御御籤のお告げに逆らってばかりだったが、そんなことを言わなくても――とアマノは思った。
待ち人の運勢を見る。
――来ないからと言って、身近なところで済ませるな。
と書いてあった。なんだこれ――と思った。
身近な人と言われて、真っ先に頭に思い浮かんだのは若林の顔だった。幼馴染だけど、若林は大学に進学して楽しくやっている。頼りにはなるけれど、自分とは違う世界に行ってしまったような気がした。
ずっと仲の良い友だち、幼馴染だと思って来たが、この前、ついうっかり「ジャクのことが好きだ」と言ってしまった。
自分で自分の言葉に驚いた。そして、その言葉を意識してしまった。
――無理、無理。私なんて、相手にされないよ。
と思った時、「アマノ!」と声をかけられた。
振り返ると若林がいた。




