第26話 地下祭壇の秘宝
モンスターを狩りながら前進を続けた3人は、大量の素材でパンパンに膨れ上がった荷物袋を担いで、ようやく妖精の泉までたどり着いた。
地下空洞に静かに広がる妖精の泉。その中央には浅瀬があり、古びた石の祭壇がひっそりと佇んでいる。
前回エルが来た時はたくさんのハーピーが群がっていたが、今日は彼女たちの姿がどこにもなかった。
「おかしいな。ハーピーたちはどこに行ったんだ」
エルはキョロキョロと辺りを見渡すが、シェリアは特に気にする様子もなく、
「へーえ、ここであのキモ妖精を拾ってきたわけね。今回は私自身の手で、ちゃんとしたハーピーを捕まえたかったんけど、いないものは仕方ないか」
「あれ? シェリアは随分あっさりしてるんだな」
「そりゃ私だってハーピーに願いを叶えて欲しいとは思うけど、この前あんな風に言ったのは、エルが折角のチャンスを棒に振ってキモ妖精を選んだからよ。アイツのどこがいいのよ」
「アイツは俺の相棒で知恵袋なんだ。それに他のハーピーはみんな性格が悪くて、インテリはずっと仲間外れにされていたそうなんだ。だから別のハーピーを見つけたとしても連れて帰るつもりはない」
「ふーん・・・。まあ私にはもうハーピーにお願いしなきゃならないような事は無くなっちゃったし、それより早くお宝をゲットしましょうよ!」
「ん? お宝って何のことだ?」
「それはもちろん、あの祭壇の下に眠ってる何かよ。エルもあの不思議な魔力を感じるでしょ」
「不思議な魔力? 俺にはよく分からないが、言われてみれば地面に何かが埋まっているような。カサンドラはどうだ?」
「私も魔力がどういうものかは分からないが、祭壇の下からは妙な気配を感じる」
「本当に二人とも、魔力について何も知らないのね。まあ私とパーティーを組んでいれば嫌でも魔力に詳しくなると思うけど、早く祭壇に行ってみましょうよ」
そしてシェリアは呪文を唱え始めた。
するとどこからともなく一陣の風が吹き、シェリアが泉の方に歩き出すと、なんと水の上をすたすたと歩き始めたのだ。
「お、お前・・・水の上を歩けるのかよ」
「ふっふーん! 私のことを見直したでしょ。みんなにも魔法をかけてあげたから、私について来なさい」
「俺たちにも魔法を? カサンドラ行ってみるか」
「そうだな。では私が先に行くので、エル殿は後をついて来てくれ」
泉にそっと足を踏み入れたカサンドラは、水に沈むことなく水面に乗れたことに驚きを隠せなかったが、シェリアの後を追って泉の上をゆっくり歩き始めた。
それを見たエルも恐る恐る泉の上に足を乗せると、慌てて前を行く二人を追いかけた。
シェリアを先頭にカサンドラ、エルと3人が泉の上を進み、水に濡れることなく祭壇のある浅瀬に降り立つことができた。
そしてシェリアがナイフを取り出して祭壇横の地面を掘り返し始める。
「この下にあるみたい。みんなも手伝って」
エルとカサンドラも荷物袋からナイフを取り出して地面を掘り進めると、かなり深い場所に小さな宝箱が埋まっていた。
3人は丁寧に掘り出してそれを祭壇の上に置いた。
「この中から魔力を感じるわ。早速開けてみるわね」
シェリアがさっきとは別の呪文を唱えると、突然宝箱からカチャリと音がした。
「今のは解錠魔法と言って、宝箱の鍵を開ける時に使うのよ。さあて、どんなお宝が入っているのかな」
鼻歌を歌いながらゆっくり宝箱を開けるシェリア。すると中には純白に輝く宝石が一つ入っていた。
「魔石ね。でもこれほど大きくて純度の高いものは、そうそうお目にかかれるものではないわよ!」
シェリアがとても嬉しそうに、一方のカサンドラは不思議そうに宝箱の中で光を放つ魔石を見つめる。
エルもその魔石を見つめていると、まるで中に引き込まれるような錯覚に陥った。
「何だか俺を呼んでいるような・・・」
エルは宝箱から魔石をそっと取り出すと、手のひらに置いて眺めてみた。
すると魔石からモヤモヤとした何かがあふれ出し、それが渦を巻いてエルの周りを回り始めたのだ。
それを見たシェリアは、
「これは光の魔石ね。私にはあまり必要のないものだけど、エルにはとても貴重なアイテムになるわよ」
「アイテムって何だ?」
「戦いに使う道具のことよ。傷薬やポーションもアイテムの一種で使うとなくなっちゃうけど、この魔石は持ち主の魔力を補ってくれるもので、これほどの魔石なら半永久的に使えると思う」
「でも俺は魔力なんか持ってないけど」
「エル、どうやら気づいてないみたいだけど、あなたには強い魔力が備わっているの。だから私のエクスプロージョンを受けても耐えることができた」
「まさか! だって俺、魔法なんか使えないぞ」
「魔法を使うには訓練が必要で、呪文もたくさん覚えないといけないのよ。でも敵の魔法を防ぐだけなら、魔力を持っているだけである程度は可能よ」
「すると俺は、自分の魔力でシェリアの魔法を防いでいたのか」
「そういうこと。ちなみにカサンドラさんにも魔力が備わってるみたいだけど、オーガ騎士団では魔法の訓練を受けなかったの?」
「オーガ族は魔法を武器として使わないし、そもそも魔力を持っている者などいないからな」
「ふーん・・・でもちょうどいい機会だから、二人の魔力属性を教えてあげる。エルは光属性で、カサンドラさんは水属性よ。ちなみに私は火属性だけど他の属性魔法もある程度は使えるわよ」
「俺は光属性なのか。なんか強そうだな!」
「光は強いわよ。それにエルには火属性の適性もあるみたい。私の魔法を防げたのはきっとそのためね」
「光と火か・・・」
エルが魔石を手のひらの上で転がしている様子を満足そうに見ていたシェリアは、カサンドラの方に向き直ると真面目な顔でお願いをした。
「このクエストで得た報酬は全てカサンドラさんのものになるんだけど、もしよければこの光の魔石をエルにあげてもいいかしら」
するとカサンドラは笑顔で、
「もちろんだ。エル殿は私の主君であり命の恩人だから、私が与えられるものは全てエル殿に差し上げるつもりでいた。それにこの魔石は私が持っていても役には立たないだろ」
「ありがとうカサンドラさん! エル、この魔石はあなたの物になったから、早速あなたの装備の魔石孔にセットしてみましょうよ」
「わ、分かった。カサンドラ、ありがとうな!」
シェリアにやり方を教えてもらいながら、エルは光の魔石を右腕の魔石孔にセットした。
ブーンと音がして直径1メートル程の魔法陣が頭上に現れると、エルの身体をすっぽりと覆って消えた。
「これでエルは光の加護が得られたわ。この装備をつけていれば光属性魔法の威力が増すし、初級魔法なら訓練しなくてもある程度は使えるようになる」
「つまり俺でも魔法が使えるということか!」
「そうよ。魔法を使えるようになるのは結構大変で、教会で洗礼を受けた後、魔法学校で専門の訓練を受ける必要がある。でも魔石があれば簡単な呪文だけで魔法が使えるのよ。後で呪文を教えてあげるね」
「本当かよ! それでどんな魔法が使えるんだ?」
「光の初級魔法には、暗闇を照らし出す【ライト】、体力を回復する【ヒール】、怪我を治す【キュア】、そして肉体を増強する【エンパワー】があるの」
「4つもあるのか!」
「身体を回復したり強化するものが多いから、騎士タイプのエルにはピッタリかもしれないわね」
ギルドに戻った3人は、クエストの完了をエミリーに報告した後、ギルド裏口のカウンターで獲物の換金を行った。
今回3人で集めた素材の合計が20Gにもなり、その全てがカサンドラからエルに渡された。
「エル、これは私とキャティーを買い取ってくれた借金を返すために使って欲しい」
「すまないなカサンドラ、助かるよ」
「それに私たちは一緒に暮らす家族になるのだから、これからは財布も一つにまとめた方がいいだろう」
「家族・・・そうだよな、俺たちは家族として一緒に暮らすんだよな」
それを聞いたシェリアがうらやましそうに、
「そっか、カサンドラさんはエルと一緒に暮らすんだ。それじゃあ私も一緒に」
だがエルは首を横にふると、
「シェリアには立派な部屋があるじゃないか。ウチの部屋は狭い上に5人もいるし風呂も納屋も何もない。それにシェリアの宿にはこれからも毎日顔を出すし、お前も家族のようなものだ」
「えっ? 私も家族のようなものなの?」
「ああ。これからは風呂の準備に加えて部屋の掃除もしてやるから、俺たち5人を風呂に入らせてくれ」
「もちろんよ! じゃあ今日も来てくれるの?」
「ああ。後でみんなを連れてお邪魔するよ」
次回は日常回です。お楽しみに。
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