第25話 妖精の祝福クエスト再び
カサンドラを連れてギルドに戻ったエルは、入り口のテーブル席に座ってしょんぼりしているシェリアを見つけた。
「シェリア、二日酔いはもう大丈夫なのか」
突然エルに声をかけられてビクッと身体を震わせたシェリアは、不安そうな表情を見せながら、
「・・・昨日は1日中家で寝てたから身体は大丈夫なんだけど、飲み会の途中からの記憶が全然ないのよ。ねえエル、私変なこと言わなかった?」
シェリアもエミリー同様、エルを取り合って大喧嘩していたことを覚えていなかったようだが、酒の席でのことだし、エルは何も聞かなかったことにした。
「かなり酔ってたけど、エミリーさんと二人で楽しそうに飲んでたぞ」
「そっか・・・エミリーさんも「楽しかったから、また行きましょうね」って言ってくれたし、何もなければそれでいいのよ。あーよかった」
やっと元気を取り戻したシェリアは、エルの隣にいるカサンドラに気がついた。
「エル、そのイケメン誰よ。 ・・・あれ、でも胸もあるし、ひょっとして女の人なの?」
「ああ、彼女は今日から俺たちのパーティーメンバーになるカサンドラだ」
エルに紹介されたカサンドラは、シェリアの前で片膝を床につけると、胸に手を当てて挨拶をする。
「オーガ族の騎士カサンドラです。お初にお目にかかりますシェリアさん」
「えっ、オーガってあのオーガ?」
目を丸くするシェリアに、エルは昨日あった出来事を話した。
エルが自分の飲み代を立て替えに奴隷商に行った話に、最初は申し訳なさそうに聞いていたシェリアだったが、最後の方になると怒りに震えて、
「ぐぬぬぬっ・・・そのナーシスって男、本当に許せないわね! 今から屋敷に乗り込んでエクスプロージョンで丸焼きにしてやろうかしら!」
「やめとけよシェリア。どうせ当たらないし、相手は貴族様だからこれ以上揉め事を起こすのは良くない。せっかく風来坊のジャンが機転を利かせて助けてくれたのに、無駄になっちまうよ」
「さりげに私をポンコツ扱いするのは止めて欲しいんだけど、エルの言う通り貴族には近づかないのが正解ね。私も貴族なんか大嫌い」
「だな。そんなことより、俺は奴隷商人に借金をしてしまったから、今日から1日も休まずにクエストをこなさなければならないんだ」
「もうエルったら本当に仕方のない子ね。でも大丈夫、このシェリアお姉様がちゃんと手伝ってあげるから、そんな借金なんか一気に返すわよ」
そう言ってシェリアは慈愛のこもった目で、エルを元気づけるのだった。
さてエミリーにカサンドラの冒険者登録をお願いすると、
「カサンドラさんってまだ10歳なんだ・・・規則では冒険者登録はできないんだけど、身体はどう見ても大人だし騎士団長をしてたのなら能力的にも問題ない」
「じゃあ・・・」
「年齢を20歳にして登録しちゃうわね(ボソッ)」
「ありがとうエミリーさん!」
こうしてカサンドラはFランク冒険者として登録されたが、
「ねえエル君、カサンドラさんは新人だから「妖精の祝福クエスト」の参加資格があるけどどうする?」
「そうだ、それがあったんだ! もちろん参加するけど、俺たちは付いて行っちゃダメかな?」
「新人冒険者のチュートリアルだから本当はダメなんだけど、絶対に手出しをしないと約束してくれれば、特別に許しちゃおっかな」
「何から何まで本当に助かるよエミリーさん。じゃあ俺とシェリアは武器をここに置いて行くから、カサンドラに付いて行くことにするよ」
◇
半月ぶりにやって来た遺跡の地下は、以前と変わらず瓦礫の山と初級モンスターの巣窟だった。
難なく瓦礫を潜り抜けていく二人に対して、瓦礫に挟まった尻を無理やり引き抜いたエルは、自分の大きな胸やお尻を恨めしそうに擦った。
「こんなだらしない身体はもう嫌だ! 俺と身体を交換してくれシェリア!」
エルに体形を褒められたシェリアは、だが恨めしそうにエルを見ながら、
「私の方こそエルと身体を交換したいわよっ! その女としての理想的なボディーにまだあどけなさが残る美少女の素顔。エルが装備を外した日には、ギルドの男どもが殺到して奪い合いが起きちゃうわね。カサンドラさんもそう思うでしょ」
「そうだな。エル殿の場合は甲冑の厚みの分、胸と尻の部分が余計に大きくなっているだけで、筋肉質でスリムな体形であることは間違いない。だからエル殿を男どもの目にさらすのは絶対に危険だが、この私がいればエル殿に襲い掛かる不逞な男どもの局部など、この剣でスパッと斬り落としてしまうがな」
そう言って鞘から剣を抜くカサンドラに、エルとシェリアは思わず股間を押さえて縮み上がった。
「「ひえーっ! 痛そう・・・」」
なんとか瓦礫のエリアを抜けたエルたちに、今度はモンスターが容赦なく襲いかって来るが、カサンドラは動じることなくその全てを一刀両断に叩き斬った。
「強ええ! モンスターを全て一撃で仕留めちまっている。しかも敵の攻撃にも微動だにせず、道の真ん中を堂々と前に進んでいく。これがオーガ族騎士団長の実力なのか」
「カッコいい・・・女の子のはずなのに背中がイケメン過ぎる」
ただ後ろを付いていくだけのエルとシェリアは、カサンドラの勇姿にすっかり魅了されていた。
「おっと見惚れてる場合じゃなかった。せっかくだし素材集めをしなきゃ勿体ないな。もっとゆっくり行こうぜカサンドラ。シェリアも解体を手伝ってくれ」
「・・・ごめんエル。この天才魔術師シェリア様も、モンスターの解体だけは無理。だって気持ち悪いし、毒があって危ないし」
「気持ち悪いだと? 子供の頃から解体作業をやってるけど、特に何も感じたことがないな」
「それはエルだけよ! 冒険者はみんなギルドに持ち帰って奴隷の子供たちにやらせてるでしょ!」
「・・・まあそれで俺たち奴隷は飯が食えてたわけだが、一体丸ごとギルドに運んでたらこれだけたくさんのモンスターは運べないだろ。じゃあ俺が解体するから、シェリアはそれを効率良く袋に詰めてくれ」
「それなら私でも大丈夫よ。でもこの調子なら、このクエストだけでも結構稼げるわね!」
「ああ、ここで一気に荒稼ぎするぞ!」
こうしてエルたち3人は、まるで精肉工場の作業場のような流れ作業で、ギルドに買い取ってもらう素材を大量に集めていった。
次回「地下祭壇の秘宝」。お楽しみに。
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