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13/06/12    スポーツクラブ:ダメですかぁ?

13/06/12 水 22: 30


 現在はCARP、俺は最愛の恋人観音と一緒にいる。

 昨日告白してつきあい始めたばかり。ああ、遂に俺達二人はリア充への道を!

 ……そんなわけはない。

 例のごとく観音は偽装彼女。

 本日は閉店の二三時に近い時間を狙って来所している。当然マルタイはいない。

「弥生~、腹筋するから足を押さえて~♪」

 話す語尾に音符のついてそうな観音がマットに寝転がる。

 足首を掴んでと。ホント、この人細いなあ。

「い~ち、に~、さ~ん」

 もし変な声出しやがったら即座に蹴りを入れてやる。

 もっとも今日の主役は俺でなく観音。

 この気の抜けた顔の裏では仕事モードの真剣顔をしているのだろう。

 ──来た。

「吉島さん、こんばんは」

「弥生さん、こんばんは~、今日は遅いですねえ」

「残業だったんですけど、筋トレだけでもしようと思って」

「いい心がけです。こちらが例の同僚さんですか」

 観音が腹筋を止め、折り目正しくも柔らかみのある口調で吉島さんに挨拶する。

「こんばんは、初めまして。天満川と申します。確かに同僚ですけど『例の』って何ですか。私達付き合ってるんですけど……この人、どんな風に話してたんですか」

「同僚にキャンペーンの人数合わせで連れてこられたと伺ってますけど」

 マルタイにも吉島さんに下心がない事はそれとなく伝えているけど、これで完璧。

 恋愛が絡むと、途端に人は面倒くさくなるからな。

 さてと、観音を煽ろう。横目でじとっと睨む。

「だって事実じゃんか。無理矢理連れてきやがって」

「そうだけどさ。あー、さては吉島さんが可愛いって思って誤魔化したな。ひっど~」

「だってお前より吉島さんの方が可愛いもん」

 吉島さんが、手にしたファイルで頭をぱしんと叩いてきた。

「弥生さん、彼女さんの前でなんてこと言うんですか。えっと、天満川さん?」

「観音と下の名前でみんなから呼ばれてます。よろしければそちらで」

「観音さんって信じられない程の美人じゃないですか。女優さんかモデル、いや、それ以上かも知れない。スタイルもいいし。これは女性の私ですら憧れます」

 吉島さんは心底から観音を褒めている様子。

 観音がはにかむ。

「もう、照れちゃうじゃないですか。でも、吉島さんの方こそすんごい可愛い。健康的なスレンダーでカッコよくて憧れちゃいます。これは弥生が騒ぐのもわかるなあ」

 観音がしょんぼりとする。

 お前はどこのパラレルワールドの観音さんだ。

 更に観音は吉島さんにうっとり見とれる振りをしながら、ずいっと近づく。

 一連の動作がすごく自然。

「いやいや、私達何もありませんから」

「わかってますって。吉島さんの話は弥生から常々聞いています。親切で教え方が上手いって。しかもここまでの成果が……」

「いやいや、全部弥生さんが頑張ったからですって」

「ご謙遜を。そうだ! 良かったら私にも教えてもらえませんか」

 観音は近くにあるバランスボールに座り、吉島さんを下から見上げる姿勢を取る。

「勿論いいですよ。あーでも、今日はそろそろ閉まっちゃうなあ」

「え~。あっ、そうだ。よろしければこれから一緒にお酒でもしちゃいませんか。そこで色々教えてもらえると嬉しいです~。私、奢っちゃいますから」

 観音はバランスボールの上でゆらゆらと揺れながら会話を繋げていく。

「え? えーと。あの……彼氏……弥生さんは?」

 吉島さんは明らかに突然のお酒の誘いに戸惑っている。

「僕の事は気にしなくていいですよ。二人で何か盛り上がっちゃってますし」

 ありったけの笑顔で大らかな彼氏を気取り、観音のサポートをする。

「そうそう、女性には女性だけで話したいって事もあるの」

 吉島さんがファイルを胸にして悩む。

「うーん……」

「ダメですかぁ?」

 観音はバランスボールの揺れを止め、物憂げな上目遣いで吉島さんを見つめる。

 ──吉島さんが胸からファイルを降ろした。

「後片付けあるので少し待ってもらってもいいなら。でも割り勘ですよ」

「ありがとうございます!」

 吉島さんの返事に、観音は満面の笑顔で応える。

 すごい、呆気なく誘い出すのに成功した。何でこの人に友達がいないのだろう。

 いや、違う……こんな人だからこそ、ぼっちマスターなのだ。

 俺は観音に心の中で深々と頭を下げる。後はよろしくお願いします。


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