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BLゲームのモブですが、前世を思い出したら成り行きで悪役令息と「ざまぁ」することになりました。  作者: ぷかり


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<1>他人事な断罪劇

 桜舞う三月、前世を思い出した。

 そんな荒唐無稽な話、にわかには信じ難いけれど、生まれるよりもずっと前、それも別の世界の記憶が実際に甦ってきたのだから、まったくない話ではないのだろう。


「今更謝ったとて無駄だ! シリルに何をしたか、もう調べはついているのだぞ!」


 桃色の髪をしたか弱げな学生を庇うようにして、黒髪の男が白金髪の青年を糾弾している。

 かつての感覚を取り戻した今、彼らの日本人離れした容姿が途端に眩しく感じられ、瞼の裏にチカチカとした刺激が走り出す。


 黒髪はともかく他二人は何だ。元から目立つ生徒だったとはいえ、あんなに主張が激しい見た目だっただろうか。まるでコスプレじゃないか。

 そう思い、周囲の人間を見回すと、その場にいた連中だけでも赤や青、黄色に緑と実に様々な色合いを髪と目に持っていた。


 これはいったい……?


 違和感こそさしてないものの、齢十八にして初めて、この世界の住人はなんだかカラフルだなという感想を抱く。


「エバン・アルベール! 貴殿は公爵令息でありながら、その品位を忘れ、第一王子たる私の大切な人を傷つけた。よって婚約を破棄する!」


 学園の卒業パーティーの最中、突如始まった断罪劇。白昼堂々目の前で繰り広げられる光景に強烈な既視感を覚える。と、同時に段々と思考がクリアになっていくのを感じた。


 あれ? これって……もしかして映像化もした有名なBLゲームと同じじゃないか? 電車のビジョン広告で見たことがある。


「シリルに嫌がらせしたお前をただで済ますと思うなよ!」

「ジェラルド、エバン様が睨んできて怖いよぉ」


 俺が自分の奥深くに沈んでいた過去の意識を引っ張り出している間にも、第一王子とゲームの主人公と思しき少年はイチャイチャと睦み合っている。


 間違いない。これは、社畜時代満員電車に揺られながら「若いって愛に盲目だな」と冷めた目で眺めたハイライトシーンだ。

 状況を鑑みるに、ゲーム開始からはかなり時間が経っている。


 実際にプレイしたことこそないとはいえ、超がつく人気作。大まかな流れくらいは頭に入っていた。

 確か、母親が伯爵に見初められたことで貴族の仲間入りを果たした、元平民のシリルが王立学園に入学したところから物語は始まるんだった。

 持ち前の無邪気さと貴族らしからぬ型破りな性格で、攻略対象と呼ばれるキャラクターたちを次々に虜にしていき、途中のルート分岐で第一王子と恋仲になると、この断罪イベントが発生する。

 そして、第一王子の婚約者である公爵令息エバンを貴族社会から追放すると、晴れて自分が王太子妃になるのだ。


 シナリオ通りなら、もうじきエンディングを迎える頃合いだが、これは現実。ゲームと違ってエンドロールもなければ、エバン公爵令息が性悪という事実もありはしない。

 皆、王家ないしは高位貴族が怖くて言い出せないだけで、第一王子たちが公爵令息の悪事だと思っているもののほとんどは、シリルのでっち上げか、もしくは勘違いにすぎず、実際にエバン公爵令息が起こした事件とやらは存在しない、というのが一般生徒内での認識だった。


 しかし、ゲームの強制力の成せる技なのか、主に攻略対象で構成された高位貴族の集団は、何かにつけてエバン公爵令息を目の敵にしている。つい先日なんかはシリルが足を滑らせて階段から落ちたのを、ちゃっかり公爵令息のせいにして謹慎までさせたと聞く。


 平民同然の生徒間でまことしやかに囁かれた噂であるが、信憑性は高い。ただ、平等を謳っておきながら、結局は身分の差で振り分けられる学園において、エバン公爵令息の無実を訴えるのは非常に無謀で、リスクが伴うことだった。


 せめて彼に寄り添える人がいたら、また状況も違ったのかもしれないが、相手は国内有数の大貴族。こちらから話しかけるだけでも不敬にあたる。

 そのため、俺を含む有象無象の学生たちは彼に手を差し伸べることさえできなかった。


 とはいえ、この雲の上にいる同級生たちのいざこざに、数十秒前までの俺はほとんど関心を寄せていなかった。

所詮はお偉い方の色恋沙汰。正直自分には関係のない話だし、エバン公爵令息を気の毒に思うことはあっても、それで王家の怒りを買うのはごめんだった。


 多少理不尽を感じていたとしても、さすがに平凡な家門の滅亡に繋がる可能性があるとあっては手出しのしようがなく、またそこまでの正義感も持ち合わせていないので、あえてスルーしてきたというのが実際のところ。


 ただ、その結果がこれというのはさすがに後味が悪い。頭にかかっていた靄のようなものが晴れた今となっては尚更。なんで見て見ぬふりをしていられたのか、自分でもわからない。前世の記憶を取り戻した瞬間、ハッとなっただけで本当は以前からエバン公爵令息の待遇に引っ掛かりを覚えていたはずなのに。


 もしも、もっと早くに結末を思い出していたなら、クライマックスは別の内容になっていただろうか。後悔しても、もう遅い。


「今日限りでエバン・アルベールを社交界から追放する!」


 そう宣言されるやいなや、会場内に混乱の渦が巻き起こった。だが、相手は第一王子。直接物申せる者などいるはずもなくて、


「おめでたい日になんて仕打ちを……」

「エバン様がお気の毒だわ」


 どよめきの中にひそひそ潜めた声だけがわずかに混ざって聞こるのみ。当然モブの出る幕などない。


 そして、誰も口を挟めないでいるうちに、エバン公爵令息は近衛に捕らえられてしまっており、気がつけば舞台は暗転。次の場面に切り替わっていた。

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