第27話:神々のブライダル・オーダー
「――これでよし。不法密入国者たちの黒鉄鉱山への移送手続き、すべて完了いたしました」
私は魔導ペンを置き、連結デスクの上の書類をパタンと閉じた。
先ほど捕縛した祖国の元上層部たちの処分は秒速で決裁した。
平民に落とされた元婚約者のエリオットと同じ、過酷な最前線炭鉱への永久隔離。かつて優秀な裏方の労働価値をナメていたクズどもが、全員同じ奈落の底で再会するという、完璧なデータのクリーンアップである。
その時だった。
一体型巨大デスクの右端に置かれた魔導通信機が、前代未聞のまばゆい黄金の光を放ち、執務室全体を包み込んだ。
『ヒラリー! 僕らの完璧な天候統括補佐官! 聞いてくれ!』
天界からの光の波動と共に、脳内に直接響いてきたのは、天界の神々全員の調和した、興奮しきった声――【神々のブライダル・オーダー(最高位神託)】だった。
『風の噂で聞いたよ、君がアルカイドと結婚するんだってね! おめでとう! そこで僕ら天界ファンクラブ一同から特大のプレゼントがあるんだ! 君たちの結婚式当日は、僕ら神々が全員正装で地上へ降臨し、世界で一番美しい奇跡の天候と加護を直接君に捧げることを約束するよ!』
世界の理を司る最強の暴君たち(神々)が、私の完璧なスケジュール管理に完全に懐柔され、一人の元事務職の女性の結婚式のために、世界の天候システムを総動員して全面バックアップすると宣言したのだ。
「……信じられん」
私の隣で、アルカイド陛下がその美しい銀色の髪を微かに揺らし、地鳴りのように低い声で呟いた。
サファイアブルーの瞳には、冷酷な国家指導者としての驚愕を通り越し、世界(神々)にすら私の知性と存在を共有したくないという、限界突破した独占欲の熱がギラギラと渦巻いている。
「天界の連中め……。お前の優秀さを認めざるを得ないのは不愉快だが、私の正妃の挙式を自分たちのファンイベントのように私物化するとはな。神であろうと、私のヒラリーに群がることは許さん」
「陛下、神々がこれほどご機嫌で協力的なのは、我が冥府の国にとっても最大の平和の安全管理ですよ?」
「分かっている。だが私の嫉妬は、神々の加護ごときでは上書きできん」
アルカイド陛下は不機嫌そうにそっぽを向きながらも、私の腰を強引に引き寄せ、そのまま自分の特等席(膝の上)へと回収した。
耳の裏まで真っ赤に染め上げながらも、サファイアブルーの瞳に狂おしいほどの愛おしさを滲ませて私をじっと見つめてくる。
「当日の挙式だけでは独占のメモリが到底足りない。ヒラリー、皇帝の職権で、今すぐこの執務室で二人だけの『事前調印式(前撮り)』を執行する。お前の美しいドレス姿も、その笑顔も、まずは私の腕の中だけで永久にロックさせろ」
「陛下、それはもはや、単に私を抱きしめたいだけの仕様変更では……?」
「仕様ではない。私の理性を維持するための、絶対に必要な『優先タスク』だ」
氷の皇帝の理性が、神々のファンクラブ結成によって完全にバグを起こし、激しいデレの職権乱用を炸裂させている。
前世の孤独なオフィスでは、どれほど必死に裏方仕事を完璧にこなしても、誰からも祝福されず、誰の記憶にも残らないまま、ただ無機質な部品のように消費されるだけだった。
なのにこの世界で最強の男は、私のわずかな仕事ぶりにさえ心底惚れ込み、世界の理(神々)にすら激しく嫉妬して、私を世界一安全な聖域の特等席で一生愛し抜こうとしてくれている。
胸の奥が、これ以上ないほど甘い安心感と、絶対に揺らがない幸福な温かさで満たされていく。
「ふふ、分かりました。では、旦那様専用の最優先タスクとして、このまま承認させていただきますね」
私が微笑んで彼の広い背中に両手を回すと、アルカイド陛下は満足そうに目を細め、静まり返った部屋の中で、私の薬指のサファイアの指輪へ深く熱い誓いの口づけを落とすのだった――。
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