第25話:新生ユートピアと、神々の服従
「――ヒラリー様! 天界の全監査端末から、神々の『完全服従ログ(公式神託)』がひっきりなしに送信されております!」
大魔力炉の再起動から一夜明けた、冥府の国の執務室。
魔術師長が机の上に山積みの羊皮紙を置きながら、畏怖の念を隠せない様子で直立不動の姿勢をとった。
完全一体型巨大デスクの前に座る私の横で、アルカイド陛下がその報告書をサファイアブルーの瞳で一瞥し、極限までトーンの落とされた低い声を響かせる。
「当然だな。世界の理を書類一枚で捻じ伏せ、大魔力炉を物理的に叩き直したお前の知性の前だ。天界の害虫どもも、平伏する以外に仕様変更の余地などない」
魔導通信機から吐き出されていたのは、昨日まで暴走していた神々一同からの、熱狂的な感謝と崇拝のメッセージの嵐だった。
『ヒラリー! 君こそが僕たちの真の最高責任者だ! 君の完璧なマニュアルに従うから、これからは天界の運用ルールも全部君が最適化してくれ!』
天界の神々すら掌で転がす仕組みの勝利。
ヒラリーの『業務標準化』のロジックの前に、天界は完全にホワイトな下請け組織へと変貌し、我が冥府の国は世界で最も安全で、最も神に愛される至高のユートピアへと進化を遂げたのだ。
「現場の神々がここまで扱いやすくなった(ホワイト化した)のなら、これからの内政スケジュールも非常に段取りが組みやすいですね」
私が心からの微笑みを向けると、アルカイド陛下は無言のまま席を立ち、私の椅子の後ろから私を包み込むように強く腕を回してきた。
サファイアブルーの瞳には、自分でも制御しきれないほどの深い愛おしさと独占欲の炎がギラギラと渦巻いている。
「陛下……? さすがにこの密着度は仕事がしにくいのですが」
「構わん。私は今、猛烈に独占欲が暴走している。お前が世界を救ったせいで、地上だけでなく神々までがお前に狂い始めているからな。これ以上、私以外の存在を惚れさせるな。お前の時間は、すべて私の生涯最高の特等席でロックされているのだから」
「ふふ、分かりました。私の人生の全データは、とっくに陛下の終身契約でロックされていますからね――旦那様?」
私が振り返り、いたずらっぽく微笑んで彼の黒い軍服の胸元にそっと両手を回した――その瞬間だった。
「……っ!?」
絶対零度と言われた皇帝が、見たこともないほど激しく目を見張り、次の瞬間には顔から耳の裏、首元にいたるまでを真っ赤に染め上げて完全にフリーズ(機能停止)した。
私の口から飛び出した臨時の仕様変更(愛称)に、彼の理性の防壁は完全にメルト(溶解)してしまったらしい。
「お前は……本当に、ずるい女だな」
陛下は使い物にならなくなったポーカーフェイスを隠すように、私の首筋にその銀色の髪を深く埋め、壊れ物を扱うような優しさでぎゅっと強く抱きしめ直してきた。
彼の激しく脈打つ鼓動が、心地よい冷気と共に私の全身へと甘く伝わってくる。
前世の孤独なオフィスでは、どれほど組織の基盤を完璧に支えても正当な評価は与えられず、替えの利く歯車としてただ便利に消費されるだけだった。
なのにこの世界で最強の男は、私のわずかな言葉一つに理性を狂わせ、自分の人生の全スケジュールを私だけで満たしたいと愛おしそうに溺れてくれている。
胸の奥が、これ以上ないほど甘い安心感と、二度と侵されない絶対的な聖域の温かさで満たされていく。
「さあ、旦那様。フリーズしていないで、次はいよいよ私たちの『結婚披露宴』の最終仕様書にサインをいただけますか?」
「あぁ……。即座に承認だ。二度と差し戻しは認めん」
窓から差し込む、新生ユートピアの穏やかで温かい光が静かに部屋を満たす中、私たちはしっかりと手を繋ぎ合い、世界一過保護でホワイトな未来へと向かって、幸せな業務を執行し続けるのだった――。
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毎日定時で最新話をデプロイ(更新)していきますので、明日もまた、この過保護でホワイトな執務室でお会いしましょう!(ビジネススマイル)




