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第21話:天界の最奥と、最高監査官の罠

「――くははは! 愚かな人間め、自ら罠の最深部(コア)へ飛び込んでくるとはな!」


回線の組み替えを終え、大魔力炉(コアサーバー)の最終再起動(リブート)ボタンへ手を伸ばしたまさにその瞬間、凍りついた祭壇の虚空から、地鳴りのような嘲笑が響き渡った。


漆黒の吹雪を割って姿を現したのは、傷だらけの純白の法衣を狂風に揺らす最高監査官――上位神ルシフェルだった。


その手にある魔導書からは、世界を拒絶するような悍ましいシステム拒否コード(呪力)が溢れ出し、再起動寸前だった大魔力炉の歯車をガチガチと再びロックしていく。


「陛下、下がって! 敵の魔力波形が異常です!」


「いや、違うなヒラリー。奴の狙いは私ではない。最初から――お前だ」


アルカイド陛下が私の前に音もなく立ち塞がり、氷の大剣を構えてサファイアブルーの瞳を限界まで鋭く光らせた。


だが、最高監査官の冷酷な視線は、陛下の剣を完全に無視し、その後ろにいる私の指先に注がれていた。そのニヤリと歪んだ唇から、極めて冷徹な「ロジックの刃」が放たれる。


「気づかなかったか? お前が構築したあの完璧な【入国管理および魔力検疫システム】……その記述コードには、致命的なセキュリティの穴(脆弱性)が存在する」


「……何ですって?」


私は手元の図面(ログ)を握りしめ、眉をひそめた。


「お前のシステムは『未登録の魔力』を自動検挙する。だが、天界の最高位規約(ルート権限)を持つ我が魔力は、そもそも『未登録』ではなく『システムそのものの親機』だ。私がその権限を使って冥府の国の防衛ラインの内側からアクセスすれば、お前の境界線など一瞬で内部崩壊する。そして今、この大魔力炉の回線をお前が手動で繋ぎ直した瞬間、我が天界のシステムとお前の指輪の魔力インデックスは【完全同期】された!」


最高監査官の魔導書が妖しく明滅し、私の左手薬指のサファイアの指輪が、私の意思を無視して黒い電流を放ち始めた。


「これより天界の最高法規に基づき、お前のその忌々しい知性の全権限(所有権)を、天界の管理下へと強制移譲(シャットダウン)する。お前が自ら繋いだ回線こそが、お前自身を縛る絞首刑の縄だ!」


神の権限を悪用した、極めて狡猾で論理的な「システムの乗っ取り(ハッキング)」。


これまで安全なオフィスで無双していたヒラリーのロジックが、初めて「上位の規約」によって逆手に取られた瞬間だった。世界が完全にフリーズするまでのタイムリミットが、文字通り秒読みで削られていく。


「ヒラリー……っ!!」


アルカイド陛下が悲鳴のような声を上げ、結界の維持すら忘れて私をその温かい腕の中に強引に引き寄せた。


サファイアブルーの瞳には、私という唯一無二の至宝を今この瞬間にハッキング(強奪)されるかもしれないという、剥き出しの恐怖と焦燥が宿っている。世界最強の王の身体が、私の腕の中でガタガタと激しく震えていた。


だが、私は陛下の逞しい胸元に頭を預けたまま、その恐怖の冷気の中で――フッ、と静かに唇を歪めた。


(ハハ、笑わせるわね。上位のルート権限を使ってバックドアからシステムを乗っ取るなんて、前世の悪質なクラッカー(サイバーテロ)がやる典型的な手口じゃない。私がそんな初歩的な脆弱性を、ノーチェックで本番環境にデプロイしたとでも思ったかしら?)


私の瞳の奥に灯ったのは、絶望ではなく、最高に冷徹で好戦的な「プロのデバッガー」としての解法の光だった。


「陛下、私を信じて、その剣の氷の魔力を私の指輪へ最大出力で流し込んでください。……最高監査官様、当方のシステムをナメていただいたツケ、今すぐ特大のペナルティとして『差し戻し』て差し上げますわ」


ヒラリーの不敵な微笑みを見た瞬間、アルカイド陛下はハッと目を見張り、次の瞬間にはその綺麗な唇を不敵に歪めた。


彼は私を背後から包み込むように強く抱きしめ直すと、耳の裏まで真っ赤に染めながら、狂おしいほどの信頼の熱をその声に込めた。


「いいだろう、私のお前への愛(魔力)は、神の規約ごときで制限できるほど生易しくはない! 私のすべてをお前に同期させる、あの傲慢な神ごと叩き潰してこい!」


前世のデスマーチでは、理不尽なトラブルが起きればすべて現場のせいにされ、孤独な暗闇の中で容赦なく切り捨てられるだけだった。


なのにこの世界で最強の男は、私の反撃のロジックを百パーセント全肯定し、自分の命の全出力を私の指先に預けて最高の盾になってくれている。


胸の奥が、これ以上ないほど熱い闘志と、極上の甘い安心感で満たされていく。


黒い火花が二人の身体を飲み込まんばかりに爆発する中、私と陛下は繋いだ手から限界突破の魔力をシンクロさせ、最高監査官が自ら開いたバックドアへ向けて、仕込んでおいた【二重監査の罠】を容赦なく叩き込むのだった――。



最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「ヒラリーの事務職ロジックが爽快だった!」「アルカイド陛下の赤面フリーズがもっと見たい!」と思ってくださったら、画面の下にある【ブックマーク登録】や、評価の星【★★★★★】をポチッと押して応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります。


毎日定時で最新話をデプロイ(更新)していきますので、明日もまた、この過保護でホワイトな執務室でお会いしましょう!(ビジネススマイル)


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