第11話:特急料金の請求と、二重監査の防壁
「――これでよし。旧祖国からの度重なる『緊急仕様変更(無理難題)』に対する、適正な追加コストの請求書、作成完了いたしました」
私は魔導ペンを置き、連結デスクの上の書類をパタンと閉じた。
真隣に座るアルカイド陛下がその書類を一瞥し、極限までトーンの落とされた低い声を響かせる。
「ほう。業務時間外の特急料金として、祖国の国家予算の半分と、関係貴族の爵位剥奪を要求したか。お前のその容赦のない知性、実に素晴らしいな」
「当然の権利ですわ、陛下。優秀な裏方の労働価値をナメていたクズどもには、これくらいの法的清算が妥当です。……ただ、これほど高額な資産移動を発生させれば、いずれ天界の上層部(最高監査官)あたりが規約違反だと横槍を入れてくる可能性がありますね」
私が冷徹なビジネススマイルを浮かべると、アルカイド陛下は不敵に唇を歪めたが――次の瞬間、私を抱きすくめる腕にぎゅっと強烈な力を込めた。
サファイアブルーの瞳に、拗らせきった独占欲の熱を滲ませて私を見つめる。
「神々すら手玉に取るお前だ。私の心など、とっくにハッキングされて完全支配されている。なぁヒラリー、私への『二重監査』ならいくらでも歓迎するぞ。お前のその冷徹な視線で、生涯私のすべてを監視し続けてくれ」
「陛下、それはビジネスの囲い込みではなく、ただの甘えん坊では……?」
「甘えではない。お前を私の隣に繋ぎ止めるための、極めて合理的な『防衛措置』だ」
氷の皇帝と言われた男が、私の構築した完璧なロジックの前で、完全に理性をメルト(溶解)させて極上のデレを見せている。
前世の孤独なオフィスでは、どれだけ完璧に組織を支えても、誰からも守られず、暗闇の中で使い潰されるだけだった。
なのに、この世界で最強の男は、私の冷酷な請求書(仕事ぶり)にさえ惚れ込み、自分の人生の全スケジュールを私だけで満たしたいと強引におねだりしている。
胸の奥が、これ以上ないほど甘い安心感と、彼が注いでくれる強固な独占の熱で満たされていく。
「ふふ、分かりました。私の専属契約には、陛下のメンタルヘルス管理も含まれていますからね」
私が微笑んで彼の銀色の髪にそっと指を絡めると、アルカイド陛下は耳の裏まで真っ赤に染めながら、満足そうに私の薬指の指輪にそっと口づけを落とした。
窓の外では、請求書を受け取った旧祖国の王宮が「爵位剥奪!? 経済制裁を取り下げてくれ!」と大パニックで緊急記者会見を開いていることなど、私は少しも思い出しもしなかった――。
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