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1-3-17 綴神の神殿

サーラたちは再び、「綴神の神殿」の門番の前に立っていた。

かつて退けられた場所。記憶はまだ鮮明に残っている。だが今回は違う。傍らにはシェリー、ネフィリス、そしてアリスティアがいる。


張り詰めた沈黙の中、ふいにアリスティアが一歩前へ出た。視線はまっすぐシェリーへ向けられている。


「シェリー、あなたの“双魚の鏡”……使ってみてはどうかしら?」


「えっ、鏡を?」シェリーが目を見開く。「未来の断片は見えるけど、確実に役に立つとは限らないよ?」


「それでも、何も見えないよりはずっと良いはずよ」

アリスティアは静かに続ける。「少しの兆しでも、この場の不確定性を減らせるなら、それは戦術上の優位につながる。私は、そう思うわ」


サーラも頷き、すぐにシェリーへ向き直った。

「私も賛成。未来を“見て”から、行動を組み立てていきたいの」


シェリーは短く息を整え、鏡を構える。

その表面が淡く光を帯び、次の瞬間、視線の奥に断片的な未来が流れ込んできた。


「……見えた!

門番が何度か姿を変えるけど……何なのこれ?

人でも獣でもゴーレムでもない……」


「見て、判断する……純粋な“知性”よ」


サーラはその言葉を発すると同時に動いた。

周囲に散らばる木材や石材へと視線を走らせ、魔力を集中させる。素材は瞬く間に引き寄せられ、組み上がっていく。

やがて形を成したのは、槍、車輪、装甲を併せ持つ自走機構だった。


「門番と戦うために私が辿り着いた答え──魔法戦車。

でも今回は、単にこれをぶつけるだけじゃだめ。未来が変わる可能性もあるから、再構築術式……通称“デバッグモード”を使うわ」


「デバッグ……?」シェリーが首をかしげる。「それって何?聞いたことないけど……」


「魔法の発動中に一時停止して、術式の構造や出力をその場で組み直すの」


「そんなこと、本当にできるの……?」シェリーの目が揺れる。「魔法を途中で書き換えるなんて、まるで……神業じゃない」


「普通はそんな真似したら処理落ちして自滅コースだ。でも、リアナは研究のためによくやってたよ。僕に言わせれば、“魔法の解体ショー”だけどね」


ネフィリスが軽く首をすくめるように言う。


「大丈夫、私も一回だけやった事があるわ。未来を読んで、ズレた分だけ形を合わせる。変化する相手に対抗するには、それしかないの」


サーラは静かに息を吸い込み、言葉を結んだ。


シェリーは鏡を握り直し、目を閉じる。

「わかった。未来が変わったら、すぐに知らせるわ」


未来は確定ではない。

その都度揺らぐ可能性を読み取り、構造を修正し続ける──それが今回の戦い方だった。


戦闘が始まる。


門番は、そこに“姿”としては存在しない。

神殿中央の空間に浮かぶ無数の紋章群のみが、静かに回転している。


だがそれは単なる模様ではなかった。

観測するように揺れ、侵入者に応じてわずかに構造を変えていく。


「……今度は負けない」

サーラは低く呟いた。


その言葉に応じるように、紋章が一度だけ明滅した。


門番は姿を持たないまま、紋章の組み替えによって攻撃を発生させてくる。

それは刃でも衝撃でもなく、“結果だけが現れる現象”だった。


サーラは即座に機構を変形させ、シェリーの未来視と噛み合わせながら応じた。


「シオン……あなたの突きの正確さ、私も信じてる。力を貸して──槍形態!」


機体が鋭く収束し、突撃する。

だが門番はさらに速く、わずかに身をずらし、その一撃を空へ逸らした。


「惜しい、避けられたか……」


「次の攻撃は重い打撃になる。今のままじゃ耐えきれないかも!」


「カリナ、あなたの揺るがぬ強さ、今の私に必要なの。守る力を──装甲形態!」


厚く組み替えられた装甲が、正面から衝撃を受け止める。

空気が軋み、重い音が響いた。


「守るだけじゃ意味がない。次の隙を突かなきゃ……」


「セレナ、あなたの風を読む目が、私に道を示してくれる──高速形態!」


車輪が絞られ、機体が低く滑るような形状へと変わる。

風を裂き、間合いを詰める。


「もう一度未来を見て!」


「今は耐えて、あと三秒!」


そのわずかな時間の間にも、門番は攻撃の型を変え続ける。

サーラは動きを読み、構造を組み替え、即座に応じる。

未来視と再構築の連携が、徐々に均衡をこちらへ引き寄せていく。


そして──


「今よ! 槍に変えて、突っ込んで!」


一瞬の隙。


サーラはためらわず、槍形態へと移行する。

加速、直進、収束。


その一撃は、門番の核を正確に捉えた。


「やった……!」


しかし、終わりではない。

門番は最後の力を振り絞り、なおも攻撃を放とうとする。


その瞬間には、すでに次の手が打たれていた。


「装甲形態に戻して!」


衝撃を受け止め、即座に反転。

再び槍へと変形し、そのまま貫く。


「これで終わり!」


門番の核を形作っていた光が、わずかに収束する。その中心で、何かが終了したかのように、揺らぎが止まる。


直後、紋章のすべてが一斉に輝度を落とした。


攻撃の気配も、防御の兆しもない。


ただ、役割を終えた存在が、自らを維持する理由を失ったかのように、静かに構造を解いた。


何の余韻もなく、そこに在ったはずの知性だけが、痕跡を残さず消えていた。


「やったぁ……!」


シェリーの声が弾み、アリスティアも小さく息をつく。


「……勝った、のかな」


サーラ自身、その言葉に確信を持てなかった。

ふらつきながら立ち上がり、戦いの余韻を確かめる。


構想は崩れず、最後まで機能した。未来視と再構築の連携は、想定以上の精度で噛み合っていた。


「ありがとう、シェリー。あなたの鏡があったからこそ、ここまで来られたわ」


「ううん、私こそ。もっと役に立てたらと思ってたけど、あなたの戦車、ほんとにすごかった!」


ネフィリスが肩に飛び乗り、口元を歪める。


「まったく、君は相変わらず往生際が悪いな。でも、そこが君らしい」


「うん、楽しかったわよ。あなたたちって、やっぱり面白い。まさか本当に門番を倒しちゃうなんてね」


アリスティアも、愉快そうに笑う。


戦いは長く、厳しかった。

それでもついに、門番は退いた。


砕けた石片と魔力の残滓が、静かに降り積もる。

その中を、サーラたちはゆっくりと歩き出す。


閉ざされていた神殿の扉が、重く軋みながら開いていく。


サーラの視線は、その奥──

伝説のデバイス、「処女の書」へと、まっすぐに向けられていた。

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