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ゲノム・グレムリン  作者: 大塚めいと
番外編 楽園追放
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7 「機神象vsBME」

黒い悪夢再び……



 BMEは[コブラ]が手がけた兵器の中でも、そのビジュアルのインパクト・凶悪的なパワー・自律行動が可能な高度な性能と、他とは一線を画す存在感を放っている。



 [コブラ]によって地上に放たれたまま忘れ形見となったBMEは、ただひたすらに日本中を徘徊し、インプットされた指令をひたすらこなすだけの魔獣と化していた。



 『地上に残った人間を排除する』



 その指令だけを一途に、愚直に守り続けた象型ロボット達が、ダフィー達の存在を見逃すワケがなかった。



 まさに血の臭いを嗅ぎつけた鮫だ。人間ハンターのBME達は、四足歩行で地鳴りを発しながらホームセンターへと集い始めていた。





「だだだ……ダフィーくんヤバいよ! どどどどうしよう!? 」



 BMEの襲来の報を知ったことで目を激しく泳がせながらパニック状態に陥ってしまうケイト。彼女の腕の中には、同じく直前にジーツの肖像画を見て過呼吸を起こしてしまっているメグ。



 ここは自分がしっかりしなければ………



 二人の安全を確保しながらこの窮地を克服しなければならない。それはわずか12歳の少年、ダフィー・ノーツの双肩にはいささか重すぎる事態だった。



「みんな、とにかく【機神象】に乗りましょう! “翼”を使って空に逃げるんです! 」



「アレに乗るったって4人も大丈夫なの? 」



「な……なんとかなりますよ! 」



 4人……そう、ここにいる人間はダフィー、メグ、ケイトだけじゃない。【アースバウンド】の救世主、ジーツの存在も忘れてはならないのだ。



「ケイトさんは、ジーツさんをお願いします! 」



「わ、わかった! うっ……重い! 」



 ダフィーはメグを、ケイトはジーツを背負ってホームセンターの外へと飛び出した。【機神象】は月明かりに照らされて銀色に見間違える程に輝き、今のダフィーにはその姿が神々しくも見え、少しだけ心を落ち着かせた。



「機神よ、目覚めよ! 」



 ダフィーが雄々しくそう叫ぶと、音声認識でロックを解除させた【機神象】が目の部分を発光させて起動し、スフィンクスのような格好での待機状態のまま頭部のハッチが開いてコックピットが露わになった。



「す……すごい! カッコいいね! 」



「へへ……そうでしょう! 最初はこれすらも満足に出来なくて……ってそんなこと言ってる場合じゃないです! 早く乗りましょう! 」



 まず先にダフィーがコックピットに乗り込み、グリップ式コントローラを握って操作を開始。象の長い鼻を自分の手の様に器用に操り、メグ達を掴んでコックピットへと搭乗させた。



「さ、さすがにキツいねダフィーくん……」



 本来一人で乗る為の搭乗スペースに4人もギュウギュウに詰め込むのは、やはりかなり無理があったようだ。ケイトがメグとジーツ、二人を抱き抱えるような格好で、座席の裏側に体を押し込んでいる。



「しばらくの我慢です。今度はこのまま空を飛びますからね! 衝撃に備えてくださいよ! 」



「へ……わ、わかったよ! メグちゃん達はまかせて! 」



 メグは過呼吸こそ落ち着いてきたものの、額にじっとりと汗を浮かべてケイトの服を湿らせるほどだった。一方のジーツはこの緊急事態にも我関せずといった雰囲気で、ケイトの胸に顔を押しつけて堂々と寝息を立てている。



「ここまで来るとちょっと腹が立ってきちゃった」



 【アースバウンド】の人々、ダフィー達にとっての恩人であるジーツだが、あまりの危機感のなさにケイトは本音を漏らしてしまっていた。



「いきますよ! 『機翼装着』!! 」



 ダフィーはグリップを操作して正面モニターに映し出された“翼”の接続部分に座標を固定させる。あとは電磁接続によって【機神象】と“翼”が組み合わさり、一体化すれば飛行形態の完成となる。



「すごいすごい! 機械の翼がこっちに向かってくるよ!? 」



 あと数秒もすれば夜空へと翼を広げてBMEの群からおさらば! もう大丈夫だ! ダフィの心は安堵で緩みきっていた。



 しかし、そんな心の隙を見抜いていたのか……これよりダフィーは人生において最大級の正念場に立たされる! 



「ガガガガガガッ!!!! 」



 突如響く金属と金属がぶつかり合う轟音! その音の正体は近くまで迫っていたBMEが“翼”に向けて銃撃して生じたモノ。それに気がついた時には全てがもう遅かった。



「ヤバイ! 装着解除! 」



 とっさに電磁結合をキャンセルさせて“翼”を象の鼻で弾き飛ばしたダフィ。その0コンマ5秒後に、“翼”は爆炎を伴って八方に飛び散ってしまった。



「なんてこった……」



「うそ……もしかしてアレ、壊れちゃったの? 」



 唯一の逃走手段である“翼”を破壊されてしまい、コックピットの中は絶望の空気に包まれ始めていた。



「くそっ! どうする? どうすればいい!! 」



 劣化したアスファルトの地面に穴をあけながら、10体のBMEがぞろぞろと【機神象】を囲っていく。



 「「「「「「「「「「オオオオォォォォッッッッッッッッ!!!! 」」」」」」」」」」



 10体のBMEが内部機構を軋ませて雄叫びに似た音を一斉に喚き散らす! それは【機神象】のコックピット内にまで伝わり、ダフィー達は苦悶の表情を作る。



「ああーっ! パパ、ママ、ごめんなさい! 勝手に飛び出してごめんなさい! それとコーディさん、しょっちゅう盗撮やらなんやらしてごめんなさい! それと、地上に残ってた非常食だとか色々盗んでごめんなさい! それから……」



 もうダメだ……全てを諦めてしまったケイトはあの世への旅立ちを覚悟して懺悔を始めてしまっていた。



 どうする? どうする? ダフィーはこの絶望的状況をどうすれば切り抜けられるのかを必死になって考える。



 相手はこの【機神象】と同等のスペックを誇るBME。それが10体だ。マトモに戦ってどうにかなる相手ではない。



 強引に突破して逃げ切るか? いや、あまりにも危険すぎる。捕まってしまったが最後、コックピットをこじ開けられて全員が蜂の巣だ。



 でも、ここで動かなければ確実な“死”それだけだ……



 そうこうしている内にBMEはジリジリと近寄ってダフィー達の乗る【機神象】との距離を詰めてくる。逃げ場を塞いで確実に破壊するつもりだ。



 絶体絶命。こんなところで命を落とすなんて……いや、自分だけならいい。一緒にいる女神メグジェシカまでも巻き添えにしてしまうことだけは絶対に避けたい……もちろんケイトさんにジーツさんだって……



 せめて……メグジェシカ様だけでも……



 コックピットの座席から身を乗り出し、背後でケイトに抱かれているメグの姿を確認するダフィ。



 そこには女神としての堂々とした振る舞いもなく、夢の中で自分を助けてくれた時の男勝りなイメージもなく、ただただ恐怖で震えている一人の女の子の姿しかなかった。



『色々と協議した結果だがね、ダフィー君……キミにはメグジェシカ様の護衛兵として働いてもらうことに決定したよ』



 その瞬間、ダフィーの脳内にブラックマン神父の言葉がフラッシュバックする。



「神父様……」



 いじめられっ子だった自分を一人の男として認めてくれ、【楽園】に導いてくれ、さらには護衛兵という大任を任せてくれた、ダフィーにとって父親……いや、それ以上の存在となっていたブラックマン神父。



 そもそも【楽園】を離れ、この辺境の地まで逃走しなければいけなくなった原因こそがその神父なのだが、ダフィーは不思議と彼のコトを頭に浮かべると心臓の鼓動は落ち着き、汗は引き、視界が澄んでクリアになった。



『さすがだなダフィー君。私はキミのそういうところを買っていた! 』


 そしてブラックマン神父が最後に自分に投げかけてくれた言葉を思い出し、ダフィーの迷いは全て吹っ切れた。



「ケイトさん、お願いです。メグジェシカ様をしっかりと守っていてくれますか? 」



「へ? 」



「今からコイツらと戦います。ジャイロユニット制御装置がついているとはいえ、コックピットはこれから大きく揺れることになります。だからメグジェシカ様をお願いします」



「だ、ダフィくん? どうしちゃったの? 」



 ついさっきまで自分と同じく弱々しい顔つきだった少年が、頼りがいのあるオーラを発散させる変貌ぶりに呆気にとられたケイト。



 今の彼に任せておけばなんとなかる……そんな安心感すら覚えていた。


「訓練では一度しか練習してませんが……この窮地を脱するにはコレしかありません……」



 ダフィーはコックピットのタッチパネルを操作し、音声入力を起動させる。そして声高らかに奥の手を起動させるのだった。



「機神よ! 今こそ立ち上がれ! 」



 ダフィーの声に反応し、【機神象】の身体はその機構を複雑に変形させ、後ろ足は直立し、前足は腕のように関節を増やし、人間と同じく五本の指先が生え揃う。



「こ、これ? 象が立ってるの?! 」



「はい! 人類にとって最大の進化は、二足の足で歩き始めたこと! これは神父様が教えてくれました! 」



 周囲のBMEも【機神象】が立ち上がったことでなにかしら焦りを覚えたようだった。すぐさまダフィー達を【機神象】もろともバラバラにするべく、象牙部分を変形させて機銃を剥きだしにした。



「甘いぞ! この二足形態がなぜ高度な技術を要するのかを、今その身に叩きこんでやる! 」



「ズガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!! 」



 ダフィーの意気込みを断ち切るかのように、BMEの機銃が容赦なく火を吹き、鋼鉄の弾丸が突風のように純白の象型マシーンへと浴びせられた! 



 硝煙と土煙が舞い上がり、BMEの不気味な影だけがゆらゆらと確認できる程に視界が悪くなる。



 もはや【機神象】はひとたまりもなく穴だらけになっているだろう……もしも誰かがこの光景を見守っていたとしたら、皆がそう思うハズだ。



 しかし! 



「ウオオオオオオーーーーム!!!! 」



 雄叫びだ。BMEもとい【機神象】特有の獣の鳴き声のような起動音がなんと……上空から響いてきた! 



「ガシュウッッ!! 」



 その直後、ホームセンター前駐車場はオレンジ色の光で一瞬照らされる! それは火花だった。【機神象】がBMEの頭をもぎ取り、破壊した際に生じた破滅のスパークだった! 



「うわああああっ! なに!? なんなの今の!? 」



 突如自分の身に起こった出来事が理解できず、目をまん丸に広げて驚くケイト。彼女自身、機銃掃射で身体がミンチになってしまったのだと思っていたが、実際はそうではない。



 なんと【機神象】は二本の足で思いっきり地面を踏み込み、そのまま宙返りをしながらジャンプをしていたのだ! 



 10体のBMEに囲まれた状態で銃撃をかわすには、上に逃げるしかない。しかし回避だけで終わらず、ダフィーはそのまま飛び上がった勢いを利用して一体のBMEの頭部を両手で掴んでそのままねじ切ってしまったのだ! 



「まずは1体……! 」



 仲間の機体が破壊されたことで自律行動AIが怒りを感じたのか? 2体のBMEが四足歩行の突進で【機神象】に体当たりを敢行! 左右からダフィの機体を挟み込もうという魂胆だ! 



「それも甘い! 」



 ダフィーはもぎ取った敵の頭部を、右から迫るBMEに投げつけて突進を止める、そして左からのBMEの体当たりを紙一重のタイミングで垂直ジャンプして回避! 2体のBMEはそのまま味方同士で鉢合わせとなり、そのまま火花を血流のように散らして再起不能となった。



 その一連の流れは闘牛士のように身軽で、華麗で、圧倒的だった。



「さぁ……どんどんかかってこい!! 人類の進化は両足の進化! それすなわち、両手と指先の進化! 知性の進化だ! 」



 白の【機神象】の二足歩行形態の真骨頂は、その機動力と精密動作にあった。



 BMEにも二足歩行形態は存在したが、それは胸部に取り付けられた巨大ガトリングガンを使用することを主にした変形だったので、その意味は大きく違う。



 [コブラ]……もとい、ジョン・ブラックマンはジーツ達とクジャク部隊との戦いを教訓に、作戦・戦闘においてもっとも重要な要素は“スピード”なのだと悟った。



 白い有人型【機神象】を作成する際、胸部に備えたガトリングガンは思い切って取り去り、軽量化を成功させ、脚部にはブーストユニットを取り付けてジェットによる機動で素早い移動と高い跳躍力を実現させたのだ。



 この戦いはいわば、ジョンブラックマン自身の英知がぶつかり合った同門対決ッ! 



 機神象vsBME



 白vs黒



 スピードvsパワー



 人類vs機械



 ジョン・ブラックマン神父が【楽園】の為に育て上げたダフィ・ノーツと、[コブラ]が人類一掃の為に作り上げた人口知能! 



 この戦いを制するのはどちらだ!? 




決戦の火蓋は落とされた。

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