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私とスペルミス

ばちん、と誰かに頬を叩かれる。

「……痛い」

小声でそう呟き、薄く目を開ける。

目に映ったのは白い天井。見覚えがない。私は今、寝そべっているようだった。

ゆっくりと、半身を起こす。

誰も、部屋には居ない。

びりっと左の二の腕辺りに痛みを感じた。

「痛っ……」

痛覚があるということは、私はまだ生きてるってことか? いやでも、あの世に行っても痛覚が健在な可能性はあるからなぁ。そんなところがどうなのか聞いてみたいものだけれど、死人に口なし、教えてくれる人はいない。

「コトハ! 起きたのか!」

「し、師匠!」

聞き慣れた声がしてみると、私の寝そべっているベットの足の方に置いてある衝立(ついたて)の横に、師匠が立っていた。

と、言うことは。

「私は、生きてる? まだ死んでないんですよね、師匠?」

「何を馬鹿なことを言ってる。頬をひっぱたくぞ馬鹿弟子」

そっ、か。生きてるんだ。

生きてる。

その真実がただただ私の心をほっとさせ、口元をほころばせた。

師匠は、開会式で見たきっちりとした格好のままだった。こっちに歩み寄り、ベットの横にあるパイプ椅子に腰掛ける。

私が生きてるってことは、あの状況から誰かが助けてくれたのかな?


「師匠、私、空気砲をぶっ放した後に気を失っちゃって……あの後どうなったんですか?」

「ん?」

少し目を見開き、師匠は困ったような顔をした。そして、顎に手をやり少し考える仕草をする。

「まぁ、コトハが気を失ったすぐ後くらいに私があの結界を無効化して、男を捉えてすぐ保健室に担ぎこんだってところか」

「あ、じゃあここは保健室……?」

「そうだよ」

そうか、保健室使ったことないから白い天井に見覚えがなかったんだ。成る程。

にしても、私はまた師匠に助けられてしまったんだな。いつもいつも、ピンチの時には助け出してもらってしまっている。

「師匠、助けてくださってありがとうございます。いつもいつも、ありがとうございます」

ぺこり、と深く深く、一礼をする。

すると、師匠が頭をポンポンと撫でてくれた。

「まだまだ君は発展途上だ。なんて言ったってコトハが通っているのは魔法科なんだ。危険にさらされるのは仕方がないよ。私は親代りなんだからもっと頼っても良いんだよ、コトハ」

優しい師匠の言葉に、笑みがこぼれる。

とてつもなく嬉しかった。心がほっこりとしたような、暖かくなったような感覚がした。

その感覚に浸っていると、ふと心配と焦りが顔に浮かんでいた、イズミやキョウ、級長の顔を思い出した。

「……あ!! 師匠、私と一緒に試合をしていたクラスメイト達は……?!」

「あぁ、それなら大丈夫。全員無事だ。とても心配していたから……元気になったらちゃんとお礼を言うんだよ?」

「はい!」

よかった、無事なんだ!

途中で気を失ってしまったので、何かあったのではと心配にはなる。が、無事なら大丈夫だろう。

ほっと一つ、息を吐いた。


「あと、あの男は__? 男は、なぜ私を襲ってきたのでしょうか?」

最後の疑問、銀色の目の男について、聞く。

「あいつは、私が前撃退した時に魔法警察に引き渡したんだが脱走したらしくてね。腹いせにいじめに来たんだろうが、時期が悪かったな。志智先生が魔法警察に引き渡してくれたよ。あの後の魔法演武はさすがに中止になった」

「そうですか……」

本当、なんだったんだあの男は。迷惑も良いところだ。


「__まぁ、ともかく、コトハが無事でよかったよ」

そう言って、優しげな笑みを浮かべる師匠。つられて私も笑う。

「ありがとう、ございます」

「あ、でもさ。コトハ、スペルミスしたでしょう? 罰の事覚えてるよね?」

えっ? 私、魔法演武の最中にスペルミスしちゃってた?!

何だ、何をスペルミスした?

あっ、分かった。……あいつだ。

「え、エート……何のことでしょうか??」

「忘れたとは言わせない。腕の治療が終わったら、しっかり二百回書いてもらうからね?」

「そんなぁ〜!!」





私にとって“スペルミス”は、命取りだ。



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