第八七話【初冬の森と骨董市】
大変お待たせしました。
「……という訳で、男性陣は林檎の収穫を行い、ハミルの街へ持っていったり、林檎酒を醸造したりしてくれ。女性陣並びに子供や年配組はオレやケニーと一緒に落ち葉や枯れ枝や茸や木の実などの回収を行う。茸は持ち帰ったら干して保存する。以上だ。解散。」
初冬の早朝。
温泉村の広場で白い息を吐く村人たちが頷いた。
コルスの話が終わり、男衆や女衆が別れて本日の作業に取り掛かる。
林檎の収穫が最盛期になると、村人総出で朝から晩まで掛かりきりになる。
そうなる前に、森の恵みをいただこうというのが今回の作業である。
今回の私の任務は護衛だ。
私は短剣を腰に差し、翼竜のマントを羽織ってクロスボウを背中の背嚢に突き刺す。
フレイル系のモルゲンステルンは荷車に載せた。
クロスボウだが、以前よりだいぶん狙ったところに当たるようになった。
弓矢より簡単だという人もいるが、馴れも必要だ。
的に当てるだけでなく、狙った箇所に当てるならば尚更である。
幾ら威力があっても、当たらなければ意味がない。
油断すると突然壊れたりするから、安心出来ない。
改良が続けられているが、普及には少し遠い模様。
コルスにミギャアミギャアと鳴きながらまとわいつく翼竜の赤ちゃんを皆であやしながら、冬の森へと向かった。
皆の作業を見守りながら、外周で警戒する。
コルスと翼竜の赤ちゃんも警戒に当たっていた。
昔弓兵をしていたという元冒険者の老人もいるので、戦力としては充分かな?
冬眠前の熊でも来ない限りは安全だ。
「熊が近づいているようだ。」
コルスが呟く。
「腕が鳴るのう。」
老爺が微笑む。
ぞくりとした。
王国の退役将校だという噂が本当のように思える。
「別に倒してしまってもかまわないのだろう?」
物騒だよ、コルス。
その微笑みは。
「ちょっと一狩り行ってくる! 後は頼んだぞ、ケニー!」
「うむっ! 参ろう!」
「ミギャア!」
中身がおっさんの少年と中身が子供の爺さんが、竜の幼体と共に駆け出していった。
うん、私は最初から戦力外だね。
わかっていたよ。
兎を狙っては外れ、鹿を狙っては逃げられた。
夕方、六台持ってきたうち、五台満載された荷車。
流石に積み込むのを手伝っているうちに日が暮れてきた。
撤収しようかどうしようかと悩んでいたとき、翼竜の赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。
既に周囲の老人たちが動き出していて、成る程辺境のお年寄りは動きがいいと感心する。
熊と鹿を仕留めた二人と一体が戻ってきたのが見えた。
血抜きは既に終わっているようだ。
雪がちらほら降り出している。
そろそろ冬籠もりの時期だな。
斥候隊が街道の除雪に奮闘しているから、冬も商いは継続するぞとコルスが言っていた。
ハミルの街で行われる冬の骨董市はたいそう賑やかな催しである。
街一番の催しは当然収穫祭だが、近年それに迫る勢いある催事だ。
かつては街の隅で細々と行われていただけだったが、領主の息子である子爵の管轄になってからは街の中央広場で行われる行事だ。
出店料は一日銅貨三〇枚と以前に比べて三分の一以下にされた。
開催時期は以前二日間であったが、三日間に改められたそうだ。
一日だけ出店してもいいし、三日通して出店してもいい。
それが五年前の話。
子爵の最初の政策。
父親が気紛れに与えた施策。
出店者は爆発的に増加した。
頭の固い伯爵もこれには喜んだという。
村人が素朴な品を並べることも少なくないが、好事家の所蔵品が大特価で売られることがないこともない。
あったら、私が買う。
コルス曰く、ないな、だそうだ。
食べ物の屋台や土産物や近隣諸国の特産品まで出店するから、骨董市の時期はとても賑わう。
コルスは蓄えた金をどかどか使っていた。
箱買い樽買いなんでもありだ。
普段は慎重な買い物をするのに、ここでは躊躇せずに買い物してしまう。
おそらく、頭の中では既になにをどれだけ買うか決まっているのだろう。
そして、交渉も忘れない。
「いやー、ぼうずにゃかなわねえな。」
交渉を終えてにこにこしているコルスに対し、店主が苦笑いしていた。
村の若い衆が樽を運ぶ。
少し離れた場所で、私は藁半紙の買い物品目に二重線を引いた。
コルスが悪い笑顔を一瞬こちらに向け、すたすた歩き出す。
さて、もう少し付き合わねばならないみたいだ。
私は残りの買い物品目を眺め、早く終わるといいなと思いながら少年の後を追った。




