第八三話【カステラのようなもの】
早朝の温泉村。
自分の宿屋近くに建てさせた養鶏場前で、コルスがケニーと卵を弄りながら会話している。
「たまに食べたくなるんだよな、生卵。」
「衛生管理出来ていない生卵を食べてはいけないぞ、ケニー。」
「そうなの?」
「食べたらわかる。」
「遠慮しておくよ。」
「それが賢明だな。」
「今日はなにを作るんだい?」
「プディングはこの間作ったから、カステラだな。」
「いいねえ。」
「あやふやな記憶で作るからな。味は保証しないぞ。」
「作ることに意義があるんだよ。」
「その通りだ。それではこちらで試食してもらおう。」
「えっ?」
コルスの後をついてゆくケニー。
厨房のテーブルには、いびつだったりぺしゃんこだったりする黄色い食べ物が山盛りだ。
甘い香りが漂っているが、コルスの一族は誰も姿を見せていない。
コルスが時折やらかすのをよく知っていて、おそらくは巻き込まれないようにしているのだろう。
慌ただしく食事をした痕跡がちらほらとある。
「試作品だ。」
「お、おう。」
テーブルに突っ伏す人たち。
我らのトニーが唸っていた。
その隣は闇エルフのリーネ。
「も、もう食えねえ。」
「私ももうダメです。」
幼な妻の前に於いて絶対に言えない台詞を吐く、タロン村の新人村長。
意外とよく食べる闇エルフも、この量はさすがに食べきれないようだ。
「トニーとリーネは限界だ。」
ニヤリと嗤う八歳の少年。
「さあ、食べてもらおうか。」
甘みは抑えてあるので、そんなに食べられないこともない。
ハミルの街の子爵様がいつの間にか、仲間に加わっていた。
視察か遠出に来たところをコルスに捕まったのだと考えた。
作るのに成功したら、その製法を教えるという条件らしい。
「コルス、これはなんという食べ物なんだい?」
「カステラという菓子だ。カスティーヤ王国という古い古い王国で作られていたらしい。」
「へえ。」
疑わないな、この美形の青年。
うん、これはちょっと固いな。
「コルス、これはオムレツに混ぜたらどうだろう?」
「そうだな、変わり種にしてみるのも悪くないな。」
「スフレみたいにはならないね。」
「そういや、スフレみたいなカステラもあるよな。」
「スフレ?」
「ふわふわした菓子さ。」
「やわらかい菓子です。」
「ふうん。」
午後からは商人のアヘヒロが子爵の若様と入れ替わり、カステラの試食会に参戦している。
大量のカステラのようなものに苦戦する歴戦のあきんど。
「コルス、これは焼き固めたらどうかな?」
「どれ、ふむ、じゃあ少し焼いてみるか。」
「二人とも息がぴったりだね。」
アヘヒロが何故かニヤニヤする。
「べ、別にこれといった理由なんかないんだからねっ!」
「コルス、何故そこでツンデレ風味の発言をするんだ?」
「いや、なんとなく。」
「女装が癖になった?」
「いっそ、村の宣伝に行く時はすべて女装にしようかな。」
「私はその女装を見ていないんだが、そんなに好評だったのかい?」
「かなり好評でしたよ。」
「男衆からは好色な視線を向けられ、女衆からは好奇の視線を向けられた。」
「へえ。」
試食会は夕方まで続き、もう少し改良してから女性陣に開発を手伝ってもらおうということになった。
残りのカステラのようなものは、弓兵のフーキーや私が預かっている娼婦たちに分け与えた。
彼女たちからは意外と好感触だったので、更なる改良をすればそこそこのものにはなるだろう。
食べ物をおいしくする道は果てしなく遠い。
その後、トキタのおっさんを経由して、お菓子が食べられなくてとても残念だと嫁さんたち並びに義理の母から伝言が伝えられた。
彼女たちに直接会える日はまだ遠い。
むぐぅ。




