意外性のある悪魔アイテム
俺は今から訓練するらしいのだが、具体的に何をすればいいのか全く分かっていない。
とりあえず飛鳥に渡された赤い宝石を手のひらで転がしている。
飛鳥はもう一つ、同じような赤い宝石を取り出して、右手の人差し指と親指でつまみ、その宝石を少しずつ動かすことで、宝石に対する視線の位置を変えながら宝石の状態を確認した。
「いい感じです」
よくわからなかったが「ほほう」と頷いておく。
「では、始めます」
「玄関にランプが見えますよね」
「ああ」
「まだ明るいのに、ぼうっとしています」
「ふむ」
「よく目を凝らして」
言われるががままに目を凝らすと、ランプから手足が生えているように見えてぎょっとする。
あれは…妖怪系の奴っぽい。
「あれに向かってーー」
飛鳥は右手の宝石を高くランプに向かって掲げる。
ランプに宿っている炎が勢いよく赤い宝石に吸い込まれていくーー
そんな現象がおきることは無くーー
その代わりそのまま大きく振りかぶってーー投げた!
ズガーン!
ランプは木っ端微塵になってしまった。
「なんじゃそら!」
相当に予想外の展開だったので思わず突っ込みをいれる。
吸収するのかと思った。大体、飛鳥って召喚系の悪魔だから、そういう妖怪みたいなのを宝石に閉じ込めて使役するんだよ、的な。
「さっ、涼もやってみて」
「いや、いいけど、あの、ランプの精? みたいな奴、木っ端微塵にしちゃっていいのか?」
「大丈夫大丈夫」
「本当かぁ?」
飛鳥はそのまま『葛城』の家の玄関のドアを開けてずんずんと入っていく。
それからしばらく、屋敷の中で変な物を見つけては、宝石をぶん投げては破壊していった。
ちぎっては投げちぎっては投げって少し違うか。
夕方になる頃にはどんよりとしていた葛城ハウスの雰囲気もすっかり清々しいものになっていた。
「なあ、これって何の訓練なんだ?」
「涼は霊とか、超常に対する耐性が低いからね。そいつらをやっつけるという感覚を覚えてもらったんだ」
「初歩の初歩。心構えみたいなものかな」
「ふーん、まあなんとなくわかった」
「徐々に難易度をあげていくから」
俺はポムのような赤い宝石を握っていた自分の手を見つめ、完全に飛鳥のペースだなとおもったが、現在のところ、自ら道を切り開くことが不可能であることも分かっていた。
飛鳥はあの葛城ハウス徐霊の依頼を受けていたらしい。後日、俺に札束が入った封筒を渡し、君達の生活費は何とか稼げそうだね、とニヤリと笑った。