惨劇の轍
琥珀色の村を後にしてから、数日が過ぎた。
結城 終が歩む街道は、次第に道幅を広げ、隣国との国境に近い大都市へと続いていた。
だが、その平穏なはずの旅路に、不穏な風が吹き抜ける。
「……血の匂い、ですか」
終は足を止めた。
二十歳の鋭敏な嗅覚が、乾いた風の中に混じる鉄錆の匂いを捉える。
さらに、百二歳の経験が、その匂いの「質」を冷静に分析した。これは、単なる野生動物の争いではない。明確な殺意によって流された、人の血の匂いだ。
坂を登り切った先、終の瞳に飛び込んできたのは、無残な惨劇の跡だった。
街道の真ん中で横転した馬車。
矢が何本も突き刺さった車体は、激しく略奪された跡があり、積み荷の木箱が粉々に砕けて散乱している。
その周囲には、数人の護衛と思われる男たちが、剣を握ったまま息絶えていた。
終は帽子を脱ぎ、静かに遺体へと歩み寄った。
「……お労しい。せめて、野晒しにはさせませんよ」
彼は銀の杖を軽く突き、周囲の状況を確認する。
襲撃者は相当な手練れだろう。一撃で急所を貫かれた跡が多く、抵抗の跡が極めて少ない。
だが、略奪にしては奇妙な点があった。
散乱しているのは金品ではなく、割れたガラス瓶と、そこから漏れ出した無色の液体――。
「薬、ですね。……それも、かなり高度な精製が施された」
その時、横転した馬車の陰で、微かな「音」がした。
「……っ、がはっ……」
「おや、まだ『門』を潜っていない方がいらっしゃいましたか」
終は足早に馬車の影へ回り込んだ。
そこには、純白の法衣を血で汚した老人が、一つの頑丈な薬箱を抱きしめるようにして倒れていた。




