表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百二歳で大往生した葬儀屋、異世界で亜神として二度目の人生を始める〜最強葬儀屋、銀の杖で世界を安らぎの葬送に染め上げる〜  作者: 榎木丈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/58

世界に捧ぐ、最後の一礼

 「……葬儀屋よ。……お前の目に映る私は、美しく幕を閉じられるだろうか。……次の世界(しんじだい)へ、何も穢さずに還れるだろうか」


 世界の意志が、一人の老婦人のような、あるいは幼子のような、透き通った声で問いかけた。

 終は、かつて現世で家族に見守られながら旅立った自分自身を思い出し、これ以上ないほど穏やかな微笑(びしょう)を浮かべた。

「ええ。約束しましょう。これほど美しい世界を、私は他に知りません。あなたの最後の一行は、私という、一〇二年生きたこの世で最も贅沢な葬儀屋が、責任を持って綴ります」


 終は銀の杖を天に掲げ、これまでの旅路で得たすべての奇跡を一つに束ねた。

具現化の儀(コンストラクト)神聖なる終焉の葬列(コスモス・レクイエム)


 境界の断崖が、瞬時に純白の睡蓮(すいれん)の花海へと変わった。虚無の海は黄金の光に満たされ、終焉の門は「次代への凱旋門(がいせんもん)」へとその姿を変える。

 終は、かつての現世で最も格式高い葬儀の際にだけ用いた、最高の礼法(れいほう)で、世界じだいという名の霊柩に手を触れた。


「これより、旧き世界じだい、ならびにすべての因果(いんが)の解脱式を執り行います。……参列者は、これから生まれる無数の命たち。……お疲れ様でした。あなたという奇跡に、最大の敬意と感謝を捧げます」


 終が鎮魂の調べを奏でると、巨大な終焉の門がゆっくりと、しかし確実に開いた。

 世界じだいという時そのものが光の粒子となり、門の向こう側へと吸い込まれていく。それは滅亡ではなく、大いなる循環(じゅんかん)の始まりであった。

 境界の彼方から、新しく生まれる世界しんじだいの産声が聞こえてくる。終は、その光の奔流を見送りながら、静かに、そして深く腰を折って最後の一礼を捧げた。


「……さようなら。……私の、愛した世界じだい





 光が消え、新しい世界(しんじだい)が産声を上げた後。

 そこには、境界の断崖も、終焉の門も、そして結城 終の姿もなかった。

 ただ、新しく生まれた豊かな大地の中央に、一振りの銀の杖が、一本の若木を支えるようにして立っていた。杖の傍らには、漆黒の外套が綺麗に折り畳まれ、その上には一〇二年の知恵を記した古い帳面と、小さな数珠が置かれていた。


 案内役の光の玉は、小さな一羽の小鳥に姿を変え、その杖の頭に止まって囀った。

『終、君は最後まで葬儀屋だったね。……でも、見て。君が蒔いた種が、こんなに鮮やかな花を咲かせているよ』


 新世界しんじだいの住人たちは、いつしかその場所を「始まりの聖域」と呼ぶようになった。

 何かに悩み、行き詰まった者がその場所を訪れると、どこからか銀の杖が床を打つような、規則正しくも優しい音が聞こえてくるという。そして、不思議と心が軽くなり、人生の最後の一行までを懸命に生き抜く勇気が湧いてくるのだと。


 結城 終。一〇二歳で大往生し、異世界を弔った葬儀屋。

 彼がひとときの眠りに消えても、彼が遺した「死への安らぎ」と「生への敬意」は、新しい世界(しんじだい)の理として永遠に語り継がれていく。


 空は晴れ渡り、新しい太陽が地平線から顔を出した。

 それは、かつて彼が見守ったどんな夜明けよりも、眩しく、希望に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ