表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第10話:義手のキス

 その日の午後、二人はいつものように料理をしていた。春野菜のパイ。皮はカイルが生地から手ごねで作り、具材はライアが刻んで準備する。


「切る手つき、どんどん良くなってきましたね」


「当然だ。何度君に指摘されたと思っている」


 そう言ってライアはわずかに唇を上げた。


 焼き上がるまでの間、カイルは道具を片付けていたが、ふと、テーブルの上に置かれた義手に目を留めた。ライアの右手だ。料理中は付けていないことが多い。


 彼はそれをそっと両手で持ち上げた。


「触れてもいい?」


 ライアは目を細める。


「もう触れている」


「そうだった」

 

 小さく笑ってから、彼は義手に唇を寄せた。その行動に、ライアは驚いて言葉を失う。


「この手が、僕を助けてくれた。僕に料理を教えてくれた。そして・・・僕の心を守ってくれた。大好きだ」


 カイルが義手にキスを落としたその瞬間、ライアの中に何かが溶けるように崩れていった。痛みも、誇りも、過去も、そのすべてを抱きしめてくれたカイルの真心が、確かにそこにあった。


「ありがとう、カイル・・・嬉しい」


 それは、ライアが初めて彼に告げた“感情そのもの”の言葉だった。


 春野菜のパイが、オーブンの中で音を立てて焼き上がる。香ばしい香りが満ちる小屋の中で、ふたりは互いの存在を確かめ合うように、ただ静かに手を取り合っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ