第9話:告白と焦げたパン
朝、小屋の中に香ばしい匂いが漂っていた──少し焦げたパンの匂い。
「うわっ、やっちゃった・・・」
カイルがトーストを引き上げ、焦げた面を見て苦笑する。ライアはその様子を見て、椅子に腰かけながら呟いた。
「最初に出会った日も、その匂いだったな」
カイルは手を止めて振り返る。
「あのときも、焦げたパンの匂いが?」
「いや。君の服と、リュックに染みついた、ほんの微かな匂いだ。でも、なぜか覚えてる」
少し照れたように、ライアは湯気の立つカップに口をつけた。
「焦げはミスですけど・・・それがきっかけで思い出してもらえたなら、案外悪くないですね」
そう言って、カイルは焦げた部分をナイフで削り、皿に並べる。
「今日は・・・話したいことがあって」
その声色に、ライアの動きが止まった。薪のはぜる音が、ふたりの沈黙を埋める。
「ライアさん。僕は、あなたがどんな過去を持っていても、今のあなたが大好きです」
ライアは目を見開いた。そのまま、すぐには言葉が出てこない。
「その・・・料理がきっかけだったけど、でもそれだけじゃなくて。笑った顔とか、剣を置いたときの安堵の顔とか・・・全部、心に残ってて」
カイルはうつむきながら、それでもしっかり言葉を紡ぐ。
「だから、これからも一緒にいてほしい。肩を並べて、料理をして、暮らしていきたい」
ライアはしばらく黙っていたが、やがて、スプーンを置き、まっすぐに彼を見た。
「・・・好き、というのは、怖い言葉だ。私の時間は、君よりずっと長い。たぶん、私は君より先には死ねない」
「それでもいい。僕の時間が尽きるまで、毎日、あなたと食卓を囲めたら、それで充分」
言葉が心の奥深くに触れた。ライアは小さく笑い、ふと手を伸ばした。焦げたパンの欠片をひとつ取り、口に運ぶ。
「悪くない。少し、苦いけど」
それは、彼の想いを受け入れる合図だった。
小屋の中に、春の朝の光が差し込んでいた。




