第5話 イルミネーション
「さて、いきましょうか?先輩」
わたしは家から出て、先に待っていた先輩にそう話しかける。ついに今日最後の予定だ。もうすぐ、終わってしまうというのが、少しだけさびしい。
ふたりはいつの間にか手をつないでいた。つい数か月前まで手を握るのに勇気が必要だったが、今では自然にそれをすることができた。ふたりが積み重ねた思い出を振り返り、わたしは嬉しさと恥ずかしさが同時にこみあげてくる。
「しっかし、先輩、焦りすぎですよ。お母さんが帰ってきたくらいで」
わたしは15分前の出来事を思い出して、先輩をからかった。
「心の準備ができてなかっただけだ。だいたい、親御さんに内緒じゃなかったのかよ」
先輩は寒いのに、顔を真っ赤にして否定する。
「だれがそんなこと言いました?ちゃんと、許可取っていますよ~。彼氏がご飯を食べに遊びに来るからって」
わたしはわざと誤解をさせようとしただけだ。嘘は言ってない。
「からかったな」
「さぁ~?」
お母さんが早く帰ってくるとは思っていなかった。たぶん、先輩の顔が見たくて、早めに仕事を切り上げてきたんだと思う。こういうところは親子だなと思う。
「先輩の手、温かいですね」
「さっき、緊張したからだよ」
「フフ~」
駅に着いた。駅前には大きなクリスマスツリーとたくさんのイルミネーションが飾られていた。わたしたちは無言でそのイルミネーションを見ていた。ただ、いつもより力強くお互いの手を強く握って、気持ちを確かめ合っていた。
「とても、きれいですね」
「ああ」
わたしたちはそんなありきたりで、短い会話をした。それはとてもありきたりなんだけど、わたしたちにとっては特別なもので……。
空からは雪が降ってきた。雪はさらにイルミネーションを輝かせていく。もうふたりには会話も必要はなかった。ただ、隣にいてくれるだけでよかった。そうしたら、もうあなたの気持ちなんて確認する必要もないのだから……。
ふいにわたしの唇に彼の体温が伝わってきたのだった。(完)




