5 胃袋を刺激された彼女
「毎日ラブラブ登校だね」
金森さんは毎回ぶっちゃけトークをかまして来る。もう少し当事者の身になってくれるとうれしいのに残念だ。
「そんなんじゃないよ。毎回すごいプレッシャーなんだから」
「でも王子様はすごくしあわせそうだけど?」
「先輩は良い人だから、頼りない妹を労わる兄のような気持ちで暖かく包んでくれてるんだよ」
「近親相姦か。それは燃えるね」
「か、な、も、り、さーん」
「新井さん。今時の高校生の性がどれだけ乱れているのか知らないとでも?貴方を見て発情しなかったらそりゃあ王子はEDですよ」
イー… …ディー。それってなんだっけ? 何処かのアイドルグループかな。中学時代は夢を追いかけて青春真っ盛りだったからあまりテレビとか見てなかった。今時の流行物とか実は全然分らないのだ。
「とにかく、男は狼なの! それだけは覚えておきなよ」
「はい」
とは言ったものの毎日の送り迎えの時に他愛のない話しをして手を繋いで、見詰め合って……それ以上の事は何もないので付き合っている実感はない。
お休みの日にデートだってしたことはない。
女子の嫌味は無くなったけど遠巻きに見られている感じで薄気味悪いし相変わらず居心地は良くないのだ。
「ね、金森さん、たまには寄り道して帰らない? 甘いものが食べたい気分なんだ」
「……。いいけど、王子はどうするの?」
さて、考えてなかったけど用事があれば遠慮してくれるだろう。
「と言う訳で今日は送ってもらわなくて大丈夫です」
「いいよ。お友達も一緒にどうぞ。お店まで送るよ」
「そんな悪いですよ」
「かまわないよ。この後用事もないし、僕も行こうかな」
何だか変な組み合わせで3人お店に向かう。
私は街中の小さなケーキ屋さんを想像してたのにホテルにたどり着いてちょっとびっくりしている。
「ここのチーズタルトこの間美味しいって言ってたでしょう? 」
この間のパーティーで食べたのはここのケーキだったのか。すたすた歩いて行く先輩の後を追いかける。制服姿でこんなホテルに寄り道してもいいのだろうか。しかも生徒の見本となるべき生徒会長さまが一緒とは気が引ける。
ホテルのビュッフェコーナーには沢山の女性がそれぞれにお皿を持って行き来しているあちらこちらでおしゃべりの花を咲かせて楽しそうだ。
大学生や、それ以上上の年齢の人たちが多い。ちょっと私たちは浮いている。
最初に飲み物を頼んで好きなケーキを取りに席を立つ。実はバイキングはあまり好きじゃない。絶対に元が取れるほど食べられないし、ひとつの物をじっくり味わった方が舌は満たされると思うからだ。よく食べても2個が限度だろう。お目当てのチーズタルトと後味の残らないフルーツタルトを取って席に戻る。
先に戻っていた金森さんのお皿を見てびっくりする。山盛りだ。
「金森さんそんなに食べられるの?」
「余裕でしょう。何、新井さん冗談なの? 自ら誘っておいて2個ってどう言う事よ」
「無理無理。これでお腹いっぱいだよ」
「華奢で少食とは……。どんだけ庇護欲をそそるんだか」
金森さんのぼやきは独特で誰目線の会話なのか最近分らなくなる事がよくある。早く慣れて適宜に反応したいのにいまいち理解出来ない。
「新井さんはそれだけ?」
「はい。このタルトが食べられるだけで大満足です。頂きます」
チーズの香りとサクサクとしたタルト生地の歯ごたえが何とも絶妙でのどを通る度にしあわせな気持ちになる。これは癖になる味だ。今度の誕生日にはホールでお買い上げしたい。
「おいしそうに食べるんだね」
先輩がニコニコしながら話し掛ける。
「はい。だって、本当においしいですこのタルト」
私も負けじとニコニコして返す。
「うえっ。甘っ……」
胸焼けしたのか金森さんが嗚咽を漏らして顔をしかめる。
だから言ったのに、お皿に取り過ぎだよ。




