6 貸しを作った彼
毎日の送迎が当たり前になって来て、学校中のみんなに僕と彼女の仲は公認に為りつつある。ここら辺で次の段階に進んでもいいんじゃないかと思っていたら彼女が珍しく寄り道をしたいと言ってくる。僕とふたりじゃないのは残念だけどこれは親交を深める願っても無いチャンスだ。逃す訳も無く一緒にティータイムを楽しむ事にする。
女子はバイキングとか、とにかく好きだ。そんなに食べられないとか言いながら驚く数のケーキを平らげる。細いくせによく入ると思うけど食べてしまえる物らしい。
僕たちの学校の制服は世間でも良く知られている。ちょっと良いところの私立高校で制服が身分証代わりになる事が多々ある。結構格式のあるホテルでも信用が置けるのか、怪訝な顔はされず、気兼ねなく入っていける。目ざといゲストの人達がこちらを見て何やら囁いているのが分る。
そんな回りの雑音には気にも留めず、ひたすらケーキを食べる彼女。小さく切っては口に運びゆっくり咀嚼する。
かわいい。
見ているだけで顔がにやけてしまう。
こんな姿が見られるならこれから毎日通ってもいい。
「先輩は食べないんですか」
「僕もチーズタルトが良かったんだけど品切れだった」
「そうなんですか。これよかったら、食べ掛けですけど、食べてください」
「えっ……」
思い掛けない申し出に胸が躍る。
これは美味しい。
間接キスの予感がする。けれどいいのか?あんなにうれしそうに食べてたのに。
「新井さんそれじゃ先輩も食べ辛いでしょう。フォークで口に運んであげなさいよ」
「あ、ごめんなさい」
そう言って先程まで口に運んでいたフォークに一口のタルトをすくって差し出して来る。バクバクする心臓を沈めて平静を装い口に入れる。
「美味しい」
「はい」
ニコニコ顔の彼女はこのタルトより甘い。
甘くて美味しそうで食べてしまいたくなる。隠したオオカミの尻尾が飛び出してしまいそうだ。
「コホン!……ご馳走様です」
彼女の友だちが呟くと視線がそちらに移動する。残念だが先約はあちらなので今日は仕方ない。何時までもグズグズしていると話が尽きそうも無いので伝票を持って席を立つ
カード払いで支払いを済ますと慌てた様に彼女がやって来る。
「あの、私たちのケーキ代です」
「いいよ。一緒に払ったから」
「駄目です。受け取ってください」
彼女の必死の訴えに少々戸惑ってしまう。
女の子は男に支払いをさせて当たり前と思っている生き物なんじゃないのか。マナーとして一応は遠慮している振りをしても振りなので本気じゃない。
ケーキ代の2人分位大した金額じゃないのでまったく遠慮はいらないのに気まずそうにしている。
この子は何処からタイムスリップして来たんだろう。
今時こんな真面目ちゃんは何処にもいない。いじらしくて抱きしめたくなる。
「でも僕現金持ってないからお釣が無いよ。そうだ、今度は新井さんが僕に付き合ってくれない? その時にお茶代払ってくれたらいいよ」
「そうだね。それがいいよ! ご馳走様です。私寄る所があるから此処で失礼するね。新井さんまたね」
「僕たちも帰ろうか」
「はい。ご馳走様でした」
まだ納得はしていないようだけど、二人並んで車に向かう。もちろん手は繋いだままだ
「先輩は何処か行きたい所があるんですか」
「そうだな……。映画に行きたいかな」
「映画か、いいですね」
「新井さんは何が見たい? 洋画? アニメ?」
「コメディーがいいです。笑える映画」
「そう」
君が一緒ならなんでもいい。手を繋いだままずっと一緒に居よう。笑う顔も、泣き顔も全部隣で見ていたい。
でもそうしたら映画に行く意味は無いかもね。




