18、最終話 代打になりたくないし、代打になんてならない。あなたの隣では
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
カケルさんの願いはカケルさんの仕事がなくなること。
そして女性が安心して働ける社会になること。
いつかカケルさんとその願いのために一緒に働きたい。
そこに課長が隣で見届けていてくれたら嬉しいな。
「遼綺さん、今日はデカ盛り餃子チャレンジですよ」
「杏、またデカ盛り? 先週はデカ盛り小籠包だったよな?」
「この隠れ家のお店が毎週デカ盛りチャレンジをすることになったみたいなんです」
「でも俺は毎週食べていたら太るよ」
「それなら食べてる私を見ていてくださいよ」
「それも、そうだな。可愛い杏の食べる姿は飽きないからね」
「それじゃあ、デカ盛り餃子チャレンジ注文ですね」
私と遼綺さんの上司と部下の関係は変わらない。
そして恋人ということは二人だけの秘密。
「ねぇ、知ってる? 総務の女性社員がおめでたで、産休と育休を取るんだってよ」
ある日、どこかの部署の女性社員の噂話が聞こえてきた。
総務は忙しいって聞いているからカバーはできるのかな?
こんな時にカケルさんがいたらいいのに。
「でも、救世主が来たから大丈夫だって言ってたよ」
「救世主?」
「そう。誰だったかな? カコイ、カケイ、カケルさんだったかな?」
女性社員の噂話を聞いて私は伝えたい人の元へ走る。
「は、、、課長!」
私は、いつもの癖で遼綺さんと呼びそうになって課長と言い直す。
「光さん?」
「か、か、カケルさんが」
「うん。落ち着いて。カケルさんが何?」
「総務に」
「あっ、そういえば今日、総務に新しい人が来るって言ってたけど、もしかしてカケルさん?」
「そうみたいです」
「行こう」
そして私と遼綺さんは総務へ向かう。
扉を開けて私はカケルさんを探す。
カケルさんの後ろ姿を見つけた。
「カケルさん」
私はカケルさんを呼ぶ。
カケルさんは振り向いて微笑んだ。
「光さん。私は代打ですので」
カケルさんの一言で私は理解する。
今は仕事中。
話は後にしてという意味。
「カケルさん、定時になったら屋上で待ってます」
「分かりました」
それからソワソワしながら一日を過ごし、定時になると遼綺さんと一緒に屋上へ向かった。
屋上に着くとカケルさんは来ていた。
「カケルさん、お疲れ様です」
「杏ちゃん、お疲れ様。課長も」
遼綺さんは小さく会釈をして、私達から少し離れた所から見守る。
「再会が早かったわね」
「そうですね」
「杏ちゃんの代打になるのを楽しみにしていたんだけどな」
「かっ、カケルさん、まだまだの話ですよ」
「そう? 課長は独占欲が強めな感じがするけどな。早く同じ苗字になりたいとか思っていると思うよ」
「カケルさんは、どうしてそんなに課長のことを知っているんですか?」
「それは、、、」
カケルさんは言うのを迷っているようで一度、遼綺さんを見てから私を見る。
「課長の秘密を知っているからよ」
「あっ、それってカケルさんと課長の交換条件ですか?」
「そうよ。知ってるの?」
「はい。課長の秘密はカケルさんから聞いてって言われました」
「そうなの? それなら教えるわ」
それからカケルさんから遼綺さんの秘密を聞いた。
私は、その話を聞いて凄く嬉しかった。
「こんなこと本人からは言えないわよね?」
「そうですね。課長は言えないですね」
「でもね杏ちゃん。言葉にすることが苦手な課長だけど、あんなに大切に思ってくれる人はいないわよ」
「はい」
分かってる。
私を大事にしてくれて、私の気持ちを優先してくれて、私の大食いにも付き合ってくれる遼綺さんを、大切にしなきゃいけないことは。
「私も大切にしなきゃいけない人ができたの」
「えっ、カケルさんにも?」
「そうよ。どんな私でも愛してくれるの。そんな人はいないって思っていたのに、出会えた。杏ちゃんに感謝しなきゃね」
「私に? 私が何かしました?」
「ハルだから」
「えっ」
「杏ちゃんの元彼のハルよ」
「えっ、ハル君ですか?」
私の驚く声を聞いて遼綺さんが怪訝な顔をする。
「私は一生、彼に尽くすと思う。でも、それは引け目とか負い目とかじゃなくて私が彼を愛しているから。そして彼が私を愛してくれるからなの」
カケルさんは、ずっと引け目や負い目を感じて生きてきたんだ。
それをハル君が取っ払った。
これからのカケルさんは、もっともっと沢山の女性を助けるんだと思う。
女性の気持ちに寄り添って女性の働きやすい職場作りをする。
女性の味方。
救世主であり、神である。
それが代打のカケルさん。
「杏」
カケルさんが帰った後、遼綺さんが少し不機嫌に私を呼ぶ。
拗ねてる?
「なんですか?」
「さっき、ハル君って言ってたけど何?」
「あっ、そういうことですか」
「えっ何が?」
「遼綺さんが拗ねてる理由です」
「俺が拗ねてる?」
拗ねていることに気付かないなんて、本当に私しか見えていないんだね。
「カケルさんの恋人がハル君だって聞いたんですよ」
「えっ、カケルさんの?」
「そうですよ。だから遼綺さん、心配しないでください。私は代打だとは思っていないので」
「えっ、もしかして聞いた?」
「はい」
「あの時の俺は変だったんだよ」
「全然、変じゃないですよ。だって私、嬉しいですもん」
あの日、遼綺さんが言った言葉、それは、、、。
“俺は代打になりたくない。彼女の隣で、ずっと一番でいたい”
「私は代打になりたくないし、代打になんてならない。あなたの隣では」
私が彼に向かって言うと、彼は私を抱き締めた後、優しいキスをした。
初めて会社でキスをした。
これが彼の覚悟なんだと思った。
私は一生、彼の隣では一番だ。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




