大団円
外交式典は、我が国の圧倒的な『文化の勝利』として幕を閉じた。
王妃陛下が身に纏った群青色のドレスは、他国の賓客たちの目を釘付けにし、その洗練されたシルエットと斬新なデザインは、我が国の芸術水準がいかに高く、先進的であるかを世界に知らしめる決定的な役割を果たしたのだ。
後日、王宮の謁見の間
シャンデリアの光が降り注ぐ中、僕は国王陛下と王妃陛下の前に跪いていた。
「仕立て屋、アッシュよ。その卓越した技術と類まれなる美の才をもって、我が国の文化の素晴らしさを諸外国に知らしめた功績は、計り知れぬ」
国王陛下の威厳ある声が響く。
「よって其方に、『王室御用達仕立師』の称号と、さらには一代男爵の爵位を授ける。……これからは貴族として、この国の美を牽引し、高みへと導くが良い」
「……っ! ははっ、謹んでお受けいたします……!」
震える声で答える僕の胸に、王室の紋章が刻まれた勲章が輝いた
平民の仕立て屋が、絶対的な身分の壁をたった一本の針と糸で打ち破り、貴族の列に加わった瞬間だった。
王太子の失脚に伴い、公爵家への嫌がらせは完全に消え去り、僕のブランドは国境を越えて世界へと羽ばたくことが約束されたのだ。
謁見の間を退出し、長く豪奢な回廊を歩く僕の前に、見慣れた、しかし誰よりも愛おしい人影が待っていた。
純白の絹のコートドレスを着こなし、軽やかなボブカットを揺らすレオノーラ様——いや、レオノーラだ。
「アッシュ……!」
彼女は感極まったように僕の名を呼び、周囲の目もはばからずに駆け寄ってくると、僕の胸に勢いよく飛び込んできた。
僕を抱きしめるその腕は、騎士団長としての力強さと、一人の女性としての深い愛情に満ちていた。
「おめでとう、アッシュ……! ああ、なんという誇らしい日だ」
「レオノーラ。……これでやっと、あなたに相応しい身分になれました」
僕が彼女の背中に腕を回して強く抱きしめ返すと、後ろから豪快な笑い声が響いた。
「はっはっは! まったく、我が公爵家に相応しい、とんでもない婿殿が誕生したものだ!」
振り返ると、そこにはレオノーラの父である公爵と、扇で口元を隠して嬉しそうに微笑むお母様が立っていた。
「お父様……!」
赤面して僕から離れようとするレオノーラの手を、僕はギュッと握って離さなかった。
公爵は目を細め、僕たち二人に深く、温かく頷いた。
「アッシュ男爵。もはや身分を隔てるものは何もない。……我が愛娘、レオノーラの生涯の伴侶となることを、公爵家当主として正式に認めよう」
「……ありがとうございます!!」
万感の思いが込み上げ、視界が滲んだ。
隣を見ると、レオノーラもまた紫水晶の瞳から大粒の涙をこぼし、僕の手を両手で強く、強く握り返してくれていた。
数ヶ月後。
王都の一等地へと移転した僕の新しいアトリエでは、今日も心地よいハサミの旋律が響いていた。
愛する者を完全に我が物とした悦びは、僕のクリエイターとしての情熱を落ち着かせるどころか、むしろさらなる激しい炎となって燃え上がらせていた。
僕の頭の中には、新しいデザイン、新しい布の組み合わせ、まだ世界が知らない美のイデアが、泉のように止めどなく湧き出している。
特別なトルソーの前で、僕は真新しい純白の極上シルクにメジャーを当てていた。
これまでに仕立てたどんな服よりも美しく、優雅で、そして彼女のすべてを輝かせるための至高の一着。
僕の妻となるレオノーラのための、ウェディングドレスだ。
「アッシュ、無理をしていないか? 昨夜も遅くまで工房にいただろう」
アトリエの扉が開き、少し心配そうな、しかしとびきり甘い声と共にレオノーラが入ってくる。
僕は振り返り、世界で一番美しい僕のミューズに向かって、満面の笑みを向けた。
「無理なんてしていませんよ。だって、あなたを美しく飾ることを考えるだけで、次から次へとアイデアが溢れて止まらないんですから」
布が擦れ合う微かな衣擦れの音。小気味よく響くハサミの旋律。
僕の世界はいつも洋服と共にあった。
でも今は、その中心に彼女がいる。
僕たちの、美と愛を紡ぐ革命の物語は、まだ始まったばかりだ。
完
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