第七話 13
加賀美佐助は、溜まりに溜まった仕事をこなすため、たった一人で事務所に残って仕事をしていた。明日までの期限の調査報告書のチェックが、まだ随分残っていた。
米澤唐吉の事務所と提携して、彼の働きに期待しているのは本当のことだった。検察官時代の米澤唐吉は、性格に難があるものの、仕事だけは完璧にこなすヤツだと一目置いていた。それにしても、裁判官の時と違って、こなす仕事の内容ががらりと変わり、ウンザリすることもあったが、自分の力量次第で、会社の収益がいくらでも上がるという会社経営はやり甲斐もあり、自分に向いていると思っていた。
最後に残っていた調査報告書に目を通して承諾の印鑑を押し、帰り支度をしようとしたところ、予期せず事務所のドアが開き、初老の女性が入って来た。営業時間を過ぎているので、明日改めて来てほしいと声を掛けようとしたが、女性の真剣な眼差しを感じ、加賀美佐助は思わず出かかった言葉を飲み込んだ。
「初めまして。私は米澤綾子と申します。お願いしたいことがあってお伺いしました」
「初めまして」
「こんな時間なので、単刀直入に申します」
「はい……」
「私の身内である米澤唐吉を見張って頂きたいんです」
加賀美佐助の目を見据え、米澤綾子は、そう言った。
第八話へ続く




