第二話 14
海東達弘の依頼を解決し、また、いつもの日常が戻って来た。いつもの日常が戻ってくるということは、すなわち暇を持て余すということになる。
またうちの事務所の前で、山本道代と神崎美波はビラ配りをし、うちの事務所に興味を持って看板を眺めている人間に、「こちらの山本調査事務所のほうが親切丁寧で割安です」と口説いている。なんで女はこんなに厚かましいのだと思った瞬間、加賀美佐助の事務所からも男性事務員が飛び出してきて、うちの事務所の前でビラ配りをし始めた。厚かましいのは、女だけではないかもしれない……。
あんまり厚かましいので文句を言いに外に出ようとドアを開けた途端、巨大なゴミ袋が事務所に投げ込まれた。「何事!?」と思った瞬間、それと同時に、五十代くらいの中年の女も一緒に事務所に転がり込んできた。突然の出来事に、目を白黒させていたら、その女は「きちんとゴミの仕分けをしろよ! あんたのところのゴミだけ、ゴミ収集車がいつも持って帰ってないんだよ!」と叫んだ。
「はぁ?」
「はぁ、じゃないっ! ゴミくらいきちんとしろ!」
「あの、どちら様で?」
「アタシはこのビルの管理人の平林真奈美っていうんだよっ!」
「はぃ、そうですか……」
気が付けば、いつのまにか山本道代が事務所の中に入り込んでいて、ニヤニヤしながらこちらを窺っている。何てヤツだ!と思ったが、そのまま放置していた。
「同じ男でも佐助はずいぶんいい男だ。アタシにいつも差し入れを持って来てくれる。アンタは最低!」
平林真奈美は、そう捨て台詞を放つと、帰って行った。
「なんだ、あのクソババアは!」
僕がそう言うと、「暇なんだから、ゴミくらいきちんと仕分けしなさいよ。気遣いがないから閑古鳥が鳴くのよ」と山本道代は僕を馬鹿にした。
「不法侵入で訴えるぞ!」
「お金がない事務所が、そんな小さな案件で訴えても手数料で損するだけでしょ」
「うるせー」と言い返そうとしたら、ふいに電話が鳴った。新宅正司は、慌てて電話に出た。新宅正司は、「はい」「はい」「えー」「ほんとですか!」「ありがとうございます!」と言って、受話器を置いた。
「どこから、なんて言って来たの?」
「海東達弘さんからだったんですけど、お知り合いにこの間の調査のことを話したら、偶々その人が所長のことをご存知で、自分も是非お願いしたいことがあるので、近々事務所に行きたいと言ってたそうです! 所長! 新しい仕事ですよ!」
そう言って新宅正司は顔を紅潮させた。
しかし、山本道代は憮然とし、「ふん!」と言って、事務所を出て行った。
第三話へ続く




