~面倒事⑥バーベキュー中編~
第9章ー8
いい感じに結束力が増してきた主婦勢。
ここで次の手に打って出る。
「家族サービスのはずが、結局手伝ってもらってゆっくりできないじゃないですか。何か申し訳ないんで是非あの二人には来てもらって目の保養をしてもらいたいです」
エサを撒き散らかしてみる。
「来てくれたなら今までの苦労が吹っ飛びますよ!」
「「「うん、うん!」」」
かなり食いついてるな⋯⋯。
「本当は日頃ご主人を支えている奥様方や、構ってもらえないお子様のための家族サービスだったんですけど⋯⋯。少人数で真鍋社長や光君の私らで社員家族をもてなすつもりだったんですよ。でも大盤振る舞いにした途端、人数が増え過ぎちゃって」
チラリとある方向に目をやる。
「あぁ⋯⋯」
こういう時の女のセンサーは鋭い。
言葉にしなくても隠れた意味をくみ取ってくれる。
「普通、こっちでこれだけやってたら「手伝います」くらいのこと言ってくると思うんですけど、今の子はそういう気配りも出来ないんですかね? あっ、こんなこと言ったらオバサンの愚痴になっちゃいますね」
ちょっとした波紋を仕掛けてみた。
「そんなことないですよ、吉岡さんの言う通り!」
「だいたいあの子達って社員でも家族でもないんでしょ?」
「何で来てんの?」
思った通り波紋は一気に拡がった。
「ほら、社員の家族サービスってことだから、独身の子達は連れてくる相手がいないと結局会社にいるいつもの面子で固まってしまうでしょ? だから出逢いの場になれば、ってことで社長が気を遣ったんですよ」
「あぁ⋯⋯」
ここがミソだ。
好意からしたことなので文句が言いにくい。それも相手は夫の会社の社長だ。誰が文句を言えるだろう⋯⋯言えるはずがない。
それに独身社員の相手が見つかりにくいことは同類の夫を持つからこそ、誰よりも理解できてしまう主婦達。そうなると矛先は手伝いもせずに媚びへつらっている今日のターゲットへと自然に向かうこととなる。
「社員でも家族でもなく、まだ恋人でもないんなら、せめて手伝うくらいの気遣いをみせてもいいと思うんですけどね? あぁ、独身のOLだから主婦の苦労なんてわからないんでしょうね。まぁ、こればっかりは実際に結婚してみないとわかりませんもんね。だけど、これだけのイベントに無料で参加してるんだから、常識のある人ならもうちょっと、ねぇ⋯⋯」
主婦達が言いたくても言えなかったことをサラリと呟く。
「そうですよね! やっぱり結婚したことのある人はよくわかってますね。こっちは日々主婦業に苦労してるんですから」
「自分の好きなことだけにプライベートの時間が使える自由気ままな独身OLは気楽でいいですよね」
そろそろエンジンがかかってきたようだ。
「そう言えば、見ました?」
「えっ、何をですか?」
白々しく聞き返す私。
「山の中でバーベキューだって言うのに、あの合コンにでも来たかのような格好。こんなところにスカートやヒールの靴で来るなんて。いったい何考えてんのか、気が知れませんよ」
そういう奥さんはご主人とお揃いのTシャツにジャージとスニーカーだった。周りの主婦達は全員パンツスタイル。もちろん私もTシャツにジーパンだ。
「それにあの爪見ました? バーベキューだっていうのにデコったマニキュアなんかして、手伝う気なんか更々ないんですよ!」
そんなところへタイミング良く子供らの面倒を見ていたお母さんがやって来た。
「あ━━、疲れた。子供達大はしゃぎですよ。テンション高くて大変。喉が渇いたから何か飲み物が欲しいんですって」
「お疲れ様です。交代しますからこちらの日陰でちょっと休んでてください」
そう言うと、隣にいた奥さんが慌てて私の声を遮った。
「いやいや、私が代わりますから吉岡さんはここにいてください。吉岡さんこそ企画から当日の準備、全部やってくれてるじゃないですか」
そう言って代わりに川辺で遊んでいる子供達にお茶やジュースを持って走って行った。
「吉岡さんもバツイチになってからお子さんが大きくなるまで、シングルマザーとして頑張ってこられたと聞いてますよ」
「お子さんがの手が離れたところで吉川さんとお付き合いが始まったんですよね? 一通りの苦労が終わって第二の青春じゃないですか。吉岡さんこそゆっくり彼氏と過ごしてくださいよ」
女はグループになると強い。それが子供を産んだことのある主婦達なら尚更だ。
「でも今、あっちも対応に追われてそうなんで後でいいです」
チラっと光君の方へ視線をやる。
そこには真鍋社長と光君が本郷と取り巻き女達に囲まれている状態だった。
「吉岡さん、危ないですよ。あの子達、絶対吉川さん狙いじゃないですか。早く行って牽制しなきゃ!」
自分で仕組んだ筋書きだと分かっていても、これだけシッカリと勢力が二分されると思わず笑ってしまいそうになる。完全に敵認定しているようだ。
私は気持ちを押さえて吹き出しそうな顔の代わりに、苦笑いしながら答えた。
「大丈夫です。私は光君を信じてますから」
恋人モードから夫婦モードへ移行した主婦達にはトキメキが不足している。だから恋愛ドラマや韓流ドラマにハマる主婦が続出するのだ。そこを上手く攻めてみる。
「光君はバカじゃないから、見た目や若さに惑わされたりしませんよ、絶対に。みなさんのご主人だって同じですよ。だから結婚相手に選んだ人達はここにいるじゃないですか? あんな感じだから未だに独身なんですよ」
暗にこっちの主婦勢を勝ち組と持ち上げて、あちらの女達を選考にもれたグループとして貶めておく。
「皆さんはあの子達のこと女子力高めって思ってるかもしれませんけど、今時の女子力なんてオネェの方がよっぽど高いですよ。私なんかRyoに女子力ゼロだって言われてますもん」
「Ryoからなら私も言われてみたい!」
ちょっと話がそれたぞ⋯⋯。
「大事なのは女子力じゃなく主婦力ですよ。人生は結婚してからの方が長いんですから、家事もせずに自分磨きばっかりしている奥さんなんて困るでしょ?」
「そうよねぇ。やっぱりよくわかってる、吉岡さんは!」
よし、もう一押しだ。
「手が荒れるから炊事はしないとか、形が崩れるから母乳はあげないとか、睡眠不足はお肌に悪いからって、夜泣きしている子供の面倒を旦那に任せっきりとか⋯⋯単純に考えて結婚生活成り立つと思います?」
「絶対無理! その通りよね」
「「「確かに!」」」
分かりやすい例えでみんなの思考がまとまってきた。
「日頃自分のことは後回しにしても、家族のことを考えて頑張ってくれてる奥さん達を選んだ皆さんのご主人は、見る目があるってことですよ。もちろん私のパートナーもですけどね」
「えぇ~、そうかなぁ~」
「そんな風に言われると嬉しいですね」
よし、完全に主婦勢のハートはガッチリ掴んだぜ。
「なんかノロケみたいになっちゃいましたね。さて、そろそろ準備も出来たことですし声かけますか。子供達もはしゃいでお腹が減ってる頃だと思いますし、いい感じに食べ頃なんじゃないですか?」
さぁ、全面対決に入ろうか。
待たせたな女狐達よ。今から二度と私の光君にチョッカイ出せないように捻り潰してやるからな!
そう心の中で雄叫びをあげる私。
「じゃあ、私が呼んできますね」
「私は包丁とか片付けておきます。子供が触ると危ないんで」
それぞれが炊事回りの片付けを始めた主婦達に、
「すみません、お任せしていいですか? 私はバスの運転手さんにも声を掛けてきます。せめて一緒に食事くらいしてもらわないと悪いですから」
そう言って駐車場へと向かう。背後からは「運転手さんにまで気を遣ってあげるなんてスゴい」だの、「周りをよく見てる」だの賞賛の声が微かに聞こえていた。
「失礼しま~す」
「えっ、あっ、はい」
バスの中でうたた寝をしていた運転手が飛び起きた。
「そろそろバーベキュー始まるんで、良かったら一緒にどうぞ」
「えっ? いいんですか?」
「もちろん。ただしアルコール抜きですよ」
「あっ、はい。それはもちろん」
そう言って運転手のオジさんは嬉しそうに笑った。
そのオジさんに向かってもう一つお誘いをかける。
「その前に一緒に一服しませんか?」
「はい?」
「タバコ吸うでしょ? 今朝、集合場所で待ってる時に吸ってたじゃないですか?」
「あっちゃー、バレてました?」
「ふふっ、私も吸うもんで。バスの中は禁煙だし、バーベキューの準備しながらは吸えないし、我慢の限界だったんですよ」
「なるほど(笑)」
私はオジさんと一緒に灰皿の設置されている喫煙所へ向かい、一時の至福の時間を過ごした。




