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~面倒事⑤~

第9章ー6





 数日後、見慣れた部屋に私はいた。


 最近よくここに呼び出されるよなぁ~と、まるで他人事のように思いつつ、用件には想像がついてた。


「たびたび申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるのは中村女史。


「いえ、何となく今日呼び出されることは予想がついてましたから⋯⋯」

「でしたら話は早いですね」


 ならばと早速本題に入ろうとする敏腕秘書・中村女史。

 やっぱりこの人苦手だぁ~。感情を一切排除し徹底的に淡々と効率良く業務をこなしていく姿はアッパレというしかない。自分も長い間社会人として会社に属していたから分かるけど、有能とはこういう人の事を言うんだろうね。一緒に仕事してたら尊敬する上司No.1だわ。

 ただし、今の状況としては付け入る隙もなく(てのひら)で転がされてる感が否めない。


「先日、龍斗の方から相談を受けまして⋯⋯」


 やっぱりかぁ━━━━ッ!


「今度映画の撮影で瀬戸内海の小さな島に行くんですが、その際に一緒に連れて行きたい人がいると龍斗が言っておりまして⋯⋯。確か黒井さんとおっしゃるそうで、吉岡さんの親しいお方だと聞いておりますが」

「はい⋯⋯そんなことだろうと思ってました」


 あんにゃろう、よりによって出張かよ? 関東近郊でのロケならまだしも瀬戸内海の島って簡単に帰れんやん。

 まぁ、私は実家が近いからえぇけどさ⋯⋯。


「一旦あちらへ向かえば最低でも一週間は戻って来れません。撮影の合間に何日か別の仕事も入っていますが、たぶんトンボ返りになるでしょう。なんだかんだで一月ほど滞在してもらうようになると思います。それでも大丈夫でしょうか?」


 そりゃ気になるわな。

 仕事してるえぇ大人が、急に一月も島に拘束されるなんて普通は有り得んやろうし、承諾せんやろうからな。


「一応本人に確認を取りますがたぶん大丈夫だと思います」

「ッ! そうですか、それは助かります!」


 珍しく嬉しいって感情が読み取れたぞ、どうした女帝(中村さん)よ?


「龍斗は今ドラマの撮影中なんですが、それと平行して今回の映画撮影に入るんです。ドラマの方は終盤に差し掛かってるんですが、どうしても映画のクランクインと重なるんですよ」

「はぁ、なるほど。大変ですね」


 まぁ、やるのは龍斗だから大変なんも龍斗なんやけどね。


「そんな中で離島でのロケですから、龍斗のストレスが心配だったんですよ。でも吉岡さんの了解が取れたことでかなり安心しました」

「私じゃなくて目当ては黒井の方なんですけどね⋯⋯」

「ちなみに映画は来年夏の公開となってますので、情報解禁になるまで極秘扱いです。なので誓約書を交わしてもらうようになりますのでご了承下さい」

「あっ、はい」


 マジかぁ、来年の映画だったんや。


「映画ってそんなに早くから撮影するんですね」


 ド素人の素朴な疑問をぶつけてみた。


「まぁ、そうですね。ドラマは遅くても二、三ヶ月前から、映画は一年前なんてザラですよ。撮影した後の編集や試写など色々こなしてからの公開となりますから。ですから公開するまで龍斗には問題行動を起こさないよう注意してもらいたいんです」


 中村女史が真剣な顔で私を見据える。


「今は良くても来年夏までにスキャンダルなどあれば、映画の公開延期、最悪お蔵入りです。そうなると賠償金が発生します。何より龍斗を始め、事務所の信用問題になりますので⋯⋯」

「うわ、あ、はい」


 こっわぁ━━━っ。目が据わってまんがな、中村さんよ。


「一旦島に入れば東京(こちら)と違って何かと不便があると思います。監督の意向でかなり自然溢れる島だとのことですので⋯⋯」

「ようするにド田舎の離島ってことですよね? 私が四国出身だから遠慮されてるのかもしれませんが、気にしないで下さい」


 遠回しな言い方されても事実は事実。秘境とまで言わないにしても離島となるとかなりの不便が予想できるな。


「そう言って頂けると助かります。島民も100人以下の小さな島だそうです。定期船もあるようですが、一時間に一本あるかないかぐらいの⋯⋯」

「そんなの田舎では当たり前ですよ?」

「そうなんですか?」


 根っからの都会っ子には分からんやろうな。田舎ナメんなよ。


「私の住んでた家の地域ですら通勤時間以外の電車は一時間に一本くらいのもんでしたよ? 都会(こっち)みたいに二、三分おきに電車が来たりしませんから、乗り過ごしたら大変なんですよ。だから田舎では車が必需品になるんです。一家の一人につき車一台もザラですからね」

「そうなんですか? それは大変ですね⋯⋯」


 そう! そうなんよぉ~。車を買うだけならまだしも所有台数分の維持費が大変なんよねぇ。任意保険に税金や車検と日々のガソリン代。家の車庫だって台数分の広さが必要になるし。


「ともかく龍斗には私の方からご了承頂けたことを伝えておきますので、吉岡さんは黒井さんにご連絡しておいて頂けますか?」

「あ、はい。分かりました」

「いずれ改めて席を設けさせて頂きます。出発前に一度打ち合わせを兼ねた食事会と契約同意書にサインを戴かなければなりませんので⋯⋯」

「大変ですね、秘書って」

「仕事ですから」


 当然とばかりの態度で食事会の日程をテキパキと決定していく姿にプロの秘書を見た気がした。社長と龍斗の予定は勿論把握しているのだろうが、私とゴーシュのスケジュールも確認して日にちが決まるや否や店に予約を入れ時間も決定した。

 ここまで10分足らず。見事としか言いようのない隙のなさ。

食事会をすることが話にのぼってからたった10分足らずで日時、場所、時間、参加者の全てを決定しスケジュールを押さえるスキルは半端ない。私には無理だ。


「では、食事会楽しみにしております」

「あ、はい。それでは失礼します」


 私は部屋を出て「はぁ」とため息を一つついた。

 ちょっと色々有り過ぎじゃね? JOJOに迷惑女に離島? やっと落ち着いてきたと思ったらバタバタやん。てんやわんやとはこのことか?


 とにかく一つずつ片付けていくしかないよね。まずは今月末の夏フェスを無事やり遂げる。これをやり過ごせばしばらくJOJOとハチ会わせる仕事はなかったはずだし、五十嵐さんもハネムーンから戻って来るからお役御免だ。

 そして島に行くまでに女の方も片をつける。

 私が留守にしてる間、変な女が(こう)君の周りをウロチョロしてるって考えただけでもムカつくし! だいたい私が会えんというのに他の女が会えるというシチュエーションも気に食わない。単なるヤキモチだけど素直な気持ちだ。

 最後に島での撮影だ。さっきハッキリと言われなかったけど、たぶん私も参加するんだろうな。いくら龍斗の希望だとしても見ず知らずの人間(ゴーシュ)だけをつけるなんて考えられないし、聞いた感じだと身の回りの生活の世話をやく人間が絶対必要だもんな。

 あぁぁ━━━っ、これから二ヶ月くらいめっちゃ忙しいやん。落ち着いた頃には冬が来とんちゃうか? まぁ、瀬戸内海の島ってことだし一回家にも帰ってみよう。子供らの顔も見たいしな。


 そんなことを考えながら、とりあえずゴーシュへと連絡する。

勿論さっき決まった食事会の報告がメインだが、龍斗がどうしてもゴーシュを連れて行きたがる理由を知りたかった。食事会の前に一度三人で話を合わせておかなきゃ、何かと面倒なことになりそうだし。


「はぁ~」


 私はもう一度、さっきより大きなため息をついた。





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