~面倒事④~
第9章ー5
「遅れたぁ~」
店に来るなり私の隣のカウンターに崩れるようにして座った龍斗。早く来たかったんだろうな、大好きなゴーシュに会いたくて(笑)。
「何にする?」
「じゃ、とりあえずビールで」
飲み物を聞かれただけなのに、すでにご機嫌な様子の龍斗。お前チョロいな⋯⋯。
そんな龍斗が今日の集まりの理由を尋ねてきたので簡単にかいつまんで説明すると、拗ねたように私に絡んできた。
「ズリぃよぉ~。そんなことに兄貴が出張る必要ねぇし。あんな雑魚キャラほっとけばいいんだよ。Ryoだってそんなに気にしてないんだろ?」
おっ? ヤキモチか? しゃあないなぁ~。
「事務所が気にしとんやって。今はえぇけど今後このまま事態が悪化してRyoがブチ切れるようなことになったらヤバいやろ? だから先手を打って事を収めようとしょーるんやんか」
子供をあやすように事情を説明する私に龍斗が噛みついてきた。
「だったら俺も頼みたいことがあんだけど。こっちも手伝ってくれる?」
「はぁ?!」
何でも屋じゃないんやで私は⋯⋯、と思ったけど、実際ゴーシュは何でも屋らしきことをしてたわ。そんなことを考えていた私より先にゴーシュ本人が龍斗に向かって返事をした。
「お前が本気で頼むなら断らないぞ」
「ッ!! マジで?」
おぉ~、一瞬で機嫌が直ったぞ。さすがゴーシュ。龍斗には抜群の効果があるな。
「ただし、きちんと許可を取れ」
「えっ?」
ゴーシュの言葉が理解できていない様子の龍斗。
「一緒に飯を食うみたいな個人的なことならいつでもいいぞ、遠慮するな。そんなことは頼まれなくても行ってやる。お前は俺の弟分だからな、断ったりしない」
「兄貴ぃ~」
感動に浸っている龍斗。
「だが仕事に関わることならきちんと上の許可を取れ。今回はRyoの仕事を邪魔する奴らを排除するというリコの依頼を受けて俺は関わるんだ。組織に属している限り命令系統を無視した勝手な行動はアウトだ。後々混乱を招く要因になりかねない。どうする? 仕事として依頼されれば俺は完璧にこなす自信があるぞ?」
そう言ってニヤリと笑ったゴーシュは、あの頃を彷彿とさせるのに十分だった。龍斗はもちろん私ですら見惚れていた。私が憧れ続けた勇者ゴーシュの絶対的な強さと自信の表れ。それを今また見ることが出来る幸運。龍斗には決して分からないだろう。この気持ちは他の誰にも分かるはずがない。異世界で絶対的強者であった勇者ゴーシュを知る私だけの特権のようなものだから⋯⋯。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日、家に帰った私は久しぶりに光君の顔をゆっくり見ることができた。最近は超忙しいようで会社にそのまま泊まることも多かったのだが、今夜は日付が変わるギリギリに帰ってこれたようだ。
夜食が必要か尋ねると簡単なものなら入るとのことなので、光君が風呂に入っている間にうどんを茹でている私。
私と一緒に帰ってきた龍斗はいい具合に酔っ払っていて、風呂から出ると即寝落ちして今は夢の中だ。今日はいい夢見てるんだろうなぁ~。
ちなみにRyoはとっくの昔に帰宅して熟睡していた。一応付き人という形はとっているが、一緒にいて出来ることなどたかが知れている。なんせ音楽に関することで手伝えることなどないのだから、Ryoがスタジオに籠ればお役御免となる。私が役に立つのは移動時や食事の管理、テレビ局での雑用ぐらいだ。元々マネージャーは別にいるんだから、林君に任せておけば問題ないはずだし。何より私に任されたことは例の件なんだから。
そうこうしていると、ちょうどうどんが出来た頃合いに光君も風呂からあがってきたようだ。
「遅くにゴメンね、典ちゃん」
バスタオルで髪をワシャワシャしながら椅子に座る光君は、かなり疲れが溜まっていたんだろう。目の下のクマがひどい。風呂へ入る前にあった無精髭はすっかり綺麗に無くなっていたが、私としては髭の光君も有りだったけどね。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
ズルズルと音をさせながら光君はうどんをすすっている。その姿を眺めながら私はふいに話しかけた。
「なぁ光君。仕事大変やと思うけど無理せんようにしなよ。ちゃんと睡眠取れてる? 会社に泊まるのは仕方ないけど体壊したら何の意味もないんやで?」
心配する私にいつもの笑顔で答える光君。
「分かってるって。心配かけてゴメンな。でも大丈夫だから」
申し訳なさそうに答える光君の表情がどこか曇って見えるのは気のせいではない。私は久しぶりに亜眼を使って改めて光君を見た。多少の疲労は残っているだろうが、体調におかしなところはなかった。病気というわけではなさそうだ。だが、オーラが弱いというかモヤモヤしているというか、要するに健全ではなかった。
「なぁ⋯⋯何か悩み事でもあるんちゃう?」
「!!」
あぁ、何かあるんやね? いつもならこんな簡単な誘導尋問に引っ掛からんやろ? 誤魔化しきれてないよ光君。
「ほれ、さっさと白状しなよ」
「いや、典ちゃんに言うことじゃないから⋯⋯」
バレたにも関わらず頑固やな光君。だけど、知ったからには白状するまで逃がさんでぇ~。
「あのさぁ~今、Ryoのことで事務所から頼まれ事があるっていうのは言ったよね? ただでさえそっちで気使ってんのに、光君がそんなんやったら気が散って集中できんのやけど?」
そう言い放った私は真っ直ぐに光君の目を見る。さぁ、どうしようか困ってる? 迷ってる? 悩んでる?
「目が泳いでるし。諦めて白状しなよ?」
「はぁ~。典ちゃんには敵わないな⋯⋯」
ため息をつきながら観念した様子の光君がやっと口を開いた。
「実は最近、俺の周りが騒がしくなってて⋯⋯」
「騒がしく⋯⋯とは?」
「あ━━、香の件が大々的に広まったもんだから俺が涼也の叔父ってことが周りにバレたんだよね。まぁ元々隠してたわけじゃないけど、わざわざ言うことでもないし。知らない人の方が多かったんだよ」
「まぁ、あんだけの騒ぎになったからしゃあないわな、で?」
と、話の先を促す私。
「うちの会社は元々男が多いし、数少ない女性社員も俺が典ちゃんのこと好きだって知ってるから問題なかったんだけど、同じビルに入ってる別の会社の子達の態度がちょっと⋯⋯」
「ふ~ん、なるほど。何となく読めてきたわ」
「俺は仕事忙しいし、全く相手にしてないから!」
「うん、分かっとる。光君を疑ったりしてないから」
あからさまにホッとする光君。
「で、詳細を述べよ!」
「えっ?」
「迷惑しとんやろ? 仕事での疲れは体力的なものが大きいやろうけど、そっちは精神的に光君を追い詰めてそうやん?」
「えっ、いや、まぁ、確かにそうだね⋯⋯」
明らかに言いづらそうな感じの光君。
「あのさぁ~、私ってあれこれ手を広げて仕事がワチャワチャになるん嫌いなんよね。一個ずつ片付けて行きたい派なんよ。あっちこっちに目をやると集中できんやん? Ryoのこともあるし手近なところからさっさと片付けたいんやけど?」
「あぁ、そうだね⋯⋯」
「それにあんだけ大々的に知れ渡ったというのに、私の光君にチョッカイ出してくるなんて勇気あるやん? ケンカ売ってんならしっかり買うし、キッチリ分からせてやるけど?」
「いや、典ちゃん、そんな物騒なこと⋯⋯」
うどんを食べ終わりキッチンへ器を運ぼうと立ち上がった光君が慌てて椅子に座り直す。そんな光君から器を奪い取り、代わりに流しへ持っていきそのまま洗い物を始める私。
「あんな、別に光君がモテるんはえぇんやで。カッコいいのは分かってるし、さすが私の惚れた男って思うから。だけど仕事に支障をきたすくらいその子らが光君の邪魔してんのなら話は別やで?」
「いや、支障をきたすまでじゃないから⋯⋯」
「でも実際問題そのことが原因で精神的に追い詰められとんやろ?」
「⋯⋯迷惑してるのは確かだけど⋯⋯」
はい、言質取れました。
「なら、邪魔者は排除せんとダメやろ?」
「邪魔者って言い方、何か怖いんだけど⋯⋯」
「で、どんな風に光君の周りをうろついてんの?」
ここからは負けを認めた光君が洗いざらい白状してくれて、私の取る行動は次々と決まっていった。赤の他人、それも一般人のチャチャなんて香に比べたら楽なもんだ。聞いたところどれも個人的にすり寄ってきてるだけのようだし。さぁ、どういう段取りで片付けていこうかなぁ~。
そんなことを考えながらその夜は久しぶりに光君と一緒に爆睡していった私だった。




