第七話 銀髪金眼の少女
メイドに案内されて入った僕の部屋は、一国の宮殿ということもあってかそれなりに整えてあった。
僕は辺りを見回し監視カメラのようなものがないか探した。幸いにも、そのような細工はされていなかった。
監視がないことを念入りに調べた後、さっきの召還時のことについて考えていた。あの女王の言葉、あれが本当である確証はどこにもない。なら、みんなのあの時の表情は何だったんだ?精神干渉系のスキルを使ったと言っていたな。あれは誰がいったんだ?・・・・・・僕のスキル、なのか?わからないことが多いのは当たり前だ。それをどう整理するか、僕は思考の海に沈んでいった。
思考の海に浸っているとき、不意に足音が近づいてきているのを感じ取った。
「・・・・・・3人か?」
足音が部屋の前で停止した。少し腰を落として身構える。警戒しないよりましだろうと、僕は扉の外を注視した。
「・・・・・・璃乃?いる?」
「雫?」
「・・・・・・相談、というか情報の整理をしたくて」
「他に誰かいるのか?」
「・・・・・・うん、健君と花蓮ちゃんがいるよ」
僕は慎重に扉を開けた。すると、少しの隙間から特徴的な水色の髪が見えた。
「入って」
僕はそれだけいうと、3人を招き入れた。
3人が床に座った後、情報の整理といって押し掛けてきたことについて少しため息混じりに問い掛ける。
「はぁ・・・・・・危ないじゃないか。こんな時間に押し掛けてくるなんて、王宮の誰かに見つかったらまだどうなるかわからないんだぞ?」
「・・・・・・ごめんなさい、でも、怖くて・・・・・・」
「・・・・・・っ」
途切れ途切れの幼なじみの言葉に声がでなくなった。声のでない代わりに、彼女の頭をポンポンと撫でる。そしたら落ち着いたのか、僕に笑顔を向けてくれた。花蓮は物欲しそうにこちらをみて、健は苦笑いを浮かべていた。
「・・・・・・もうつき合えよお前ら」
「んっ?何かいった?」
「何でもねぇよ、ったく、・・・・・・鈍感系を地でいく憎い奴め」
最後の言葉は聞こえなかったが、何か悪口をいわれたような気がする。何故か雫の顔が赤く染まっていた。健がまだぶつぶつ言っている。断片的にしか聞こえないが。可愛いなど背丈がどうのとかいっている。何を言っているのだろうか?
気を取り直すように僕が咳き込み注目させる。
「こほんっ・・・・・・えっと、何か聞きたいことがあるんだっけ?」
「・・・・・・そう、あの時何で私達を止めたの?」
雫が顔を近づけて聞いてくる。彼女から漂う香りが鼻孔をくすぐる。耐えられなくなった僕は彼女から視線を逸らして応える。
「・・・・・・ステータス表示をするときに皆の身体から白い靄が出てきてるって言ったでしょ?あれが、天井に設置されていた水晶みたいな玉に吸い込まれていくのが見えたんだよ。・・・・・・僕の見解だけど、あれはたぶん僕たちの情報を集めていたんじゃないかな。ステータスになにがかかれているかなんてわからないけど、ゲームやその手の小説だと自分の職業やスキルなんかの重要なものが表示されてるんじゃないかな。こんな状況で自分の情報をさらけ出すなんて自殺行為だからね」
僕は自分の推測を語った。皆は真剣に頷いてくれている。思案顔だった花蓮が疑問を吹きかけてきた。
「・・・・・・じゃぁ、今はどうなのかな?」
皆の顔が僕に集まる。僕は唇に指を当てて考えこんだ。
あの状況でステータスの表示をしていなかったのはおそらく、ここにいる僕を含めて4人だけなんじゃないかな。それに、恐らく女王とその隣にいた女騎士の人はそのことにきずいているだろう。それと、僕が精神干渉系のスキルに抵抗したことも。そんな人たちが、抵抗した貴重な戦力を野放しにしておくだろうか。恐らく何らかの手を尽くして取り込もうとしてくるだろう。出会ってすぐにクラス全体を操ろうとしていた人だ。このままで終わるだろうか。
まぁ、ここは来客用の部屋らしいからあの水晶のようなものはないだろうが・・・・・・
「いや、やめておこう。どこで誰が見ているかわからないからね。用心にこしたことはないよ。念のためステータスはまだみないでおこう」
話を聞いて3人がうなづく。しかしそこで長身の男が首を傾げた。
「でもそれじゃぁよ、自分の力がどれだけかわからねぇじゃねぇか。危なくねぇか?」
健のいうことももっともである。自分の力量がわからなければ相手との戦力差がはかれない。明日にでも、調子にのった奴が絡んでこないとも限らない。
僕は指を立ててみんなの注意を引き寄せる。
「それじゃあ、今夜外にでよう」
夕暮れの空の光が4人を照らしだした。
◇◆◇◆◇
雫達が自分達の部屋に帰って行った後、璃乃の部屋には夕陽の光が部屋を照らしていた。その中で1人、口元に笑みを浮かべていた。それは、みるものがみれば一つの絵画にもなりそうな美しさがあった。その美少女と思うほど美しい容姿を持った少年は椅子に腰掛けており、日の光を浴びていた。
「やっと、面白そうなことに出会えた」
彼はさらに笑みを深めると、目をつむる。その様は親しいものが見れば別人のように見えただろう。無邪気な子供のように、また、計画的に、艶美な笑みを浮かべる少年に。
璃乃は、ふと自分の腕に目を落とした。そこには黒色で深い蒼色の線のはいった腕輪が装着されていた。
「どうやって刀に戻すんだろう・・・・・・」
そう思った瞬間、腕輪が淡白く輝いた。腕輪はだんだんとその形状を変えていくと、一つの曲がった棒のような形になった。輝きが止むと、そこには一刀の刀が璃乃の腕に収まっていた。柄から鞘まで全てが黒く、鞘には藍色の線がなびく風のようにはいっていた。
璃乃は苦笑い気味に言った。
「想像一つで形状変化ですか・・・・・・」
璃乃は、漆黒の刀を手に目をつむる。部屋の外に誰もいないことを確認し、部屋を出た。
すでに疲れているのか、廊下に出ているクラスメートはいない。今頃は皆部屋でぐったり寝ているだろう。沈みかけの太陽が廊下を淡く照らす。
足音を完璧に消し、気配を殺す。そのまま悠然と廊下を迷いなく歩いた。
かなりの距離を歩いただろうか、辺りは日の光も届かない真っ暗な一本道の廊下。目の前には壁があった。
壁の中央を叩くと、ギギギギギッっという物のこすれる音が聞こえた。璃乃は、迷わず開いた下の階段の入り口へ入っていった。
進んでいくと、周りは真っ暗で何も見えなかった。常人が通れば、暗く怖く1人では気をおかしくしてしまうだろうと思われるほど長い階段を、少年は淡々と降りていく。やがて、何十分と降りた後、ようやく足場が見つかった。
地に足を着けた瞬間、
チリィンッ・・・・・・
鈴の音が響いたように聞こえた。それは幻聴か、音のする方へ足を向けた。
チリィンッ・・・・・・
チリィンッ・・・・・・
鈴の音は近づくにつれ、だんだんと大きくなっていった。
チリィンッ・・・・・・
さっきより一際大きく鈴の音が響いた。目の前には無骨な鉄格子があった。
鉄格子の中から、引っ張って擦れるような鎖の音が聞こえた。
中には、鎖で手を封じられた銀髪金眼の少女がいた。少女のその美貌は、痩せこけた肌で台無しになっている。だが、痩せていなければ美少女であっただろう。
彼女は顔を上げ、僕の顔をみて口を開いた。
「君は・・・・・・誰・・・・・・?」




