第六話 白い靄
「魔王を滅ぼしてほしいのです」
その言葉を聞き、此処が地球ではないことが皆に伝わった。続いていた喧騒が嘘のように静まり返る。
暫くして我に返った学級委員長の東が女王と名乗るライラに、多分今皆が思っているであろうことを質問した。
「質問をしてもいいでしょうか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。では……、何故僕達を呼んだのでしょうか?魔王を倒すためというのはわかりましたが、僕達はついさっきまで学生だったのです。戦闘とは無縁の世界で育ったのです。いきなり呼ばれて魔王を倒せと言われましても生き残る自信がありません」
ライラは、少し微笑み応えた。
「それは、あなた様方が私の世界より上位の世界に住んでいるからです。あなた様方は戦闘経験は皆無でも、戦闘をするための力を持っているはずです。あなた様方はこの世界に来る前に女神アリア様から祝福を受けているはずです。それは、魔物を倒す上でとても有効になるでしょう」
「なるほど、わかりました。その祝福は、どうしたら見えますか?」
ライラは、一瞬だけニヤリと唇が裂けたように笑った気がした。
「ステータスといってみてください」
クラスメートの皆が口々にステータスと言っている中、僕は口を開きかけていた雫、健、花蓮に小さく待ったをかけた。
「待って……」
「……どうしたの?」
「何だよ璃乃?」
「何かあったの?」
「いや、ちょっと気になることがあってね」
皆のステータスは見えないが、はしゃいでいるところをみるにステータスは見えているそうだ。
ステータスと言って数秒後、皆の身体から白い靄が出てきた。
「……何だ?あれは……」
「何ってなんだよ?」
「……何か見えるの?」
「璃乃ちゃんには何か見えてるの?」
「僕にはって……花蓮達には何も見えないのか?」
どうやら、白い靄は僕にしか見えていないらしい。その靄は皆の身体から天井の一点に向けて吸い込まれるように抜けていっていた。
白い靄を抜き取られた人達をみると、皆が“虚ろな目”をしていた。
「ふふっ」
「!?」
小さく笑った女王に気づいたのは僕だけだったかもしれない。その目は獲物を見つけた。否、網に掛かった獲物を捕まえたというような怖気を感じるような、そんな目をしていた。このとき、フローラがいった言葉の意味を理解した気がした。
「詳しい説明はまた後日……。今日はこれくらいにしましょう。部屋はメイド達に案内させます。では……」
振り返って、後ろの扉にむけて歩いていった女王ライラを守るように5人はついて歩いた。振り返る途中、ライラが僕の方を見て笑った気がした。
「……どうしたの?璃乃」
「……あいつには注意しといたほうがいいな」
「あいつって女王さんの事か?」
「何かあったの?」
僕は、皆に情報を共有するため召喚時どこにいて何をしていたのかを話そうとした。のだが……。
「くっ!!」
「……璃乃ッ!?」
「おいっ!璃乃ッ!?」
「璃乃ちゃんッ!?」
酷い頭痛がいきなり襲ってくる。意識を保っているのでやっと、立つこともできなかった。その数秒の痛みが、数分にも思える。
頭痛が収まった後、心配そうに僕を見つめる三人の顔を見て苦笑いを浮かべた。
(情報提供厳禁って訳か……)
「……大丈夫?璃乃?」
「大丈夫だよ、心配しないで」
「しっかりしてくれよ?頼りにしてんだからさっ?」
「あぁ……」
フローラの情報を避け、注意しておくべきことを三人に話した。
「女王の隣にいた銀髪鎧の女の人か?」
「うん、あの人は強いよ。祝福をもらってステータスも上がっているはずの君達三人だけで戦ったら負けると思う」
「そんなに強いの?」
「うん……」
「……璃乃が入ったら?」
「……」
◇◆◇◆◇
女王の寝室にて
そこには、ネグリジェ姿のライラがベッドに腰掛け、鎧の女騎士がその前に立っていた。女騎士が、ピクリとも動かない人形のような表情で話し始めた。
「本日の異世界召喚、お見事でした。目当てである勇者の素質のあるものが引けました」
「そうね。名前、何だったかしら?」
「その者の名は東光希です」
「そう」
女騎士は淡々と報告をしていく中、気になることを話し出した。
「……それから、お嬢様の魅了に掛からなかった者が一人います」
「へぇ、抵抗した子がいるの?」
「はい、恐らくはそうかと。その者はステータス表示時にステータスを表示しませんでした。ので、名前、ステータス、職業、スキル等がわかりませんでした。それと同様に、周りにいた三名程もその者に止められ、集める事ができませんでした」
「……ふぅん、仕掛けに気づいちゃったのかしら?こんなのは初めてだわ。絶対にほしいわね。あっ、そう言えばいたいた、あの中で一番可愛いくて、私の笑顔に効いてなさそうにしてたあの黒髪の少女」
「はい、その者です」
ライラは、艶美な笑みを浮かべた。
「あれは危険です」
「……貴女はあの黒髪の子に勝てる?」
「………難しいでしょう」
王国最強の騎士にその言葉を言われ、ライラは少し驚いた後……。
「それはますます欲しくなりますね?【英雄】の名をもつ貴女を、Lv1のひよっこが勝てるかもしれないと?」
「あの者は強いです。あの気迫、隙のない出で立ち、何時でも動ける体制。どんな経験をすれば、自然にあんな事が出来るのでしょうか?私でもそれなりにかかったのですが……」
「こほんっ」
「……申し訳ございません」
「いいえ、いいわ。それより、あの子はどうすれば堕ちるでしょうか」
ライラは指先を顎に当てて考える。すると、少女の隣にいた水色の髪の少女を思い出した。
「そうだわ、あの水色の子。とても黒髪の子と仲良さげに話してたじゃない?あの子をとるとどんな表情をするのでしょう?あぁ、あぁ、これですわぁ、壊して、壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して、あの子はどんな表情をするんでしょう!!見たい!観たい!診たい!視たい!看たい!あぁ、そして、愛でたい!壊れたその子を思いっきり愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、壊して、愛でて、私の物にしたい!……………………さしあたっては、それをするには準備が必要ですね」
「お任せください」
女騎士は跪くと、右の手のひらを胸に当てて深く頭を下げた。
「ふふっ、よろしくお願いしますね?」
「はい」
女王の瞳が艶美に輝いた。
基本不定期更新なので、ご了承ください。お願いします。




