第五話 混乱と観察
少し短いです。
白い光に包まれたあと、それ程時間がかかっていないうちに目の前が明るくなった。
目を開けると、目の前には大きな扉があった。周りは何もないただの廊下で、大きな扉は僕の目の前しかない。
「大きいなぁ……」
その扉は成人男性3人分くらいの大きさで、扉には細かな装飾がなされている。
豪華な扉を眺めていると、手に持っている感触と記憶の中からある疑問を口にする。
「あっ……そう言えばこの刀どうするんだろう」
僕は手に持っている刀に目を落とす。
「いきなり武器持ってるとか普通じゃないよ……」
何かバレない方法はないかどうか探していると、急に刀が輝きだした。
「…!?」
光は徐々に小さくなっていき、僕の右手首を巻くように縮小されていく。
輝きは収まっていき、僕の手には刀がなく手首には、刀と同じような黒い腕輪に藍色のような線が入っている。
「ハハッ、流石はファンタジー……これならばれないや」
僕は現状に乾いた笑みを浮かべる。制服の袖の中に腕輪を隠し、目の前の扉を開けた。
扉を開ければ、そこには数十名の僕と同じ制服を着た生徒が、真ん中に集まって騒いでいた。
その部屋は大きな広間になっていて、扉とは反対側の奥には玉座のような豪華に飾られている椅子が置いてあった。
部屋の周りも豪華に飾られており、まさに、玉座の間とでも言うべき空間だった。
そんな風に部屋の中を観察していると、横から泣き声を出しながら走ってくる影が見えた。
「ふぇ~~んっ!!璃乃ちゃん!」
「ぐはッ!?」
そう言って抱きついてきたのは、僕のクラスの副委員長であり、中学からの付き合いである花蓮だ。
「心配したんだよ?大丈夫だった?怪我は無い?光に包まれてからここにくるまで璃乃ちゃん見かけなかったから心配で……」
「大丈夫だよ……それよりも、雫と健は?一緒じゃないの?」
「タケとしずちゃんなら後ろにいるよ」
そう言って花蓮は自分の後ろを指差す。すると、そこから汗をかきながら走ってくる二人の男女が見えてきた。もちろん、健と雫である。
「はぁ……はぁっ、お前、どれだけ、速いんだよ」
「……んっ、ちょっと、疲れた……」
「遅いよっ!君たち!!」
「誰のせいだと、思って、るんだっ!」
息を切らせて話す二人が健と雫だ。いったいどれほど遠くから僕を見つけてきたんだ。ちょっと怖い。
二人が息を整えた頃、玉座の後ろにある扉がギギギィと音をたてながら開いた。そこからは一人の豪華に着飾ったドレスを着る女性とその後ろには、銀色の髪と銀色の瞳をもつ全身鎧の女性が控えていた、腰に剣を帯剣させて。その周りには5人のローブをきてフードを深くかぶった人がたっていた。こちらは自分の背丈程はある杖を持っていた。
ドレス姿の女性は僕たちを見渡して、委員長である東をみて少し止まった。そして、見たもの全てを虜にしてしまいそうな笑みを浮かべる。瞬間……。
《精神への干渉が確認されました。……抵抗に成功しました》
無機質な声が頭に響いてきた。えっ、今何が起きたんだ?精神への干渉?……そうかあのお姫様、いや、女王みたいな人が何らかのスキルや魔法を使ったのか。でもなんで僕には何にもないんだ?
《スキル【女神の加護】には、状態異常無効があります》
……なるほど、あの時にもらったスキルか。そんな能力があったんだな。しかし、すごく冷静だな僕。……それよりも他の皆は、
「……!?」
見た目はなにも変わっていない。だが、生気が抜けたような“虚ろな目”をしている者が複数人いた。その中に健達もいた。訂正しよう、“虚ろな目”をしているのは、……僕以外全員だった。
女王は周りを見渡し、呟いた。
「これで……やっと……」
その声は小さい筈なのに、やけに響く声だった。女王が指を鳴らすと、皆がハッと意識を取り戻した。
すると皆が顔を見合わせて話し出す。ざわざわとした声の中、部屋いっぱいに響く声が届いた。
「私は、ライネス女王国王女、ライラ・フォン・ライネスと言います。あなた様方はこの王国を救うため、勇者として召還されました。あなた様方はこの国の勇者として魔王を滅ぼしてほしいのです」
唐突に始まったそれは、皆の心を不安にさせた。怯える者、怒る者、泣く者、喜ぶ者など様々だった。
だが僕は、女神の言葉を思い出していた。
『王族を、王国を滅ぼしてください』
僕は、意外なほど冷静で、淡々と王女や周りを観察し続けていた。