48時間の密室愛寵と、永遠に解けないしあわせの飼育(真・最終話)
◇
金曜日の夜。都心を見下ろす最高級ホテルの最上階、離れのような静寂に包まれた極上のスイートルーム。
重厚なオーク材のドアがカチャリと静かな音を立てて施錠された瞬間――この部屋は、下界の喧騒から完全に切り離された『二人だけの絶対愛寵空間』へと変貌を遂げた。
「……ふぅ。これで誰一人として、私たちの邪魔をすることはできませんね……樹くん♡」
大きなキングサイズベッドの中央で、私は涼香の腕の中にすっぽりと包み込まれていた。
金曜の夜から日曜の夜までの丸々48時間、二人きりでこの部屋に引きこもり、私は指一本動かすことなく涼香の『過保護なお世話』だけを受けて過ごす――あの「ダメ人間化推進計画」が、今まさに実行に移されていたのだ。
今日の涼香は、私が選んだ柔らかなシルクのルームウェアを身に纏い、綺麗に整えられた琥珀色の髪からは、二人が愛用する柑橘系のアロマが甘く漂っている。
彼女の華奢な左手の薬指と、私の右手の薬指には、お揃いの結婚指輪がホテルの間接照明を受けて美しく共鳴するように輝いていた。
「涼香……本当にホテルから一歩も出ないつもりなの?」
「当たり前です。ルームサービスのお食事も、お飲み物の準備も、すべて私がこの手で執り行います。樹くんはただ、私の膝の上で寛ぎ、私の愛を全身で受け止めることだけが『お仕事』なのですから♡」
語気に一切の迷いはない。
結婚して社会人となり、夏目グループの関連法人の経営やリモートワークを完璧にこなす優秀なキャリアウーマンへと成長した涼香だったが、私に対する『過剰な愛情と支配欲』だけは、薄まるどころか年々濃度を増すばかりだった。
「ほら……まずは、一週間のお仕事を頑張った樹くんへ、私からの『お疲れ様のお世話』です。お口を開けてくださいね。あーん……♡」
涼香は事前にオーダーしていた特注のフレッシュ苺と最高級生クリームをフォークで掬い、私の口元へと優しく運んできた。
「……あ、あーん」
パクリと口に含むと、甘酸っぱい苺の果汁と濃厚なクリームの甘みが口いっぱいに広がる。
「美味しい……! すごく甘くて美味しいよ、涼香」
「ふふ♡ 良い子ですね、樹くん。一口食べるごとに、あなたのお身体も、心も、私の愛で満たされていく……あぁ、なんて幸せな時間なのでしょう……っ!」
一口食べるたびに頭を撫でられ、頬をすり寄せられ、優しく口元を拭われる。
かつて大学時代、彼女に身の回りの世話を任せきりにしていたあの頃と同じ……いいえ、夫婦となった今、その愛寵はより深く、重厚で、心地よい諦念とともに私の全身を侵食していった。
◇
土曜日の昼下がり。
大きな一面のガラス窓から柔らかい日差しが差し込む中、私はスイートルームのバスルームで、湯気が立ち込める大きなジャグジー付き浴槽に浸かっていた。
もちろん、一人ではない。
「さあ、樹くん。お背中を流しますから、じっとしていてくださいね」
泡立てたフワフワのスポンジで、涼香は私の背中や腕、首筋に至るまで、まるで貴重なガラス細工でも扱うかのように優しく、丁寧に洗ってくれた。
「涼香、お風呂くらいは自分で洗えるよって……言っても無駄だよね」
「当たり前です。樹くんのお肌の温度も、体調も、どこに力を入れれば気持ちいいかも……すべて私の手で把握していなければ、妻として失格ですから♡」
身を清め、二人で温かい湯船の中へと肩まで浸かる。
湯船の中でも、涼香は私の背後に回り込み、細い腕を私の胴体に回してぴったりと背中を寄せてきた。
「……あぁ、樹くん……すごく温かいです」
「涼香の体温も……すごく気持ちいいよ」
「ふふ、当たり前です。私の体温も、私の手も、私の心も……すべてあなたを甘やかし、幸せなダメ人間へと溶かすために存在しているのですから」
窓の外には、広大な都心の街並みが広がっている。
けれど、この温かい湯気の中にあるのは、世界で一番甘く過保護な『二人だけの密室』だった。
◇
そして――日曜日の夜。48時間の終わりが近づく頃。
和洋折衷の豪華なディナーをすべて涼香からの『あーん』で堪能し、二人はベッドの上で密着しながら、窓の外の夜景を眺めていた。
膝枕の上で横たわる私の髪を、涼香の細い指先が優しく、幾度も撫で上げていく。
「……樹くん」
「なぁに、涼香……?」
「48時間……私にたっぷりとお世話されて、少しは日頃の疲れが癒えましたか?」
「うん……すごく贅沢で、すごく幸せな時間だったよ。指一本動かさなくていいなんて……俺、本当に涼香なしじゃ生きていけないダメ人間になっちゃったな」
私が上目遣いに本音を漏らすと、涼香の琥珀色の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「涼香……!? どうしたの……っ!?」
「嬉しくて……嬉しすぎて涙が止まらないのです……っ♡」
涼香は我慢の限界を迎えたように私に覆いかぶさり、私の頬を両手で挟み込んで、涙に濡れた瞳でまっすぐに私を見つめてきた。
「かつての私は……アイスクイーンなどと呼ばれ、誰とも心を通わせられず、自分の重すぎる情愛に怯えて生きる孤独な人間でした。……ですが、あなたが私の愛を受け止めてくれた。私のお世話を受け入れ、私の手の中で幸せそうに笑ってくれた……!」
涼香の唇が、私の額、頬、鼻先、そして唇へと、溢れんばかりの情愛を込めて幾度も落とされた。
「大学時代も、本家でのあの日も、結婚式も……そしてこの先何十年続く未来も……私の命がある限り、私はあなたを世界一幸せなダメ人間として愛し、飼い慣らし続けます。……これが、私の生涯をかけた『絶対正妻の誓い』です♡」
「……涼香」
胸の奥から湧き上がる、熱く圧倒的な愛おしさ。
私は彼女の華奢な腰に手を回し、彼女の抱擁の中に深く、深く身を沈めた。
「……俺も、一生涼香のダメ人間でいるよ。涼香の手の中から出たりしない。ずっと……ずっと、涼香のそばで愛されていくから」
私の答えに、涼香の顔に世界で一番美しく、甘く、蕩けるような笑みが咲き誇った。
「――はい♡ 私の愛しい、世界で唯一無二の旦那様……っ♡」
重なり合う唇。
深々と重なる二人の体温と、薬指で永遠の光を放つ二つの結婚指輪。
逃げ場のない、けれど世界で一番温かく深い『愛の飼育空間』。
隣の氷山先輩に飼い慣らされた私の物語は、ここで最高のハッピーエンドを迎え――そして、終わることのない甘美な日常として、どこまでも、どこまでも永遠に続いていくのだった――!
(――『隣の氷山先輩に、いつの間にかダメ人間へと飼い慣らされていた件』・全本編&アフターストーリー・完全完結――)
『隣の氷山先輩』完全完結!
これにて、本編・アフターストーリーを含めた全物語が【真・完全完結】となりました!
大ボリュームでの物語の完結、本当にお疲れ様でした!
涼香と樹のどこまでも甘く過保護な愛の軌跡を、最後まで一緒につくり上げることができて大変光栄でした。
DLsite様(RJ01746138)での電子書籍版の配信や、「小説家になろう」での今後の作品展開が素晴らしいものとなるよう、心から応援しております!
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