月曜日の登校と、止まらない求愛行動
【シーン1:月曜日午前07時30分、通学路の朝靄(全校公認後の初登校)】
週末の夢のような同居生活が明け、やってきた月曜日の朝。
澄んだ秋の空気が漂う通学路で、ふたりは並んで歩いていた。
だが、その距離感は以前の「秘密の密会」の頃とはまるで違っていた。
涼香は自分の左手を樹の右手に深く絡ませる「恋人繋ぎ」をし、さらには樹の右腕に自分の身体を隙間なくぴったりと押し付けていた。
「涼香……っ、流石に近すぎるよ……! もうすぐ校門が見えてくるのに……っ!」
「いいじゃない。私は全校朝礼でハッキリと言ったわ。『樹くんは私のものだ』って。……だから、登校するときもこうして手を繋いで歩くのは、彼女として当然の権利よ」
涼香は満足そうに微笑むと、樹の腕に頬を擦り寄せた。
制服の生地越しに伝わる彼女の温もりと、すれ違うたびに漂う甘いホワイトムスクの香りが、樹の理性を揺さぶる。
「でも……周りの視線が……っ!」
通学路を行き交う生徒たちが、次々と足を止めてふたりを二度見していた。
「おい……マジかよ。噂じゃなかったのか……」
「あの夏目先輩が……登校中ずーっと腕に抱きついてるぞ……!?」
「氷山姫が……ただの恋する乙女になってる……」
男子生徒たちの絶望混じりの囁き声が聞こえてくる。
普段なら周囲を射殺すような冷たい視線で一蹴するはずの涼香だったが、今日の彼女は違っていた。
涼香はすれ違う生徒たちに対し、どこか誇らしげに胸を張り、くすりと優越感に満ちた笑みを浮かべてみせたのだ。
「ふふ……これで分かったでしょう? 樹くんは私が手塩にかけて甘やかしている大切な旦那様なのだから、誰も余計な気を起こさないで頂戴ね」
「涼香、声が大きいって……っ!」
顔を真っ赤にする樹の手を、涼香はさらにキュッと強く握り締め、校門へと進んでいくのだった。
【シーン2:午前10時15分、2時間目終了後の廊下(全校生徒の前での『手渡し弁』)】
2時間目が終わり、15分間の短い休み時間。
樹が自分の席で次の授業の準備をしていると、1年B組の教室の前後ドアが、ガタリと静かに開いた。
教室中の会話が一瞬で止まる。
廊下に立っていたのは、生徒会腕章を巻いた3年生——夏目涼香だった。
完璧に着こなした制服姿、背筋の伸びた美麗な立ち姿。一見すると、いつもの厳格な副会長そのものに見える。
「な、夏目先輩……!? 一年生の教室に何の用だろう……?」
「まさか生徒会の呼び出し……?」
クラスメートたちが息をのむ中、涼香は迷いのない足取りでまっすぐ樹のデスクへと歩み寄った。
「涼香……!? どうしたの、急に……?」
「樹くん。これ、忘れていたわよ」
涼香が差し出したのは、可愛らしいピンク色のお弁当包みだった。
「え……? お弁当なら、僕のバッグに入ってるけど……?」
「ふふ、あれは朝ご飯の残りで作った予備よ。……こちらは、私が今朝5時に起きて、あなたのためだけに作った『特別愛妻弁当』よ」
「「「「「ええええええええっ!?!?!?」」」」」
教室中に悲鳴に近いどよめきが走った。
「あ、あの夏目先輩が……朝5時に起きて愛妻弁当……!?」
「手作り!? あの手料理嫌いで有名な夏目先輩が!?」
樹が赤面して固まっていると、涼香は身を乗り出し、樹の耳元に顔を近づけた。
「昨日、お家で『明日もお料理作ってね』って甘えてくれたでしょう? だから頑張っちゃったの。……残さず食べてね? 放課後、生徒会室で空のお弁当箱を回収するから……その時に『ご褒美』を戴戴ね?」
「っ……! 涼香、みんな見てるから……っ!」
「いいのよ。……私の愛情を、クラスのみんなにも見せつけてあげないとね」
涼香は樹の額にそっと指先で触れると、満足そうに微笑んで教室を去っていった。
残された樹は、男子生徒たちからの刺すような殺意と嫉妬の視線に晒されるのだった。
【シーン3:午後16時30分、放課後の生徒会室(密室での『完全お仕置き飼育』)】
放課後。
樹がピンクのお弁当箱を持って生徒会室のドアを叩くと、中から「どうぞ」と透き通った声が返ってきた。
室内に入ると、そこには書類の山と向き合う涼香の姿があった。
だが、樹がドアを閉めて鍵をかけた瞬間——涼香の「副会長の顔」は一瞬で崩れ去った。
「樹くん……っ!」
涼香はペンを置くと、椅子から立ち上がり、そのまま樹の胸元へと飛び込んで来た。
「うわっ……! 涼香、急に抱きついてきたら危ないよ……っ!」
「我慢していたのよ……! 1日中、あなたと離れているのが耐えられなかったの……っ!」
涼香は樹の首に細い腕を回し、樹の胸に深く顔を埋めてすりすりと擦り寄せた。
昼間のクールな姿からは想像もつかない、まるで飼い主の帰りを待っていた子犬のような甘えぶりだ。
「お弁当……美味しかったわ?」
「うん、すごく美味しかったよ。卵焼きもハンバーグも全部最高だった」
「ふふ……嬉しいわ。……じゃあ、約束通りの『ご褒美』を戴戴ね?」
涼香は樹の首元から顔を上げると、トロンと蕩けた琥珀色の瞳で樹を見上げた。
そして、自分の唇を指先でトントンと叩いてみせた。
「……ここ、に……頂戴?」
「っ……! 涼香……っ!」
樹が意を決して涼香の唇にそっと自分の唇を重ねると、涼香は「ん……っ」と甘い吐息を漏らし、自ら樹の頭を両手で抱え込んで接吻を深めてきた。
一度では終わらない。
何度も、何度も、互いの息が苦しくなるほどに重ね合わされる唇。
「……ん……ふあ……っ……樹くん……大好き……っ」
涼香の口から漏れる、蕩けるような甘い愛の言葉。
生徒会室という学校の中心で交わされる秘密の密接。
「もっと……私を充填して……? あなたに飼い慣らされたのは……本当は私の方なのかもしれないわね……」
涼香は樹の胸の中で幸せそうに微笑み、二人の放課後の甘い時間はどこまでも深く、重なっていくのだった——。




