表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたかないのに陰陽師四  作者: 辻本 真悟
第五章:相坂トンネル大乱戦と最強の留守番パッチ
PR
37/37

エピローグ(後編):ストリート・プロトコル・明日のソースコード

 クソ親父の最低最悪の「夜の営みデバイス」の自白(ログ開示)によって、喫茶「フォックステイル」の一階が一瞬にして絶対零度まで凍りついた後。

 夕暮れ時の気怠い潮風が、一階のドアの隙間から、珈琲の香りと共に親父の煙草の煙をストリートへと連れ去っていった。


「……はぁ。やりたかないねー、ホンマによー。世界史のノート、ちゃんと明日の一限までに写しとけよ、博雅」


「あ、あぁ……分かってる。今回は本当に……色んな意味で、安倍家には恐れ入ったわ」


 世界史の教科書で顔を真っ赤に隠したまま、博雅がようやく世界線のバグから復帰リブートして立ち上がった。智規叔父さんの件、そして源家の内乱という最悪のストリート・トラブルをクローズした実戦部隊の頭は、どこか吹っ切れたような、だけど相変わらず実直な顔で店を後にした。


「じゃあな、晴明、道満。また明日、学校のドメインでな」


 カランカラン、と軽いドアベルの音が響き、博雅の広い背中が夕闇の街へとログイン(歩き出す)していく。


「……なぁ、晴明。うちらも、ちょっとポートタワーの方まで歩かへん? ノートの写し、歩きながらでもええやんか」


 カウンター席でピンクのペンを片付けながら、道満が少し上目遣いで、あざといクエリ(おねだり)を投げてきやがった。


「……しゃあないな。ノートの文字データ、歩きながら俺の脳内OSに同期させろよ」


 俺は気怠くエプロンを外すと、ポケットの中に五芒星のジッポが入っているのを確認し、道満と共にフォックステイルの自動ドアから、夜の帳が下り始めた神戸のストリートへと滑り出た。


 アスファルトが昼間の熱を完全にデリート(冷却)し、冷たい夜風が波止場の方から吹き付けてくる。ポートタワーの赤いネオンが、神戸の海の黒いテクスチャに歪んだ残光をレンダリングしている、最高に気怠くて、どこかヒリついたストリートの夜だ。


「……なぁ、晴明。やっぱり、変わってしもたんやろか、この街も」


 自動販売機で買った冷たい缶コーヒーを両手で転がしながら、道満がぽつりと、寂しそうなパケット(音声ログ)を漏らした。

 

 わかるよ、道満。

 あのチート級の最強のバグ抑止力――酒呑童子(酒井 瞬)がこの世界から消去デリートされて、まだ数ヶ月。そのシステムエラーの隙を突くようにして、姫路を巨大なカモフラージュにした『コレクター』という正体不明の術士どもが、日本の表と裏をひっくり返そうと牙を剥いてきた。


 今回は、我が家の最強の母ちゃん(葉子さん)の七本目解放パッチによって、侵入してきたネズミどもは塵一つ残さず強制終了タスクキルされた。だけど、保憲が言っていた通り、コレクターのボスの本尊(アドミン権限)は、まだこの夜の街の、どこか深いダークウェブの深層アンダーグラウンドに潜ったままだ。


 とある小説の池袋の西口公園で、トラブルを一つ片付けるたびに、次のより巨大な闇のトラフィックがストリートの奥から這い出てくるような、あの最悪にゾクゾクするクソみたいなトラブルシューター宜しく俺達は神戸の掃除屋だ。


「……まぁ、変わるも変わらんもさ。この街のソースコードを書き換える主権(アドミン権限)を持ってるのは、外道のハッカーどもじゃないやろ」


 俺は立ち止まり、冷たい缶コーヒーをごくりと飲み干すと、ポケットから五芒星のジッポを抜き出した。

 カチャ、と夜のストリートに軽い金属音を響かせて蓋を開け、親指でホイールを回す。青白い無色の氣の炎が、俺の冷え切った網膜のOSを静かに照らし出した。


「やりたかないねー、ホンマによー……。でもさ、この神戸のドメインにどんな最悪な特級バグコード(禁忌)が迷い込んでこようが……その都度、俺たちの手で一ビットの残響も残さずに、根こそぎシステム強制終了タスクキルしてやるだけやろ」


「……うん! うちの呪術と、あんたの無色の氣があれば、どんな巨大ノイズも一瞬でデバッグ完了やね!」


 道満が顔を赤らめながらも、爛々と輝く瞳で俺の横顔を見つめ、ピンクのペンをぎゅっと握りしめた。


 酒呑童子が消えた世界の、その先。

 これから始まるであろう、コレクターの残党や、まだ見ぬ新たな暗黒のネットワークとの本気の防衛戦ディープ・デバッグ

 

 俺はジッポの蓋をパチンと閉め、夜のネオンが怪しく輝く神戸のストリートの闇の奥を見据えながら、ふっと気怠く、だけど最高に不敵な笑みを網膜の奥にレンダリングさせていた。


(第四シリーズ『白鷺城のホワイトアウト編』・本編およびエピローグ・完全終了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ