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第二話:トリプル・オーバーライト、あるいは剥き出しのパケット

すいません、あげ忘れていた2話になります。

 放課後。俺と道満、そして博雅の三人は、相変わらず逃げ場のない生徒会室のソファに沈んでいた。

 有世が淹れたハーブティーは、冬の西日に照らされて、毒々しいほど青く澄んでいる。


「……で。炬燵の夢を見ていた俺をわざわざ呼び出したんや。よっぽど面白いバグが見つかったんやろな、保憲」


 俺が不機嫌に指輪をいじりながら言うと、保憲は不敵な笑みを浮かべてモニターを指差した。そこには、姫路城周辺で異常に増幅された「霊的トラフィック」の波形が踊っている。


「安倍くん。……現在、姫路城の神域に『身元不明のアクセス』が継続的に行われとる。葛城の時とは波形が違うが、目的は不明だ。……破壊でもなく、ただ静かに、何かが地脈をスキャンしとる」


「……誰がやってるん? また政府の偉いさんが裏口バックドア作っとるんか?」

 道満が疑わしげに目を細める。


「特務二課は西園寺総理がデリート(更迭)したはずだが……。これが別の政府機関か、あるいは全く未知の葛城の様な『コレクター』のような存在か、今はまだ判定不能アンノウンだ。……だからこそ、現場に直接ログインして、その正体を暴いてほしい」


 保憲はそう言って、俺たちの前に三ノ宮から姫路への往復切符を三枚、投げ出した。


「冬休みの宿題だ。新快速なら一時間もかからない。……姫路城に潜り込み、この不快なノイズの正体を特定してくれたまえ」


「……やりたかないねー、ホンマによー。……新快速のあのガタゴト揺れる箱に揺られて、わざわざ隣町まで出張デバッグかよ」


 俺は投げやりに切符を掴み、隣で「……せっかくの冬休み、温泉デートの妄想が、新快速の通勤圏内に上書きされたわ」と絶望している道満の肩を叩いた。


 なぁ、あんたならどう思う?

 正体不明 of バグ、目的の読めないスキャン、そして冬の冷たい新快速。


「……はぁ、寒い。この温度設定、完全にバグってるだろ」


 生徒会室を出て、三宮の駅へ向かう道すがら。コンビニで買い込んだ肉まんの熱が、剃刀みたいな十二月の風に一瞬で奪われていく。俺は投げやりな足取りで、横断歩道の向こうから歩いてくる他校の女子高生にふと視線を奪われた。

 風に踊る長い黒髪、俺たちの学校にはない、品の良いキャメル色のコート。


「……お、。あのログ、なかなかの完成度じゃねーの。テクスチャの選択が絶妙だわ」


 立ち止まって見惚れる俺の横で、博雅が「……マジでこいつ、終わってんな。この状況で他校のスキャンかよ」と、心底呆れたように頭を振った。

 そして案の定、俺の袖は隣の道満によって千切れるほどの力で引き絞られる。


「晴明! うちと一緒に歩いとるのに、なんで他の子見とんのよ! せっかくの帰り道やのに、あんたの目は節穴か!」


「……ええやろ別に。ただの視覚情報の収集スキャンだって。お前のは毎日嫌でも見とんねんから、たまには違うパッチも当てねーと、俺の審美眼システムが腐んねん」


「なっ……! もう、ほんまなら今頃温泉デートの計画立てて、二人でしっぽり、熱いログインしとったはずやのに……。なんで姫路城の幽霊退治なんて行かなあかんのよ!」


 道満の悔しそうな叫びが、夕暮れの街に響く。俺は耳を塞ぎたくなるような気だるさを吐き出しながら、冷たく突き放した。


「はぁ。俺ら、付き合ってもねーのに、なんで温泉なんか行かなあかんねん。一回しかしてねーんだから、いい加減勘弁してくれよ」


 その言葉が耳に入った瞬間、博雅は「……晴明、お前……。マジで終わってんな、この副会長。救いようがねーわ」と絶望して頭を抱え、天を仰いだ。

 だが、火に油を注いだのは、顔を真っ赤にした道満の絶叫だった。


「一回ちゃうわボケ! あの三時間で、三回もしたやんか!! 何を勝手にログ消去しとんねん!」


 「……ッ!!?」

 俺は飲んでいたペットボトルの茶を、盛大に空中へと噴き出した。茶のパケットが霧となって冬の空に舞う。


「ゲホッ、……ッ!! お前、なんてことを公共のプロトコルで垂れ流してんだわ!! 周りのアクセス制限(他人の視線)考えろよ!!」


「知るか! あんたが都合のええように忘れるのが悪いんやろ! 泣くわ、うち、もう泣くからな!!」


 なぁ、あんたならどう思う?

 三ノ宮の駅前で「三回のログ」を大声で拡散シェアする幼馴染と、泣きながらキレる彼女、そして完全に引いている親友。


「……やりたかないねー、ホンマによー。……姫路に着く前に、俺の社会的ステータスが完全にデリートされそうだわ……」

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